第1話 町へ行く
⸺どの世界にも属しきれなかったもの達が流れ着く世界【オービット】へ、
かつて、何かに導かれるように数多の幻獣達が辿り着いた。
はじめは混乱し、争い合っていた彼らも、
やがて緩やかな秩序を得て、
それぞれの居場所を形作っていった。
森に抱かれた憩いの地、
東の宿場町【ノットルート】
流れ着いたモノが積み重なる、
西の交易街【ベイルラック】
潮の気配を色濃く宿す、
南の港町【カレントスピア】
知を求める者が集う、
北の学術都市【フロストエイン】
そして⸺オルビスの大樹の麓、
遺されたものが眠る中央都市【レムナント】
島の東西南北、そして中心。
それぞれが異なるかたちで、この世界に根を張っていく。
オルビスの大樹を囲むように、
今日もまた、行き場を失った存在達が、
静かに営みを重ねている。
はたしてそれは大樹の意思なのか、
それとも⸺
⸺騒動から一週間。
まるで悪い夢でも見ていたかのように、日常はすっかり平穏を取り戻している。
ジャックは今日も家の作業スペースで、乾燥させた薬草を選り分けていた。
彼女は薬草や素材を採取・加工、木の実やハーブを調合してスパイスを作ることを生業としている。
定期的に町へ出向いては、食堂にはスパイスを、診療所には薬草やその他素材を加工した薬の原料を卸していた。
そのため森の奥、町から程よく距離を置いたこの暮らしは、素材調達の面を踏まえてもジャックにはちょうどよかった。
ミラはというと、町へ出ては道案内や力仕事を引き受け、物品やチップを受け取っている。
今日も出かけているところを見るに、同じように働いているのだろう。
⸺心配だ。
タマも町にいる。
町に引き渡してからのことは分からない。関わりたくなければ知りたくもない。
しかしミラはどうだろうか⸺また、変なことに巻き込まれていないだろうか。
ジャックはその思考を振り払うように頭を振ると、作業へ意識を戻した。
…手元が狂う。集中が続かない。
(あぁっ!もうダメだわ…)
選り分けていた薬草を袋にまとめ、乱雑に引き出しへ押し込む。
代わりに、以前調合しておいたスパイスの在庫と、いくつかの薬草と液体の入った小瓶、干からびた作物のような物を取り出した。
(あの変態がミラに…いや、町のみんなに危害を加えていないか、確かめに行かないと…!)
目立った噂は聞こえてこない。
どんなに真面目でまともに見えたとしても、もう一週間は経っている。流石にボロが出る頃だ。何も起こしていないはずがない。
気づけば、足は外へ向いていた。
こうしてジャックは、
不安を払拭するように、町⸺【ノットルート】へと向かったのであった。




