第13話 お家に帰ろう
しばし、奇妙な沈黙が流れる。
その間も二人は黙々と作業を進めていた。
海の方角から流れてくる潮風だけが、静かに吹き抜け、
森の木々は、何事もなかったかのように穏やかに揺れている。
そうして二人は、腰の高さ程度に掘った穴にタマだったものを入れ、静かに土を被せた。
「まさか、こんな犯罪まがいの経験をするなんて、思ってもみなかったわ…」
一仕事終えたジャックは、シャベルに顎を乗せ、大きくため息をつく。
そのままにしておくわけにもいかず、結局、証拠隠滅のように埋めることになったのだ。
もっとも、被害者が生きているこの状況、何の証拠なのかは不明なのだが。
「まぁまぁ。穴掘りは、ボクらウサギの専売特許じゃないですか」
悪びれる様子もなく笑うタマに、ジャックは再び深いため息をついた。
気づけば、辺りはすっかり暗くなっている。
ミラは疲れ切ってしまったのか、近くの木の根元で静かに寝息を立てていた。
「…正直、もうアンタとは今後いっさい関わりたくないんだけど」
ジャックは疲れた声で続ける。
「放っておいたら何をしでかすか分からなくて怖いし…。明日、町まで案内してあげるから。住む場所と仕事、探して…」
「ホントですか! ありがとうございます! 助かります!」
タマはぱっと表情を明るくし、ぺこりと頭を下げた。
「正直、知らない世界にいきなり放り出されて、はいさようなら、はさすがに心細いですからね…」
心底ほっとしたように笑う。
⸺調子が狂う。
このウサギ、あの異常行動さえなければ、礼儀正しく真面目な少年としか思えないのだ。
「…とりあえず、今日はもう遅いし…仕方ないから泊めてあげる」
そう言ったあと、ジャックは勢いよく顔を上げた。
「けど!! ミラには絶対近づかないで! 二階にも上がらないで! 床で寝て!!」
ミラには、本当に近づいてほしくなかった。
もう一切、関わってほしくない。
確かに、暴走を止めてくれた恩はある。
けれど、それとこれとは話が別だ。
あんな光景を見せられて、平気でいられるわけがない。
とにかくもう、二人を関わらせたくない。
そんな気持ちばかりが、ジャックの胸の中で渦巻いていた。
「大丈夫です。もう、十分ご迷惑をお掛けしてますから。」
タマは落ち着いた様子で答える。
「ボクみたいな余所者、泊めていただけるだけでありがたいですよ」
そして、丁寧に頭を下げた。
「何から何まで…ありがとうございます、ジャックさん」
月明かりに照らされた純白の髪が、淡くきらきらと光る。
「この世界に来て⸺最初に会ったのが、あなたで良かった」
⸺あぁ、調子が狂う。
なんなんだ、コイツは。
ただ、多分。
彼の中で迷惑に含まれているのは、この世界に来てからの騒動だけなのだろう。
…あの惨劇の事は、綺麗さっぱり抜け落ちている気がする。
「…私、もう、疲れた…」
ジャックは感情の高低差に頭を抱えたまま、長い道のりを帰るべく、ふらふらとミラを起こしに向かった。
⸺血と土にまみれた奇妙な三人は、重い足取りで森を進む。
夜の森は、不気味なほど静かで、
響くのは、土を踏みしめる音と、荒い息遣いだけ。
一人は、疲労の中で明日を思い憂い。
一人は、微睡みの夢の中に業を宿し。
一人は、新たな世界に不安と希望を抱く。
ほんの少し欠けた月は、ただ静かに。
⸺ただ静かに、三人を照らしているのでありました。




