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絶望の連鎖③ ― 星空の女神石像

◇◇◇

 【星祈の天廊】


 ああ、楽しみにしていた時がやって来ました。

 イベントボスとして戦う。


 それがとても楽しい。


 あまりに美しいアバターに、鬼つよステータスやスキル!

 何より……何をしてもいい。


 ただ、疲れたから三日月に持たれるように座っても、他人の目からはただの憂いを帯びた美女。

 中身はただのずぼらなだけなのに!

 

 さすがルナオンの運営さんですわ!




 って言うつもりだったのですが。


 イベントが始まって直後。

「な、なんやこれ」


 地面にピタリとくっつき、簡単に外れない。

 パキパキと嫌な感触が足全体に広がっていく……


 一歩も動けません。


 静かに視線を下げる。 

 そこには無機質な石になった私の足がありました。

 ゆっくりと、しかし確実に、それは私の体を蝕んでいく。


 さっきまで足裏だった石化がもう足首にまで到達していました。


 

「あっあああの」


 戸惑っていた私に、どこかから声がかかりました。


 そこに居たのは自信なさげに背を曲げ、手をモジモジと弄っている一人の男性プレイヤー。


「す、すみません!すみません!」



 なぜか必死に謝ってくる。

 その姿が……、なぜか癪にさわりました。


「何やあんた。何を謝っとるん。

 うち、こんなスキルが存在しとるなんて知らんかったわ。どこで手に入れたか教えたってや」


 髪を風にのせ、サラリと流す。

 鋭く尖らせた視線を相手に向けるために。

 


「すみません!あの、チートなんです……」


 え?


 帰ってきたのは予想にしていなかった答え。

 

 あはは。

 こいつは一体何なのでしょうか?

 チートですって?

 名前は知っている。リーダーが、それはとても悪い事だと言っていた記憶がある。

 

 そう、謝るぐらいならやらなければいい。自分勝手とはこのことなのかしら?


 しかし時間はない。なぜならもうふくらはぎにまで石化が来ている。


 それに……


「え?あれってクロヅル?」

「何?どうなってんの?」


 プレイヤーも集まってきた。



 なんでしょう、もうめんどくさいですわ。


「こんなことしてもなぁ。何にもならんと思うで」


「それは……そ、どうなんでしょうか。僕は誘われて、それに乗っただけなんですけど」


 は?


「これがどんな結果を産むか分かっています。でも、そんなもの関係ない。ただ、この一度きりのチャンスを、味わいたいのですよ」


 その目はこちらを見ているのに、私を見ていない。

 自分の世界に閉じこもっている方だ。


 穏便にいけそうにない。


 私は武器である槍【ノクタピア】を手に持ち、地面を砕く。


 既に動かぬ足を残りの筋肉で持ち上げる。

 しかし、地面に足を付けておくと、石化は地面にまで及びました。


 つまり、このままだとまた動けなくなってしまう。

 なので空を飛びました。


 蜘蛛さんのように自然には浮けません。

 私はツルなので翼を出して。


 後ろ髪を持ち上げ、外に大きくはらう。

 開く背中から、二枚の羽が現れた。

 

 夜空の深い青が溶け出し、フィールド全体に銀のラメが、まるで星の砕けた破片のように舞い散る。

 

 その瞬間、夜が揺れた。

 それはまるで、銀河の最も美しい部分を切り取り、人の形に仕立て上げたかのようで。


 その場にいる誰もが、その人外の美に、言葉を失った。


  

 一人を除いて

 

「美しいと言う言葉では足りない。

 まさに運営の最高傑作。

 女神という言葉がふさわしい」


「え」

 私は思わずギョッとしてしまいました。なぜなら彼は涙を流していたのです。


 本当に、分からない。

 そこまで、褒めてくれるのであれば、普通にプレイして、楽しんで欲しかったです……。


「ほんなら、女神のいかずち?いうんをやってやりましょか」


 そして、私はノクタピアを上に上げ、下に思い切り下ろす。


 大技の合図。


 なのに……



「な、なんや?なんでや、なんで何も起こらん?」


 煌めく星は私に反応してくださらなかった。


 私は色々な技を試しました。

 でも、何も出ない。


 どうして?


