トカゲとタコと不穏な影 後編
前後編とか言いながら一ヶ月空けてしまう遅筆の屑
土下座しながらオヒサシブリデス。狐です。
後編もアクション満載!描写力直葬!
「とりあえず二手に分かれたのはいいんですけど……あの二人で良かったんですか?」
後部座席からそんな声が上がる。メインストリートに沿うようにして植えられたイチョウ並木が特徴的な幹線道路を、現場に向けて急行するのはシルバーのセダンである。
「大丈夫だよ、ハルさん。砂海さんはあぁ見えて面倒見いいから……」
助手席に座った青年は苦笑しながらそう言った。
『そうは言っても、あの偏屈無口ショタを手懐けられるとは思えないんだけど……! さっきも険悪だったしさぁ! あっ、そこ右ね』
人型のディークノア二体をチームに分かれて倒す。チームは親睦も兼ねてシャッフルする。そんな計画がつい三十分ほど前に経ったところだ。現リーダーであるラミアのそんな提案に一番難色を示したのは、もちろんフィリップと砂海である。いがみ合う二人をなんとか宥めて出発させたはいいものの、コンビネーションプレイは満足にできるだろうか?ハルは内心不安に思っていた。
車を降り、ディークノアの気配がある国道沿いの公園へ向かう。シュウは途中で買った炭酸飲料のペットボトルを鞄に入れ、夜風が街路樹を爽やかに揺らす大通りを歩く。
『感じる……ッ! 気配がプンプンする……!!』
ミューズが上げた声の先には、緑に塗装されたブランコに凭れるようにしてブツブツと何かを呟き続ける男が一人。
『畜生ッ……。何が“指令”だよッ! 俺は逃げる……! 自由を謳歌してやるッ!』
長髪の男は震える声でそう毒づくと、地面に向けて唾を吐いた。
「アイツか……。ハルさん……ちょっと静かにしてて!」
シュウはそう言うと持っているペットボトルに手を翳した。
「“フリーズ”」
それを男のいる方向に投げる。
放物線を描いて地面に着弾したペットボトルは、手榴弾のように破裂する。破裂音とオレンジフレーバーの飛沫が、炭酸ガスと共に男の顔面に炸裂した。
『冷てッ!? 追っ手か……ッ!』
男は焦点の合わない目でハルたちを注視すると、そのまま全速力で逃走した。
「ハルさん! 止めて!!」
「えっ、あっ、緋銃!」
錆びたショットガンは男の踵を撃ち抜く。砂場の手前で躓いた男の前で、シュウが仁王立ちになる。
「さて……なんで逃げたのかな?」
『ちょっ、ちょっとトイレに……』
「ハルさん、拘束と止血」
彼女が言われるがままにアキレス腱周りの血を鎖に変えて止血すると、シュウは途端に笑顔になる。
「嘘は良くないよ? オクトパス・ディークノアさん?」
『やっぱ追っ手かよ……ッ!』
「そして、“疑わしきは即刻罰す”が僕のモットーな訳だよ。よし、戦おっか!」
『あのー、ハルちゃん? 俺らが組んだ相手ってこんな好戦的な感じだっけ? もっと大人しそうな感じの子だったよな?』
「うん……」
『こんな〈暴走ディークノア絶対殺すマン〉じゃなかったよな? ちょっと目離したら悪・即・斬しそうなんだけど! 牙突零式使いそうなんだけど!!』
夜の公園。三日月は恋人が語らうベンチを明るく照らし、中央では二人の男が対峙する。
『本当にいいんだな? お前を倒せば見逃してくれるんだな?』
「うん、まぁ勝てないと思うけどね!」
シュウは灰色のパーカーのファスナーを上げると、余裕の表情で相手を見据える。
倒すべき敵の足首は既に鎖が外され、ギザギザと脈打つ瘡蓋ができている。男は右手でドスを握ると、空いた片手を天へ突き上げた。
消えた。
その場から煙のように、男の姿がなくなったのである。
『なっ!? これがあの男の能力!? 全く見えないぞ!?』
焦るミューズたちをを背に、シュウは未だ不敵に笑う。
「哭け、凍鎌!」
そう叫ぶと同時に、彼の手に武器が握られる。
彼の背丈の倍は有ろうかという大鎌が手元に出現する。童話の中の死神が握るようなそれを青年が軽々と振り回すたびに、三日月型の刃はキラキラと夜の帳に反射する。
「ダメだ……。全く見えないや」
そう言うと彼はパーカーのフードを目深に被り、大鎌の柄を地面に突き立てた。
静寂の中で何かを手繰り寄せるように、シュウはフードの中で瞼を閉じた。
ザシュッッ!!
