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Muse Night   作者: 狐
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17/23

潜入と自殺願望と動き出すジョーカー

もうすぐ一年ということでそろそろクライマックスも近くなってきました!ここから怒涛の伏線回収してくよ!!


安定の最長記録更新

 夕暮れ時の穏やかな日の光が、ダークブラウンの室内を穏やかに照らした。〈Cafe melt〉では、組合のメンバーが再び集まっている。

「皆さんお揃いのよう……失礼、夕澄氏は不参加でした。私からひとつ宜しいでしょうか?」

 サングラスを掛けた金髪の男は片手を挙げ、そう尋ねた。

「実は、我々が前々から探していた“連続ディーク召喚事件”に関係する人物が見つかりまして……」

 そう話しだす彼の前で、ハルは先日のシュウとの会話を思い出す。


 彼は『三枝《さえぐさ》徹《とおる》』と名乗る男だ。リーダーのラミアからトオルと呼ばれるこの男は、志柄木という元リーダーの秘書であるという。志柄木さんが亡くなったすぐ後に加入したメンバーであるために、須藤刑事は警戒しているのだろうか?ハルは、トオルの表情を伺うように見つめる須藤刑事の姿を確認し、そう推論した。

『それは須藤刑事がGPSで追跡してた奴か……?』

「ええ、あの時は逃げられたと聞きましたが……。やっと尻尾を掴めました。手許の資料をご覧下さい」

『えー、〈ラウン・ボルゾー〉……。この名前のヤツはここに書いてる住所に居るのか? 裏付けは?』

 疑問を抱くミューズに、テーブルの向こうから刑事の声が響く。

「警察の方でも調査したが、コイツで間違いない」

『それならいいんだけど……』

「私からは以上です。さて、どうします?そこに攻めいるなら二手に別れるべきだと……」

『はァ!? もしもソイツが複数のディークノアを率いてるとしたら!?』

「その為の二手ですよ? それ自体を囮としてこちらに攻め込まれる危険性がある。それを踏まえて、事前調査のためにも二人ほど向かわせるべきかと思いまして……」

『ぐっ……。誰と誰を向かわせるつもりだよ? なるべく安全に行くべきだろ……』

「それなら、砂海氏とフィリップ君が賢明かと。ここ一番の突破力において、彼らの右に出る者はいませんから……」

 トオルはそう言うと、フィリップと砂海を交互に見据えた。彼らはお互い苦い顔をしながら頷いた。

「では、今度こそ私からは以上です」

「じゃあ明日の朝に作戦を決行する。フィリップくんとキミヒト以外のメンバーは有事に備えて待機。それでいいわね?」

 ラミアの提案に全員が頷く。


「ハルちゃんとミューズ……。ちょっと俺のところに来てくれ……」

 会議が終わって各人が思い思いのことをする中、須藤刑事がハル達を呼ぶ。

「須藤刑事? なんですか一体……?」

「実は、ある“作戦”があるんだ」



 この季節のアルカトピアは日の出が早い。ミルク色に染まる空をバックにそびえ立つのは、『幽霊屋敷』と噂される洋館である。

 高層ビルが立ち並ぶ中央エリアから少し外れた場所に建っている時代錯誤な風格に、フィリップ・ランスローは故郷の風景を思い出さざるを得なかった。

「おい小僧、大丈夫か? 顔が青いぞ……?」

 後ろに立つ男は、サングラスを外しながら慎重にバイクを停めた。帰りがスムーズなように、道端の小石を足で払い除ける音が響く。

「……にしてもアジトにしては目立ち過ぎだよなー。罠じゃねぇの?」

 そう疑問を呈しつつも、四つの脚は敷地内に突き進んでいく。そこかしこに雑草が茂る野原の中に几帳面に白線が引かれているのも、彼らの違和感を尚更に増大させた。


 獅子の装飾が施された重い扉をそっと開くと、邸内は目を疑うほどに暗い。早朝であるはずなのにこの暗さ。間違いない、ここの住民は闇の者だ。さっきまでの疑惑を覆すほどに深い確信を、ソルグの一言が増大させる。

