第1話 流れ星
この世界は⸺
どの世界にも属しきれなかったものが、自然に流れ着く場所。
忘れ去られた神話
追放された幻獣
変化に取り残された存在
誰かの夢・記録・噂の残骸
世界の縫い目に偶然できた「幻獣達の吹き溜まり」
皆はこう呼んだ。
⸺集積の残界【オービット】と。
お話はそんな世界の森の中にある、小さなお家からはじまります。
「うわぁあぁん!おなかすいた!
おなかすいたよぉ!お肉が食べたいよぉ〜!!」
ダイニングテーブルに突っ伏して駄々をこねているのは、ウサギの耳に、額には黒い一本角。
人懐っこそうな印象の彼女は⸺アルミラージのミラ。
「お肉ならさっき食べたでしょう」
そう言い放ったのは、同じくウサギの耳を持ち、鹿の角を生やしたしっかりしていそうな女性⸺ジャッカロープのジャックだ。
彼女は食器を洗いながら、呆れたようにため息をつく。
ミラの目の前には、ついさっきまで食べていたであろう肉の骨が、山のように積まれていた。
彼女たちは、このオービットに住む幻獣。
もとは獣の姿だったが、この世界に来るとなぜか人に近い姿へと変わってしまう。
⸺幻獣人、とでも呼ぶべき存在だ。
「もっと食べたい、食べたいの!うわぁあぁん!!」
「あまりそう騒ぐんじゃありません。
ご飯食べさせてないお宅の子だと思われるでしょ。」
冗談交じりに返すも、相変わらず駄々をこねるミラ。
見かねたジャックは、昼用に取っておいた骨付き肉をひとつ皿に放ってやった。
目を輝かせ早速食べ始める。
「なんでジャックちゃんはお肉食べなくて平気なの?
あたしは食べたくて食べたくて仕方がないのに…」
「肉食のミラが珍しいんだからね?
普通、ウサギは草食だから、肉は食べないものよ」
「それいっつも聞いて毎回不思議に思う…。
お肉はこんなにもおいしいのに、なんで~?」
ミラは骨を名残惜しそうにしゃぶりながら言う。
アルミラージはウサギとしては珍しく、獰猛な肉食の幻獣。
なかでもミラはとびきり食欲旺盛だ。
月の満ち欠けで食欲が変わるらしく、昨夜は満月だった。
そんな日は何故か食べても食べても足りなくなる。まるで飢えた獣のようだ。
長身で、アスリートのようにガッシリとしてかつしなやかな体躯。
代謝もいいのだろう。本人にとっては災難だが。
一方でジャッカロープは、角こそあれどほとんど普通のウサギと変わらない。食事ももっぱら野菜だ。
そのとき、窓の外に閃光が走った。
「あっ、流れ星!」
まだ朝方だというのに、空を切り裂くように煌々と輝く一筋。
⸺遅れて轟音。
「…どうやら海の方に落ちたようね」
窓の方から振り返ると、ミラは両手を合わせ必死に「なくならないお肉ぅ!!」と祈っている。
…仮に流れ星だったとしても、願いが届いたところで叶える側が戸惑いそうな内容だ、とジャックは思った。
この世界では何かが流れ着くと、それは何かの形を取って現れる。
今回の流れ星もその類だろう。ずいぶん派手ではあるが。
放っておけば、ろくでもない状態で見つかることもある。
「ミラ。心配だから見に行くよ」
そう言って、ジャックは腰を上げた。
ミラも骨を放り出し、慌てて後を追う。
⸺かくして二人は、海へと向かったのだった。




