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Muse Night   作者: 狐
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14/23

ナポリタンとアドバイスとワインレッドの瞳

今回パロディ要素皆無だよ!情報量多いよ!

中の人は本日誕生日だよ!祝えよ!!

 三日程降り続いた雨は、音もなく止んでしまった。アルカトピアのメインストリートを走るシルバーのセダン。

『あのさぁ……この前俺抜きで行った時もこんな無言のドライブだった?』

 車内では、コウモリがパタパタと騒がしそうに行き来する。運転手の須藤刑事は苦笑と共にハンドルを切る。

「ミューズ……。うるさいんだけど」

『フィリップくん!? 君はこの静寂に耐えられると!?』

「いやほら、ハルが寝てるから……」

 フィリップはそう言い、彼の隣を指さした。途端に声のトーンを落とすミューズ。

『ところで須藤刑事、この前のディークに付けた発信機……なんか発展ありました?』

「それがな、壊されてた……」

『ッ!? ……気づかれてたんですか……?』

「ああ。明らかにアジトではない路地裏で発信が途絶えていた……」

『あぁー……次のチャンスに賭けましょう!』

 ミューズの謎の激励の為に、再び車内に沈黙が訪れる。再びの沈黙に耐えきれない為にミューズが眺めた窓からは、赤いスポーツカーとビル群を取り囲む幹線道路が見えた。


「ほら、着いたぞ……」

 模範運転で辿りついた場所は、街角の喫茶店である。高速道路を挟み東西に別れたアルカトピアの東エリアに位置し、ハルの住んでいる西エリアからは車で三十分ほどかかる。

 ミューズは隣で寝ているハルを起こし、左側のドアを遠慮がちに開けた。

『〈Cafe melt〉……。ここが“例の場所”か……』

 外観は何の変哲もない喫茶店である。都会派気取りの大学生や、自分に酔う意識の高い社会人が集うチェーン店とはまた違った雰囲気の場所だ。高級感溢れるダークブラウンの外観。その窓枠から顔を出すサボテンは、日光をたっぷり浴びて生き生きと客を招く。サボテンの奥では、アンバーのエプロンにスカイブルーのバンダナを被った細身の青年が店番をしている。


 小気味よい快音と共にドアが開く。

「いらっしゃいま……えっ!?」

「三人と二匹……」

「えっ、須藤さん……? お久しぶりですよね……?」

「八年ぶりだ。大きくなったな……因幡くん」

 ‘’因幡”と呼ばれた青年は来客に深々とお辞儀し、テーブル席へと案内する。

「内装もかなりオシャレになったな……。リフォームしたか?」

「はい、二年前に! あっ、ご注文! 何になさいますか?」

「アイスコーヒー。ハルちゃんは?」

「ミルクティー、アイスで!」

『俺、サンドイッチとオレンジジュース!』

「ナポリタン……!」

 青年は注文を伝票にメモすると、厨房のあるカウンター席近辺へ向かった。


「史明? 久しぶりね……」

「久しぶりだな、ラミア……」

 カウンター越しに艶やかな声を振りまき、ラミアと呼ばれた女性がするするとハルたちの座っているテーブル席に移動する。そして、盆に乗せた注文の品を丁寧に置いた。

 ハルの抱いた第一印象を一言で表すと、『ヘビのような女性』である。黒いシックなドレスは、このカフェに似つかわしくないほどアダルティックに輝いている。長い黒髪を後ろで束ね、そこから見える耳に銀のピアスが螺旋に喰らいつく。それでいて場末のキャバレーのような印象を受けないのは、彼女の醸《かも》し出す不思議な色気のせいだろうか。

