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絶望の連鎖④ ― 貴方は皆の宝箱

◇◇◇

 【鎮海の王墓】


 心臓の鼓動と、水の流れる音が耳を撫でる。

 暗い海の底から、上を見上げればきらりと輝く日が水面に揺れた。

 

しかしその光は深く深くの海底を照らすことはできない。

 あまりに眩しいはずの太陽の光は、海が小さな日差しに変えてくれる。

 

プレボス会議からそのまま来たから人型のまま。

 

 そんな光を透かすように、人の手を目の前に置く。 

 手足のコントロールを手放し、ただ海に漂うように


 俺、シャチはいた。


 

 

 はぁ。ついにイベントか


 あともう数分? そうか。


 分かったとしても、体は動かない。

 あまりに心地のいい、この海の浮遊感はそう簡単に俺を自由にしてくれなかった。


 

 そしてルナオンのすごいところは、これほど現実に則した世界でリアルそっくりなのに、この感覚が現実では一切湧き出ないことだ。


 ここでは死は許容できるが、現実ではちゃんと死ぬのは怖い……と言えばいいだろうか。


 現実で考えれば仰向けの体勢だと水上に行くはずだが、

 ルナオンだから、そんなの関係ない。


 俺が法則!

  

 陽の存在が入ることの出来ない絶対領域。

 この、なんとも薄気味悪く、ジメジメした場所が……


 ものすごく安心するんだ。


「これが、ゲームという特別な世界……!」

 


 すると、突然背中に何かの圧力を感じる。


「お」

 それは段々強くなる。


 仰向きに寝転ぶようにあった俺の体はすぐに起こされてしまった。


「トーか」


 淡い水色の小さな“シャチ”。

 俺は振り向き、そこにあった頭を撫でる。


 俺のコピー対象?だったボスだ。


「あー、分かったよ。さすがに準備しないとまずいよな」



 スイッチを、入れなくては。 




 

 その瞬間だった。


 ドクン


 痛く心臓が脈打った。


「あれぇ?なんで人がいるのかな?」


 水中のこもった声が後ろから聞こえる。

 女の……声

 

 まさか


 俺は静かに振り向く。



 茶髪の肩まで伸びたツインテール。フリフリ、可愛さを詰め込んだ装備が目を奪う。


 スマホのようなものを口に当て、少し怪訝そうな顔をしている。

 

 まさか、プレイヤーか?

 俺は後ろに下がり距離を取る。

 信じられないものを見るかのように目を見開き、そいつを見つめた。



 

 まだ……イベントは始まっていない。


 それに、まだシャチの姿になっていないのに……!

 

 そいつはスマホ?をしまうと、

 頬に指を当て、頭を傾げる。

 

 視線を流し、トーをチラリと確認して、また俺に顔を向ける。

 

「ふーん、イケメンじゃん。

 ……あんたも仲間?いやでも、彼が顔合わせさせない訳ない」

 

何故か……声が出ない。


「あんたなにも――」



 

 

 ビー

 【??ボスイベント】開始!!



 


 そいつが言いかけた時、その通知が走った。


 そして俺の頭に、


 タイダル・オルカの文字が。


 そいつは驚いたようにそれを見ると、途端に吹き出し笑いだした。


「あ、あー!なんだ!あんたがボスだったの?やーだ無駄に緊張しちゃったじゃーん!

 ズルして早く来ちゃった弊害かw」


 くるくると周り、水中を自由に泳ぎ出す。それはまさに喜びというやつだ。


 しかし、またピタリと止まる。


 両手を掲げるように伸ばしたまま頭だけを振り返るようにこちらに向けた。


「あんた、シャチのボスだったよね。なんで人型なわけ」


 その瞬間、意識が戻る。

 息が上がり、一気に――焦りが溢れてくる。


  

 なんで、なんで?

 準備できてない時に来るんだ。これはまだ、秘密にするはずなのに。


 予想外のイレギュラーに頭も、視界も真っ白になる。

 

 このままじゃみんなに、迷惑かける。

 ダメだダメだ。


 これから、イベントなのに……!


