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絶望の連鎖⑤ ― 趣味が合わない

◇◇◇

蜃気楼の渓谷迷宮


 

 今日はまさに良い天気。

  プログラムが描画した淡いみどりの空は、どこまでも慈悲深く私を照らしている。

 

風にそよぐ緑の息吹。

 陽光を砕いて煌めく噴水の飛沫。

 そして、白亜のガゼボで優雅にティータイムを楽しむボス――。

 

 え、中華風なのにティーカップ?

 うーん知りませんね。



  

 迷宮の主「ミラージュヴァイパー」のイベントは静かに始まった。

 

 

 そう。ここは私の理想が詰め込まれた細部まで完璧な舞台装置。大好きなルナオンを詰め込んだ理想郷。


 だが。



 不意に陶器のぶつかる硬い音が静寂を切り裂いた。

 手に持つティーカップをガチャリと叩きつけるように置く。


  

「……プレイヤーが、来ない――!」



 なんで……なんでこうなってしまったのか!!!

この迷宮だって、ルナオンのこと知ってるなら誰だっていけるはずなはずなのに!!!!


 この迷宮はそんなに難しいのだろうか。



  

よし、一度整理してみようか。


 えー、まず私がこのステージで作ったのは――


 ルナオンのステージ、またそのボスの幻影そしてそれを繋ぎ合わせた迷宮。


 歩く度にステージが切り替わり、そこに出るモンスターも変わる。


 しかし、これはひと握りでもステージ、ボスの攻略を知っていたら攻略できる。


 なのに!!!


 ティーカップの隣に今度は右手を振り下ろす。

 どがんと音がなり、テーブルの上に乗っていたものはほんの少し宙に浮く。


手は少しばかりジンジンするが、それ以上に、握る拳に爪がくい込んだ。 

 

 なんだ?最近のやつはそんなことも考えず、バカに突撃してるとでも?


 愛があれば誰だってーーー涙


 目をパッと開く。

 上がる息を落ち着かせるべく、深呼吸を開始。 


 フー……フー……。


 力の入る拳をパッと緩め手を組み、全身を伸ばす。


「ぐっ……はあ」


 こういう時はつい興奮してしまう。

 これは私の悪い癖だ。


 そうだ。落ち着いて考えたら、別に私のフィールドが難しいなんてそんなことは無い! 


 だって、実際迷宮をクリアして、私の元にやってきたプレイヤーもいるではないか!


 

 そう!


 このゲーム最古参で!武器の扱いが逸品で!逃げ足が、早くて……今だ0デスを守り……続ける……


 て、てるてる……





 


 

 やはり、難易度を下げるか……


 私は泣く泣くウィンドウを開く。

 最高傑作を、愛の詰まったフィールドを手直ししなくてはならないのか……。 


 

「やはりまずはボスのレベルを下げるか」


 ドォン


「だがぁ!今でも譲歩している」 


 ドガァン


「あ、そういうことではないんだった」

 

 ドバァン


「はあ。何から手をつければいいんだ」


 ガァーーーン


「……!」


 後ろの茂みが突然爆発する。

 ヒラヒラした髪や服の装飾は勢いに押され、思わず体勢を崩すところだった。


 一体なんだ!!

 っとイライラしている時、普段なら叫んでいただろう。


 


「っち。なんだよこの迷宮!クソステだな!二度とやりたくねえわ!」


 

 そう口にし、草木が弾け飛びできた穴を跨いで、誰かが中に入ってくる。

 そこは、ボス部屋への入口ではない。


 

「……」

 プレイヤー?


「ようやく、ボスとお見えか」


 ツンツンとした赤い髪に少しパンクな装備品。

 偉そうに剣を肩に担ぎ、私を睨みつける。


 こいつ……どうやって入ってきた?

 うーん。


 やはり――バグだろうか?


 ドクン


 顔を急いで下げる。にやけ顔を見せる訳にはいかない。



 

 相手の舌打ちの音がものすごくうるさいが、わかったことがある。



 あれはどう見ても、ランカーでもてるてるでもない。


 つまり!一般のやつでもこの迷宮は通ることができる!


 よし直さなくていいな。



 服についた埃をパンパンとはらい、佇まいを直す。

 

 心は賑やかに、外面は穏やかに。 

 右手を腹に、左手を背に。

 

「こんにちはプレイヤーよ。どうやってそこから入ってきたのか、教えてくれるかい?」


「あ?だるいだから突っ切ってきたんだよ。途中まで真面目にやってたのにいくらやったってたどり着かねえんだから」


 

「突っ切る……とは?」


 私は頭を傾げ、そう聞く。するとプレイヤーは意地悪そうに、そして嬉しそうにニヤリと笑った。

 

「言葉通りだよ。壁を、そのまま、突っ切った」


 

 はっ、もしかしてそれは……

 バグだぁぁぁぁぁぁ!!!!