「まぁ……“聴こえる”けどねッ!」
シュウはその場で半回転すると、そのままの姿勢で背後の虚空を斬る。
突如として背景が歪み、胴回りを横一文字に斬られた男の身体が現れる。持っているドスをシュウの首筋に刺そうとしたままの姿で、大きな隈のできた顔に驚愕と恐怖を貼り付けている。
男はそのまま後ろに倒れる。ジャケットの袖が捲り上がり、注射痕だらけの細い腕が白日のもとに晒される。
『何故だ……? どうやって俺の姿を……!?』
「ちょっと集中しただけだよ……」
シュウはそう言うと、男のジャケットを指さした。ところどころにできたシミからは、シュワシュワと音を立てて小さな泡が発生している。
『音かッ!? この炭酸ガスの微弱な音だけを頼りにッ!?』
「いやー、飲めない物を買ってどうすんだって話だしねー」
彼はフードを脱ぎ、目の前の男の腹部から出た赤い瘴気が消えるのを見届ける。
「ふぃー、終わり終わりー!お疲れ様でした!」
吹き抜ける風が銀の髪を掻き上げる。ミューズはシュウに向かって拍手をすると、抱いた疑問をぶつけ始める。
『あのさ、結局アンタの能力ってなんなの? 俺が見た限りでは〈聴力の倍増〉かなーって思うんだが?』
「アレは集中力のおかげだよ! どっちかというと僕の能力は、〈指定した物体を冷やす〉。それだけ!」
『やっぱり、シンプルな能力が一番恐ろしいってことかよ……』
「あれ? そういや須藤さんは?」
「へ? 須藤刑事ならさっき急用で帰られたんですけど……」
「えーっ!? ちょっと待ってよ……」
シュウは鞄からスマホを取り出し、何桁かの番号をプッシュする。
「もしもしー、須藤さん……。任務終わったんですけど……。えっ!? いや、でも交通費とか持ってきてないし! それに宿主どうするんですか!? 明らかに薬物中毒ですよこれ! ……はい、パトカー。二台。了解です」
やってきた二台のパトカーに乗ってきた若い刑事たちは、〈麻薬取締課〉と名乗った。『特犯課の須藤刑事』という名前を聞くと、なにか怪訝そうな顔をしたあと、ぐったりした宿主の男に手錠を掛けた。どうやら指名手配中の麻薬のブローカーだったらしく、刑事たちの顔からは「こんな一般人の子供たちに手柄を奪われた」とでも言いたげな失望が見え隠れしている。
パトカーが夜の街に消えていった後、ハルたちは結局地下鉄で帰ることになった。
「そういえばあの強面の人とフィリップって、どうやって現場まで行ったんですかね?」
「確かに砂海さんの乗ってるバイク、一台だけだもんね。まさか二人乗り?」
「二人乗り……想像できないんですけど!」
摩天楼の一角には楽しそうな笑い声が響いていた。
「で? 須藤くん、『あの件』に関しては、進んだのかね?」
「はい、ただいま情報収集中でして……」
オレンジ色をした朝焼けが会議室の内部を照らす。 この広い室内に刑事が二人だけ。上司に当たる人物は無表情の白い仮面を被っている。その異様な光景から、この会話が公には話せない内容であることが容易に推測できる。
「残念だよ、君には期待していたんだが……。これでは何のために〈特殊犯罪対策課〉を設立したかわからんじゃないか……!」
「先生……。すぐにでもサンプルを調達し、彼女を殺しうる人材の監視を続けます……。申し訳ございませんでした……!」
「はぁ……。いいかね? 皮膚片一つ、髪の毛一本でいいんだよ! 今後の世界の秩序を左右する重大な任務なんだ。良いか、絶対に殺すなよ? 君に監視をつける事態を、私は望んでいないのだよ」
須藤刑事は回れ右をして会議室を出ようとした。それを先生と呼ばれた人間が止める。
「君、そんなに急いでどこへ行くのかね?」
「ちょっと線香を買いに行こうかと……!」
悪・即・斬:ガトチュこと斎藤一のアレ。実写版の牙突はなんかふわっとしてるって聞いた。
シンプルな能力が〜:イギーの愚者に対して承太郎がこんなこと言ってた気がする。