『ここです、ラン様……。中央に大きなディークノアの気配あり。間違いありません』

 目を凝らすと、確かにぼんやりと人影を感知できる。もっと深く観察しようと見つめた瞬間、背後で大きな音が響いた。


ガシャァァァン………


 音とともに光が途絶え、二人と一匹は困惑する。彼らは機械仕掛けのように閉じたドアの重みを確かに感じても、中央の人影が近づいてくることには気づかなかった。

「ようこそ、暗殺者さん!」

 弾んだ声が響き、邸内は光に包まれる。円形の部屋をぐるりと囲んでいる燭台が一斉に点火され、スポットライトが照らすように標的《ターゲット》を映す。

 階段を挟んで階上に立つ少女は、フィリップ達を見て興奮気味に叫んだ。

「やっと来たー!! 待ってたよー! さぁ、早くボクを殺してよ!!」

「…………ッ!?」

 フィリップは驚愕した。彼女は僕たちが来ることを“待っていた”。意味がわからない。それに、この子は“殺される”事を望んでいる。

「コイツ……何を言ってやがる!? つーか、こんなガキが街にディークをばら蒔いてやがったのかッ!?」

「あれ、意外かな? そうだよ、ここ最近の馬鹿騒ぎの原因は全てボク!! どうかな? 殺しに来たんでしょ、早くやってよ! バクのディークノアくん?」

「えっ……!? 情報が知れ渡ってる?」

 ラウンという名の少女は、新しい玩具を貰った子どものようにはしゃぎながら階段を降りる。フィリップ達は少し身構えると、顕になった黒幕の姿を即座に観察する。


 長いブロンドの髪を深紅のキャスケット帽に隠し、どことなく危なっかしい情緒を可憐な笑顔で目立たなくする。生きているかどうかすら怪しいほどに華奢な身体付きに、傷一つ付いていない綺麗な手をしている。


「さぁ、早く! その剣でボクを刺しなよ!! この世に存在すら残らないほどにメッタ刺しにしてよ、切り刻んでよ!!」

 フィリップの額にじわりと汗が滲む。

「わからない……。君は本当に『悪』なのか……? 本当に君がこの街を狂わせているのか? わからない……」

「おい、クソガキ! 考えるより先に動けッ!! コイツはマジにヤバい! 今まで対峙してきたディークノアの中でも一番殺気がない! 不気味なんだッ!!」

 砂海はそう言うと少女に向けて右手を向けた。

「そんなに逝きたいなら、さっさとあの世に逝かせてやるよッ! 砕砲《ビスマルク》ゥッ!!」


ドゴォォォォォ!!!


「邪魔しないでくれないかな!?」


パンッ


 ラウンが指を鳴らすと、彼女に向かった榴弾は突如動きを止めた。重力が急激にゼロになったようにその場で固定された榴弾は、そのままゆっくりと発射された方向へ回転していく。


ズガァァァァ!!!


 長らく陽の光を浴びていないカーペットに、埃が舞い上がる。砂海はその上でなんとかバランスを取り、仁王立ちをする。鈍い色の光沢を放ちながら。

「間に合ったか……」

「ざーんねーん♪」

 硬化した砂海の肌がどろりと溶けていく。部屋を囲んでいた燭台の炎が、全て砂海の方向へ飛んできているのだ。

「何……ッ!!」

「ふふふっ、火だるまってやつだね!」

 焦げた布の悪臭が広がる。ラウンはその場から一歩も動かずに砂海を倒した。苦悶の表情を上げる砂海の姿を見て、フィリップの顔はみるみる内に曇っていく。

「よし、これで“動機”はできたわけだ! さぁ、ボクは『悪人』だよー! 早くボクを殺して能力を解除しないと、お仲間は死んじゃうよッ!!」

「おい……“フィリップ”……。いいか……俺とお前は、所詮会ってすぐの他人だ……。俺のために傷つかれても迷惑なんだよ……ッ! だから、早く……に……逃げ……ろ……」

 砂海は苦痛に顔を歪める。フィリップの中で何かが崩れる音がした。

「僕に指図しないで……。心配ないよ、コイツは僕が倒す……それだけだッ!! 奏剣《ポナパルト》ッ!!」

 銀の閃光が一つ、二つとその場に出現する。柄に付着した指紋から分裂するように増殖する剣に、ラウンの顔は期待で満ち溢れる。

「喰らえッ!!」

 標的を千の剣が渦のように包囲する。切っ先ひとつひとつが緋に染まりながら、彼女の身体のあらゆる場所に裂傷を刻む。


「あれ、こんだけ?」

 ラウンの表情が、みるみるうちに期待から失望に変わっていく。彼女の傷が頬を残して瞬時に回復する瞬間、玩具で遊ぶことに飽きた子どものような表情をフィリップに向ける。

「もっと骨があると思ったんだけど……残念だなぁ。ここまで期待したボクがバカみたいじゃん。君、要らないわ! やっぱりここで死んで?」

 銀の閃光は彼の精神の動揺を感じ、ぽとりぽとりと床に落ちていく。フィリップが終わりを感じた瞬間《とき》、強い光が雨のように漏れ出す。


「緋銃《グリム》ッ!」


ズガァァン!!