 バグ!

 バグはルナオンのお茶目なケアレスミス。

 そんなのがあるだけで可愛い。それが、私のフィールドであるなんて……

 今回のは普通壊れないはずのオブジェクトが破壊できた、そんな感じか?

 

 ちょっとちょっと!だめじゃない!

 

「申し訳ないな。それは私の迷宮の不調かな」

ドキドキドキドキ


「え、いや違うが」


「ん?」

「ん?」


 シーン……

 

「え?」

「あ?」


「え、じゃあどうやったの?」


「ち、チートだよ!」


「ちーと?」



 ti-……to? 

 ちーto?

 ちーと?

 ……チート?


 チート?!?!


 まっまままさかああああのチートさん!?


「なんでも壊せるんだぜすごいだろ。って、モンスターにチートつったって、なんの事だか分からないだろうがな」



  

 始める前に栄え衰えたあの?

 もう見ることはできないと諦めていたあの???


 ルナオンのバグ、いや違うな。ウイルスみたいなもの?


 ルナオンの一時代を気づいた力か。

 私の顔は今あほ面をかましているだろう。

 いやだな、それでも許せ。


 


 すっかり黙りこくったのを見て、プレイヤーは少し満足そうだった。


「へっ。この程度でビビるか。やっぱり面はよくてもコンピューターってもんだな」


 私はすぐに顔を上げ、軽く微笑む。

「おやおや、手厳しい。さすがに決められたルールを破られるとは思わなかったよ」


 

「……思ったより余裕だな」


「……?」


「んだよ……、もっとビビれよ!もっと怖がれよ!!何余裕ぶっこいて笑ってんだ」

 


 さっきまでのご機嫌な様子から一転。顔に怒りを滲ませ、今にも爆発してしまいそうだ。


 こいつは一体なんだ?

 あまりにバカで哀れ、自分都合なお子様。


 そう思ってしまった。私の目には同情が溢れてしまったんだ。



 カッとなった彼は怒りに浮かぶ。


  


「もういい。後悔しろよ」


 奴は手を前に出しパンと1拍。

 

「な――」


 ガシャン


その合図が鳴り響いた瞬間、私の上から鉄の檻が落ちてくる。


 地面に着いた瞬間衝撃を撒き散らし、周囲の草花を荒れさせる。


 私は腕で顔を覆い伏せる。


 顔をあげると、優しい大地の感触はなく、目の前には無機質な鉄の棒。

 

「へっ。どうだ蛇野郎!」


「まいった。こんな方法があるとは」


 どこから来た?全然気づかなかった。


「壊せねぇぞ!それは兄貴お手製の最強檻だからな!いや、だがやっちまったな。もうちょっとボコボコにしてからやるつもりだったのに。まあしゃーねえか」


 ……。

 私は静かに己を覆う檻に触れる。


 ザワッ――


  

 突然空から現れた謎の檻。一見簡単に壊せそうだが。


 なんてことだ。


 こんなの見た事ない……あまりにぐちゃぐちゃな設定。

 

 私は静かに拳を握る。

 限界まで後ろに下げ、全力で檻を殴る。


 ガキィン


「……っ」


 返ってきたのはあまりに鈍い金属音。

 弱体化を受けたとはいえ、ダメージ一つ入らないとは。


「ははっ無駄なんだよ!そんなことしたってこいつは壊れねぇ」


 静かに下を向く私を、さらにこいつは責め立てる。

 檻に手を置き、上から覗き込むように。

  

「ほら、早く泣きわめけよ!助けてくださいってなぁ!」

 


「ふっ」


「あ?」


「ふふふふふふふふ」


 

でも、そんなに恐ろしいものなのか?

 


「お、おい?」


「あははははははは!!」


「?!?!」


 突然の笑い声にプレイヤーは一歩後ずさる。


「まさか!ここでこんなすごいものを見ることができるなんて思わなかった!この檻は一体何出てきている?素材は?製作方法は?まさかこれも無から生み出したもの?存在自体が分からない、分からないんだ!」


「な、なんだよお前!怖くねぇのかよ、悔しくねぇのかよ!」


 檻から少し離れたところで何かが叫び喚いている。

 

「怖い?悔しい?どこが!!!これはこの世界の一面!この私が知らない未知の存在!そんなの、是が非でも触れたいではないか!」


 私は檻から手を伸ばす


「他は?他はないのか?まさか1個だけではないよな?早く!早く見せてくれ!」


 思わず興奮で息が上がる。

 だって!目の前に、触れることができなかった存在がいるなんて信じられるか!


 しかし、プレイヤーの顔は少し引きつっている?

 

「お前ぇ、気持ち悪い……」

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