「じゃあ、この子が入会希望の子? なるほどねェ……。アンタ思春期の子に好かれやすいわよね」

 ラミアは脚を組んでカウンターに座ると、すべてを見通すような瞳でハルたちを見定める。

「そういえば、ハクトは?」

「なんか、今日は急用が出来て来られないらしいわよ。あの子も多忙だからさ……!」

「そうか。それにしても、八年でかなり変わったな……。志柄木さんは?」


「志柄木のジジイは二年前に亡くなったよ……。“恥知らず”」

「!?」

 奥のテーブルから強面の男が右足を引きずりながら近づいてくる。髑髏の描かれた漆黒のライダースジャケットに身を包んだ男は、須藤刑事に軽蔑したような目で詰め寄った。

「ジジイは死んだんだよッ! それに関わらずお前は何ここを抜けて何をした? 死にゆくジジイに何かしたか……ッ!?」

「すまない。ここ二、三年どうしても外せない仕事があったんだ……」

「俺に謝ってどうする? それでジジイが喜ぶのか? 俺に謝る暇があるなら、この場でジジイに土下座しろよッ! なぁ、お前は恩人の命より仕事を優先するような冷血漢だったか……ッ!?」

「すまない、本当にすまない……ッ!」

「仕事だかなんだか知らねぇけどなァ! 尖りの無くなったお前に、ここに居る価値はねぇんだよ……ッ!!」

「あのさぁ、それ以上そのヤニ臭い口を開かないでくれない? ナポリタンが不味くなるんだけど……ッ!」

 不意にフィリップの静かな怒りが飛ぶ。椅子の背に立てかけられた奏剣《ポナパルト》の刀身が、いつの間にか男の首筋に向かっている。

「なんだクソガキ……? 俺と喧嘩したいのか?」

 男の手にも、いつの間にかグレネード・ランチャーが握られている。

「やめろ、フィリップ……やめろ。」

「砂海さん!? 初対面の少年に発砲するつもりですか? 今の砂海さんめちゃくちゃ小物ですよ!?」

 二人の険悪極まりない雰囲気を察してか、須藤刑事と因幡という青年が制する。

「くっだらねぇ……。ちょっと外の風浴びてくるッ!」

「車で待機してていい? 興醒めした……」

『ちょっ、フィリップ!? このナポリタンどーすんの!? 俺が食えばいいのコレ!?』


「ハルさん、だっけ。なんかごめんね? 砂海さんは根は悪い人じゃないんだけどさぁ……。ちょっとキレやすいというかなんというか……」

 既にエプロンを外した青年がハルにそう謝る。バンダナを外した頭でには無造作に跳ねた銀髪が輝いている。

「あの人も元ディークノアなんですか?」

「うん。ここにいるメンバー……まぁまだ全員集まってないんだけど、僕らはみんな元ディークノア。現役で闘ってるけどね!」

「まだ闘ってる!? それってどういう……?」

「一応この組合の目的って、“ディークノアの能力を正しく利用し、暴走しがちな能力者にアドバイスする”事なんだよ。そして、暴走した場合の制圧と警察への引渡しね」

「私たちがやってる事と同じ……」

「西エリアでの君たちの活躍は聞いてるよ! 契約して日が浅いのに凄いね! 僕らはそれを東エリアでやってるんだよ」

「私、ここで頑張りたいです! なんとかミューズに精神を乗っ取られずに、平穏な毎日を暮らしたいです!」

「いいね、いい心がけだよ! じゃあハルさんに先輩から一つアドバイスをしてあげよう! 『ディークノアが暴走する条件』ってわかるかな?」

「ディークが宿主の願いを叶える……?」

「そう、更にプラスして『宿主の感情が爆発した状態』も含まれるよ。特に、悲しみ・怒り・絶望とかのネガティブな感情が爆発したときに」

「つまり、極端に感情を動かさなければ、精神を乗っ取られない……?」

「ご名答!」

「ありがとうございます、えっと……」

「シュウ、因幡柊。気軽に“シュウ先輩”って呼んでくれて構わないよ!!」

「シュウ……アンタ後輩が出来たからって調子乗りすぎよ」

 ラミアと呼ばれた女性はそう言い、シュウの髪をくしゃくしゃと撫でる。

「アタシはラミア、鏑矢ラミア。さっき出ていったのが砂海キミヒトであともう一人が……。あっ、史明は知らないか?」

