第2話 角灯亭
町に着いたジャックは、まず宿屋へ向かった。
宿屋⸺【角灯亭】は食堂も兼ねており、作ったスパイスを買い取ってくれている。
「あらぁ~!ジャックちゃん来たのね~!」
「あっ、女将さん。こんにちは。」
店の奥から出迎えてくれたのは、ミノタウロスのタウラさん。
このお店の女将さんで、大きな角にがっしりとした体つき。表情は柔らかく、快活そうな印象の女性だ。
ジャックはぺこりと頭を下げた。
まだ昼には少し早く、客はまばらで、店内は落ち着いている。
バッグからスパイスの袋を取り出し、カウンターに置く。
「あの。これ、いつものです」
「あらぁ!ありがとうねぇ!助かるわぁ〜!
ちょっと待っててねぇ〜!」
ジャックから袋を受け取ると、中身を確認するため奥へ引っ込んだ。
「そうだ!よかったら仕込み終わったご飯、食べていきなさいな!」
キッチンの方から、よく通る声が響く。
「ありがとうございます。すみません、いつも…」
「いいのよぉ!気にしないの!好きでやってるんだから!
お代も渡すから!ちょっと座って待ってなさいなー!」
タウラは、来るたびに食事を出してくれ、持ってきたスパイスも少し高く買い取ってくれる。
ありがたいことではあるのだが、ジャックとしてはどうにも落ち着かない。
町に住んでいない余所者が、ここまで厚意に甘えていいものかと、つい考えてしまうのだ。
その様子を見ていたのか、タウラがふと声をかけた。
「そういえば、ミラちゃんをさっき見掛けたわよぉ」
席に腰を下ろしかけていたジャックの耳が、ぴくりと前を向く。
「なんでも、街の方から荷物が届いたみたいでねぇ、運ぶの手伝ってるんですって!」
俯きがちだった顔が、わずかに上がる。
「ミラちゃん、ほんといい子ねぇ〜」
「…そうなんですか。
へぇ〜。私も、後でちょっと様子を見に行こうかな」
耳がわずかに弾んでいる。
出不精のジャックとは対象的に、ミラは町に頻繁に出入りしており、すっかり顔馴染みになっている。
町に顔を出せば決まってその話になり、「あの子はいい子だねぇ」と、行く先々で聞かされるのだ。少し鼻が高いとさえ思っていた。
…もっとも、それはそれとして、あまり町に出入りしないジャックに対しての話題がそれくらいなのかもしれないが。
…喜んでいるので良しとしよう。
少しだけ機嫌を持ち直したジャックは、バッグから読みかけの本を取り出し、料理を待つことにした。
⸺そういえば、タマはこの町のどこにいるのだろうか。
ミラの話ではどこかで住み込みで働き始めたらしいが、詳しくは聞いていない。
タウラなら知っているかもしれない。帰り際にでも聞いてみよう。
そんなことを考えていると、料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしましたー!
角灯亭名物、根菜と豆のスパイス煮込みです!」
目の前に皿を置かれ、ふわりと香りが立ち込める。
「あら、ありがとう。」
ジャックは本から目を離し、料理を運んできた相手へと顔を向けた。
⸺向けた。
白い髪に、うさぎの耳。
エプロン姿でにこやかに笑うその顔には、見覚えがあった。
…嫌になるほどに。
「お久しぶりです!ジャックさん!」




