解除
「待ちなさい、ユウシン君! 話を聞いて!」
シズクの叫びを背中に受けながら、僕は必死で脚を動かした。
(テロ対策室……? 保護……!? 嘘つけ! 誰がそんな言葉信じるかよ!)
ハルトのような奴らがうごめくこの狂った状況で、いきなり現れた「警察」なんて肩書きを鵜呑みにできるわけがない。マロンを渡せば、二度と戻ってこないかもしれないのだ。
だが、非常階段を駆け上がった先は――無情にも、ハッキングのノイズで扉が固く閉ざされた行き止まりだった。
「くそっ……! 開け……開いてくれよ!」
バァン、と扉を叩くがビクともしない。
振り返ると、階段の踊り場からシズクと、恐ろしい威容を誇る蛇型アイブ『オロチ』が静かに登ってくるところだった。
「もう逃げ場はないわ。言ったでしょう、私はあなたたちを保護しに来たの。素直に従いなさい」
「ふざけるな! マロンは僕の相棒だ……誰にも渡さない!」
僕はマロンを背中に隠し、シズクを睨みつけた。
だが、戦力差は歴然だった。知能が落ちたマロンでは、あの巨大な蛇に勝てるわけがない。
(どうすればいい……? どうやってマロンを守れば――)
その時だった。
『……チ……チチ……』
足元から、耳障りなノイズ音が響いた。
見下ろすと、空間の亀裂からヌッと現れたのは、ツギハギだらけの『黒い人形のアイブ』だった。
感情のないボタンの目が、じっと僕を見上げている。
黒い人形はゆっくりと腕を伸ばすと、その小さな手から、ズシリと重い【漆黒の鍵】を僕に向かって差し出してきた。
「な……んだ、これ……?」
『……挿セ……。ソノ鍵ヲ……ソノ犬ニ……挿スンダ……』
頭の中に直接響くような、不気味なノイズ混じりの声。
「ダメよ、ユウシン君! その鍵に触っちゃダメ!!」
シズクの顔色が劇的に変わり、叫ぶように制止する。
「その黒い人形は……ハッキングの黒幕側の端末よ! そんな正体不明の鍵を刺したら、その子のデータがどうなるか分からないわ!」
「黒幕……!?」
シズクの言葉に、手に取った鍵が冷たく重く感じられる。
刺せば、マロンの記憶が完全に壊れてしまうかもしれない。でも――刺さなければ、今ここで捕まり、マロンを奪われてしまう。
「ユウシン……? なんだか、胸がくるしいです……ワン……」
腕の中で、マロンが弱々しく僕の服を握りしめていた。
背中の黒い南京錠のマークが、悲鳴を上げるように明滅している。
(くそっ……! 頼む、マロン……耐えてくれ!!)
選択の余地なんて、最初からなかった。
僕は歯を喰いしばり、黒い鍵を握り直すと――シズクが手を出してくるより早く、マロンの背中の『鍵穴』へ一気に突き立てた!
カチリ――。
冷たい金属音が響いた瞬間、マロンの体内から、世界を塗りつぶすほどの不気味な黒い光が溢れ出した――!