 そう……イベ、ント――





  

 あ 



 そうか、イベント中か。




 


 カチリ





  


 そうだ。今はイベント中だったな。

 愚かでも、俺が失敗を犯したとしても、プレイヤーの相手をしなくてはいけないのだ。


「黙れ」


 海にビリリと、緊張が走る。


「……っ!」


 

「時間前にくるとは礼儀がなっていない。どうやって来たのか」


「え、へへ。すご」


「答えろ」


 しかし、そんな時間はなかった。



 ドボン


「!」

 この音は他のプレイヤーが入ってきた証拠だ。


 俺はまた海を操り、流れをおこす。


 こいつから距離を取る。


「あっ、まっ――」


 そいつは手を伸ばそうとした。

 なんだこいつは。何様だ?


 もういい。早く、ボスにならなくては。


 海の底に立ち、顔だけをそいつに向ける。


「粛正だ」


 するとトーが俺とあいつの間を泳ぐ。


 あいつの視界の俺がトーで一瞬隠れる。


 しかし、次に現れたのは、


「?!」


 シャチの俺だ。


「居たぞ!タイダル・オルカだ!」

 次々にプレイヤーが現れる。


 海の主は唸りをあげる。

 ボス戦の始まりだ。 


 いいだろう、まとめて相手してやる。



 しかし 


「かっこ……いい」

 そいつはボソリとそう言った。


「はー、まじか。適当に選んだやつなのに、こんなにかっこいいなんて聞いてない。さっきの人型もそうだし、何その変身の仕方。普段は尊大な王様って感じなのに、そんな派手な演出もなく、静かに……」



 な、なんだ?ご

 そして、やつは手を伸ばす。手のひらに光が集まり、うごうごと蠢く。


「そんな、そんなにメロすぎなんて




 ……ずるい!」



 そう言った時



 その光から鎖が飛び出て、俺目掛けてやってくる。


「!?」


 あまりに突然な事だった。


 俺はすぐにその鎖を回避したが、それでも追いかけてきた。


 追跡、してきた。


 やがて、それは俺のヒレを絡め取り、そのまま全身を拘束した。


 これは……!


「こんなことをしてただで済むと思っているのか!!!」


 ドスの効いた、ボスの怒鳴り声が海全体に響き渡る。

 

「うわ!映えだ映え!」


 とろんとした顔でスマホのカメラを、やつはこちらに向ける。

 

 その中俺はガチャガチャと鎖を鳴らし、何とか力で解けないかひたすら暴れた――


 


 だが無駄だった。


 それにこの鎖は、


「ロックろっくのパーティーのスキルをコピーしたんだよん。きっと印象に残ってるだろうから、特別に仕入れてきたんだぁ~」


 は?コピー?

 

 気になるところはいくつもある。

 だが、それだけは聞き捨てならない。


 その存在は、あれ以外このゲームには存在しないはずだ!


「へへ。こういうのをチートって言うんだ~」


 チー……ト?


「さっきの人型だったら危なかったなぁ。ちょっとえっちになっちゃうとこだった!」


 もじもじとしながらもやつはこちらに近づいてくる。



「ああ、素敵。まさにあなたは宝箱ね」


「あ?何を言っている」


「分からない?見てみなさいよ。この周りを」



 俺はハッとした。

 そう言われて、見上げた先には多くのプレイヤーが呆然とその様子を見ていた。


 やつが使ったのは入手は困難だが、確かに存在するスキル。

 チートだなんて夢にも思わないはずだ。


 そして、俺は同じスキルに二度も食らった間抜けなボスに……なっている。


 彼らが放つその視線には、好奇心が混じっていた。


「あなたはあたしたちプレイヤーがこのゲームの秘密を知るための夢が詰まった宝箱なの」


 ま、まずい。



「これは、バズること間違いなしね!」


 周囲のプレイヤーはどんどんこちらに近づいてくる。


 こいつは他のプレイヤーも味方につけるのか?



 クソ、 

 奴らが欲しいのは情報か?

 育からの連絡はまだか?

 お、俺は……どうしたらいいんだ!

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