 何も出来ない手を見つめます。

 私は何も出来ないことがとても怖いと思いました。


「あ、えっと、これもチートってやつでして」


 チート。さっきも言っていましたね。

 リーダーが昔言っていた気がする。

 このゲームの最初期に「出まくってたー!」と。


 でも私は何も分かりません。あなたが何を言ってて、なにをしているのかなんて。


 今まで平和な、ルナオンで、がむしゃらにやってきた証拠でしょうか。


 私は幸せ者だったのですね。



 ガクンッ


「……っ!」

 気づいたら石化は腹から、さらに羽の根元にまで来ていました。


 その影響で飛行が不安定になってしまった。


 高度は下がり、地面に近づく。


 終わりが近い。

 石化を止める術も、彼を倒す方法もない。


 石化が胸前まで来て、羽が3分の2固まり、私は地面に落ちてしまいました。


 私の体の石は地面と交わり、この体を固定する。


 嫌だ。苦しい、苦しいわ!





 

 結局、私はどこに行ってもダメだったのかもしれません。

 

 でも幻翼のクロヅルはクールだから、こんな時でも慌てることはできない。


 それが、今の私に守れる唯一のこと。


 リングは、大丈夫でしょうか?

 モンスターとしてのツル。あの美しくて、私には冷たい子。

 でも、私はあなたが可愛くて仕方ないの。


 どうか、誰にも見つかりませんように。


「……くっ」

 

 石化は顔を避け、頭を通ってきた。


 髪も含め、完全に固まる。


 もう、ピクリとも動くことができなかった。


 

 ああ、視界が段々と閉じていく。


 他のみなさんは無事でしょうか。

 こんなやつ、来てないかしら。


 あの人は、無理してないかな。


 目から一筋の涙がこぼれる。

 しかし――それすらも一部となった。


 私は完全に


 石になりました。



――


「ああ、ああ!これが、完璧?いや、伝説。国宝、芸術、宇宙、宝石……女神!」


 クロヅルに会いに来たプレイヤーは皆固まった。

 目の前にあるのはボスの形をした石像。それは普通におかしなことのはずなのに、その光景に衝撃を受けざるを得なかった。


 まさに、美。

 この世の言葉では言い表せぬ、まさに夜空の天女。


 しかし、皆同時に思う。動いていたならもっと美しいだろうと。


「お前、幻翼のクロヅルに何したんだ?」

 一人のプレイヤーがチーターに近づく。


 しかし、

「ひっ、来ないで」

 と言うと、ツルの石に近づいた。


「この最高傑作をつくりにきただけですよ」


 そして、その前に跪き、崇めるようにその石の塊を見上げた。


「まさに女神だ!」


 見ていたプレイヤーはその光景を見て察する。この状況は普通では無い。


「つ、通報しなきゃ」


 一人が呟く。それを聞いた別のプレイヤーも同じようにし、連鎖的に皆通報ボタンを押した。


「意味ないのに」

 ねちょりとした笑顔。


 勝ちを誇ったようだった。


 そして、手を伸ばす。

 目の前の、女神像に。


 その時だった。


 バシンッ


「うわっ」


 伸ばした手が何者かに払われる。

 その勢いでチーターは横に転がっていく。


「な、なんだお前!」

 

 バサリと、翼が音を立てる。羽が流れ星のように落ちる中、ボスの肩に何かが降り立った。

 


 クロヅルの羽を持ち、その色をさらに深めた、漆黒の夜。


 鋭い眼光を宿しその翼を伸ばす、その正体は


 モンスターのクロヅルだった。


 

 ――



 

 偽の力で、他人の邪魔をする。

 ただの私欲での行動。


 私はそれに負けてしまったの……?


 まるで硬い床に押し付けられてるような感覚。


 とても寒い。


 どうして私はここにいるの……?

 外はどうなっているの?


 

 誰か……ここから出して……

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