トカゲとタコと不穏な影 前編
今回は早めの投稿。久々のアクションは書いてて楽しかったけどやっぱミューズって偉大だわ。
曇り空は憂鬱に拍車をかけたりかけなかったりした。遮られた月の光が僅かに移りこむビルの屋上で、歪な即席コンビが対峙するのは、人間の姿をした暴走ディークノアである。
「またクソガキのお守りかよ……。おい、お前今までに人斬ったことあるか?」
「その呼び方やめてくれない……? 人は斬ったことないけど、文句ある?」
「わかった、じゃあ邪魔すんなよ。ガキが人間斬るもんじゃない。こう言う仕事は大人の俺が率先してやらなくちゃあな……」
砂海はそう嘯き、改めて目の前の敵を睨みつける。
『お前らか。噂には聴いてるさ。暴走したディークノアを討伐する団体だろ?』
「お陰様で。まったく、十年活動してきた甲斐があるよ……! じゃあ、暴れさせてもらうな!」
倒すべき男は老朽化した貯水タンクから飛び降り、三日月型の剣を握る。青竜刀である。
「タイプ:リザード……。接近戦かよ!」
砂海は待ってましたとばかりに、手にした鉄パイプを振り下ろす。
「予告しよう! 五分だ。五分あれば倒せる!」
『ラン様〜。ホントに手出ししなくて良いんですか?』
「問題ないよ……。今回、僕は傍観者だ……」
ソルグはそう言った主人に向かって、ため息混じりの小言を漏らす。
『ホントは暴れたいんでしょ……?』
「少しは骨があるようだな……! 安心したよ、五分が嘘にならないな!」
『知ったような口を利くな!』
青竜刀を握った男は、砂海の頭上めがけて刀身を振り下ろす。それを砂海は片腕で防ぎ、少し後ろに仰け反る。
『やったッ! 片腕は貰った!』
「ハァ……。お前の武器、全く“尖って”ねぇよ……。つまんねぇ……!」
金属同士を打ち合わせたような快音が響く。
砂海は軽々と青竜刀を弾くと、鉄パイプを放り投げた。
『生身の腕で、俺の剣を……!?』
男は自慢の業物が弾かれたことに驚愕し、相手の腕を注視する。一部分だけ灰色と化したそれは、特有のキラキラとした光沢で満たされていた。
『金属……ッ!? 奴はサイボーグか何かかよ?』
呆然としながらも攻撃の手は緩めない。砂海は反撃をやめ、ニヤリと口角を上げながらひたすら防御に徹している。
『これが奴の能力だとするなら……ッ! 必ず弱点があるはず! まずは観察するんだ……』
砂海は相手が疲労してきたと見るや、右手を男に向けた。
「三分ってとこか……」
そう呟きながらメタル化した右腕をコツコツと叩くと、グレネード・ランチャーを出現させる。
「決める……ッ! 砕砲ッ!」
ワニの頭を象った擲弾筒は砂海の腕に絡みつくと、そのまま身体の一部のように融合した。
ズガァァァァッ!!
閃光。
衝撃。
刹那の爆発音。
正面が凹んでしまった貯水タンクからは、滝のように水が噴きだす。砂埃と硝煙の香りが砂海を包み込んだ時、背後から何者かの声が聞こえる。
『ハァ……ハァ……。危なかったッ! “直撃”ならお陀仏レベルだな!』
傷だらけの男がそう言い刀を振り上げる。会心の一撃を放った後の彼では対応できない。
青竜刀がメタルの身体に触れた時、男の身体は宙を舞っていた。
『なんだと……ッ!?』
足下にはおびただしい数の鉄パイプ。それに足を取られ、転倒したのか……。男が理解する間もなく、銀の刃に貫かれていることを知る。
凹んだ貯水タンクの表面に男が貼り付けられている。敵の写真を投げナイフで貫いて固定するように、彼の腹部には奏剣が突き刺さっている。
「おいクソガキ、なぜ俺の邪魔をした……?」
フィリップは返事の代わりにスマホの画面を提示した。
「ほら、ジャスト五分」
「……チッ」
「それよりコイツどうすんの?死んではないけど……」
「ちょっと待ってろ……」
砂海は男をコンクリートの床に下ろすと、刺さっている剣を無造作に抜いた。貫かれた腹から紫の瘴気が放出されると、傷口は何事もなかったかのように塞がった。
「…………ハッ!?」
「目ェ覚めたか? “元怪物憑き”」
「あなた方は? 俺は、確か紫のトカゲに唆されて、途端に何でもできる気になったんだ。その後、俺はどうしたんだ……?」
「あー、だいたい願いは理解できるぜ? “遊んで暮らせるだけの金が欲しい”。そうだろ?」
砂海はそう言うと、足下のアタッシュケースを指さした。中には十年は豪遊して暮らせるであろうほどの大金が詰まっている。
「このお金です! これを手にしてから記憶がおぼろげで……!」
「トカゲは願いを叶えたあとに、お前の魂の主導権を握ったんだよ。それを俺らが倒して、魂を返してやったんだ。じゃ、コレは頂いていくわ……」
砂海はアタッシュケースをひったくると、唖然とする男の前から去ろうとする。
「ちょっ、えっ、そんな急に言われても!? それに、これは俺の金……」
「喋るトカゲがいる時点で、疑う心は捨てとけ。いいか? コレはお前の魂の値段。俺はお前の魂を救ったんだからこの対価はもらって当然。それに、どっちにしろこんな金使えないだろ? 悪銭身につかずだよ」
曇り空はいつの間にか夜の帳に支配される。三日月の晩である。
「えぇ、リザード・ディークノアとオクトパス・ディークノア。二体とも〈組合〉の連中に消されました。そろそろ次の作戦を練る頃合かと……」
暗闇に立つ男が一人、赤いスポーツカーを背に何者かと電話をしている。男の視界には先程までハルたちがいたカフェの外観が燦然と映っていた。
曇り空は〜:〈東京ランドスケープ/ポルノグラフィティ〉れーきせんのつわものたちがー