「誰か入会したのか……?」

「うん、もうすぐ来ると思うんだけど……。まあいいや、アンタ達が北条遥とミューズ?」

「はい、コウモリのディークノアです! よろしくお願いします!」

「若いわねぇ……。コウモリかぁ……。確か、なんだっけなぁ……」

 ラミアは、少し脳内で思考を逡巡《しゅんじゅん》させてから微笑んだ。

「まぁ頑張りなよ。怪我しないようにね。怪我しても私が回復してあげるけどね!」


『ハル、ヘルプ! なんだこれ、めっちゃ辛い! というか痛い! 俺の知ってるナポリタンはここまで辛くないんだけど! ナニコレ!!』

「えー、仮にも作った人の目の前でそういう事言っちゃう……? ホントだ、辛っ!」

『待てよ、フィリップがタバスコ大量に入れたな!? あの味オンチ……!! ちょっとトイレ行ってくる!』


「賑やかなディークねぇ……」

「ホントですよ、いつもうるさくて……。そうだ、ラミアさん。さっき話題に出てた“志柄木さん”って何者なんですか?」

「あ〜、ちょっと待ってて!」


 ラミアを待つあいだ、ハルは注文したミルクティーを飲む。

「あっ、シュウ先輩! 氷か何か持ってます? このミルクティー、もう温《ぬる》くなっちゃって……」

「わかった、ちょっと待ってね!」

 シュウはそう言うと、ミルクティーの上に手をかざした。

「これで良し、っと!」

「冷たっ……! いったい何を!?」

「ふふっ、能力を応用すればこんな事もできるんだよ!」


「あったあった。この写真!」

 ラミアが引っ張り出してきたのは、古びたアルバムの一ページである。

 集合写真だろうか?どこかの会議室で撮られたその写真には、優しそうな笑みを浮かべた老人が写っている。

「南雲陽……夕澄來……志柄木憲芳……!」

「この真ん中に写ってるおじいちゃんが志柄木さんね。私たちは、みんな志柄木さんにお世話になったのよ」

 しかし、ハルの視線は写真の別の場所に奪われている。

「ラミアさん。志柄木さんの隣に座っている男の子、夕澄さん? ……もしかしてハクトさんのご親族ですか!?」

「あぁ、ライ君? 十二年前に行方不明になったハクトのお兄さんよ。たしか十二歳って若さで、警察の特殊部隊に入ってたんだっけ……?」

 夕澄ライ、ハルは脳内で反復した。黒髪ミディアムの跳ねた髪と、夕闇を溶かしたようなワインレッドの瞳は、不思議とハルの心を動かした。

「おーい、話聞いてる?」

「あっ、ごめんなさい! 私が質問してたのに……」

「いいのいいの、気にしないで……」

「ついでに、もう一つ質問いいですか!?」

「色んなことに興味を持つのはいい事よ。どうぞ?」

「あの、ここの組合の人ってみんな『契約』が終わったんですよね? どうしてディークが去っていったんですか?」

「そうねぇ……。ディークは願いを叶えることで、宿主の心の隙間を埋めようとするのよね。だから『現状に満足する、願いを叶えなくても幸せだと思う』事が大事なんじゃない?」

『その話、詳しく聞かせてもらっていいですかね?』

「ソルグ!? 居たんだ……?」

『ラン様を追いかけていくタイミング失ったんですよ……。それよりも! 宿主が幸せを感じれば、ディークは精神を奪わなくていいんですね!?』

「えぇ、でも寄生したディークは消えてしまうわよ?」

『それでもいいんです、ラン様が幸せなら……』

「あら、何か訳ありのようね?」

 ソルグが丁度説明しようとした時、どこか遠くで排気音が響いた。


「トオル……! やっと帰ってきた! 新人が来たの!」

 薄い色のサングラスを着けた男は、息を切らしながら言った。

「それどころじゃありません! 東エリアにディークノアが二体出現しました……ッ! しかも〈人型〉です!」

「人型……ッ!?」

次回は久しぶりにアクションやります。修行しなきゃ……(使命感)

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