 重いドアが突如として吹き飛び、光と共に少女とコウモリが現れる。

「ハル……?」

『セーフ! でもないか……。砂海さんヤベェ事になってんな、うん』

 あまりに突然の訪問者に、ラウンは少しフリーズした。やがていつもの調子を取り戻すと、声の限り叫ぶ。

「コウモリのディークノア……邪魔すんなァァァ!!!」

『とりあえずここは俺らが何とかするから! フィリップは砂海さん連れて逃げろ!! 須藤刑事が外でクルマ停めてるから!!』

「でも……」

「いいから! 時間稼ぎくらいにはなるでしょ!!」

 ハルはそう言うと、ショットガンの弾丸をラウンに向けて容赦なく叩き込む。彼女はそれを手を広げて防ぎ、全て掴み取った。

「かかったッ!」

 掴み取った弾丸が血液に変わり、血液に染まった手が石膏に変わっていく。フィリップの攻撃で落とした血液もみるみるうちに同じ物質になり、その身体は徐々に固まっていく。

「へぇ……。そんな能力なんだ……?」

 ラウンは、なんの躊躇もなく手刀で自らの手首を片方ずつ切り取る。その傷口は途端に塞がれ、トカゲの尻尾のようにすぐに新しい手が生え変わった。彼女は神経の具合を確かめるように手を開いたり閉じたりした後、何の問題もないように大きな欠伸をした。

『はァ!? アイツ何者だよ……ッ! 人間じゃねぇ……!』

「そうだよ、ボクは人間じゃない。肉体《いれもの》だけが綺麗な、ただの空っぽの人形だよ! ところでコウモリくん、その能力が有れば『体内のすべての血液をほかの物質に変える』ことも出来るのかな?」

『あぁ……。それがどうした?』

「気に入ったよ、コウモリくん!! 君がいればやっと僕は死ねる!! そんな冴えない女なんか憑依するのやめて、ボクのところにおいでよ!!」

「なっ!? 急に何を!?」

『へぇ、もし断ったら……?』

「君達を殺す」

 そう聞いたミューズは少し笑みを浮かべながら、もう一度質問をする。その表情にハルは一抹の不安を憶える。

『なるほど……あなたに憑依すれば俺の命は助かる、と。本当に助けてくれるのか?』

「うん、約束するよ! ボクはこう見えて義理堅いんだよねー」

『だが断る』

「ッ!? ……君も死にたいの?」

『何もしなくても、寝る場所があって食べ物に困らない。退屈しのぎも出来る。最高じゃん。ハルに憑依してればそんな事が出来るんだよ! 俺はこの生活を手放すつもりは無いねッ!』

 清々しいほどのヒモ宣言に、ハルは思わず肩の力を抜く。そうだ、コイツはこういうヤツだ。

「そっかー。でもせっかく見つけた能力だし勿体ない気もするね? それに、告白って心変わりもするものでしょ? だから、もう一回チャンスをあげよう。一週間後に、もう一度答えを聞きに来るね!! あっ、答えによっては強硬手段も辞さないよ」

「えっ、それはどういう……?」

「今日のところはここで見逃してあげる! だから帰りなよ」



「少女のように気まぐれで獣のように残忍……。恐ろしいな……。」

『それより恐ろしいのは、物理攻撃が全く効かなかったことだよ! アイツ、躊躇せずに手首切り落としたぞ……? 痛みも感じてなかった!!』

 以前フィリップが眠っていた病院の一室。ベッドの上で眠る傷だらけの男を前に、組合のメンバーたちは意見交換をしている。

「砂海さんが全治一ヶ月の火傷、フィリップくんは戦意喪失……。うちの最強格二人がボロボロって、相当な状況ですね……」

「流石にこの状況だと、こっちもジョーカーを出すしかないな……」

『須藤刑事? ジョーカーって一体?』

「ハクトが……。夕澄ハクトがやっと戻ってくる!」

だが断る:ご存知露伴先生の名言。7部の『でも断る』と迷ったけど設定上こっちに。4部アニメ化おめでとうございます!!


【告知】

ミューズ君がTwitterを始めた(という設定で作者が運営してる)アカウントができましたー!→@m_u_s_e__

こちらで制作の裏話とかバンバン呟いて行きたいなぁって思ってます!!飽きるまでは!

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