ナポリタンとアドバイスとワインレッドの瞳
今回パロディ要素皆無だよ!情報量多いよ!
中の人は本日誕生日だよ!祝えよ!!
三日程降り続いた雨は、音もなく止んでしまった。アルカトピアのメインストリートを走るシルバーのセダン。
『あのさぁ……この前俺抜きで行った時もこんな無言のドライブだった?』
車内では、コウモリがパタパタと騒がしそうに行き来する。運転手の須藤刑事は苦笑と共にハンドルを切る。
「ミューズ……。うるさいんだけど」
『フィリップくん!? 君はこの静寂に耐えられると!?』
「いやほら、ハルが寝てるから……」
フィリップはそう言い、彼の隣を指さした。途端に声のトーンを落とすミューズ。
『ところで須藤刑事、この前のディークに付けた発信機……なんか発展ありました?』
「それがな、壊されてた……」
『ッ!? ……気づかれてたんですか……?』
「ああ。明らかにアジトではない路地裏で発信が途絶えていた……」
『あぁー……次のチャンスに賭けましょう!』
ミューズの謎の激励の為に、再び車内に沈黙が訪れる。再びの沈黙に耐えきれない為にミューズが眺めた窓からは、赤いスポーツカーとビル群を取り囲む幹線道路が見えた。
「ほら、着いたぞ……」
模範運転で辿りついた場所は、街角の喫茶店である。高速道路を挟み東西に別れたアルカトピアの東エリアに位置し、ハルの住んでいる西エリアからは車で三十分ほどかかる。
ミューズは隣で寝ているハルを起こし、左側のドアを遠慮がちに開けた。
『〈Cafe melt〉……。ここが“例の場所”か……』
外観は何の変哲もない喫茶店である。都会派気取りの大学生や、自分に酔う意識の高い社会人が集うチェーン店とはまた違った雰囲気の場所だ。高級感溢れるダークブラウンの外観。その窓枠から顔を出すサボテンは、日光をたっぷり浴びて生き生きと客を招く。サボテンの奥では、アンバーのエプロンにスカイブルーのバンダナを被った細身の青年が店番をしている。
小気味よい快音と共にドアが開く。
「いらっしゃいま……えっ!?」
「三人と二匹……」
「えっ、須藤さん……? お久しぶりですよね……?」
「八年ぶりだ。大きくなったな……因幡くん」
‘’因幡”と呼ばれた青年は来客に深々とお辞儀し、テーブル席へと案内する。
「内装もかなりオシャレになったな……。リフォームしたか?」
「はい、二年前に! あっ、ご注文! 何になさいますか?」
「アイスコーヒー。ハルちゃんは?」
「ミルクティー、アイスで!」
『俺、サンドイッチとオレンジジュース!』
「ナポリタン……!」
青年は注文を伝票にメモすると、厨房のあるカウンター席近辺へ向かった。
「史明? 久しぶりね……」
「久しぶりだな、ラミア……」
カウンター越しに艶やかな声を振りまき、ラミアと呼ばれた女性がするするとハルたちの座っているテーブル席に移動する。そして、盆に乗せた注文の品を丁寧に置いた。
ハルの抱いた第一印象を一言で表すと、『ヘビのような女性』である。黒いシックなドレスは、このカフェに似つかわしくないほどアダルティックに輝いている。長い黒髪を後ろで束ね、そこから見える耳に銀のピアスが螺旋に喰らいつく。それでいて場末のキャバレーのような印象を受けないのは、彼女の醸し出す不思議な色気のせいだろうか。
「じゃあ、この子が入会希望の子? なるほどねェ……。アンタ思春期の子に好かれやすいわよね」
ラミアは脚を組んでカウンターに座ると、すべてを見通すような瞳でハルたちを見定める。
「そういえば、ハクトは?」
「なんか、今日は急用が出来て来られないらしいわよ。あの子も多忙だからさ……!」
「そうか。それにしても、八年でかなり変わったな……。志柄木さんは?」
「志柄木のジジイは二年前に亡くなったよ……。“恥知らず”」
「!?」
奥のテーブルから強面の男が右足を引きずりながら近づいてくる。髑髏の描かれた漆黒のライダースジャケットに身を包んだ男は、須藤刑事に軽蔑したような目で詰め寄った。
「ジジイは死んだんだよッ! それに関わらずお前は何ここを抜けて何をした? 死にゆくジジイに何かしたか……ッ!?」
「すまない。ここ二、三年どうしても外せない仕事があったんだ……」
「俺に謝ってどうする? それでジジイが喜ぶのか? 俺に謝る暇があるなら、この場でジジイに土下座しろよッ! なぁ、お前は恩人の命より仕事を優先するような冷血漢だったか……ッ!?」
「すまない、本当にすまない……ッ!」
「仕事だかなんだか知らねぇけどなァ! 尖りの無くなったお前に、ここに居る価値はねぇんだよ……ッ!!」
「あのさぁ、それ以上そのヤニ臭い口を開かないでくれない? ナポリタンが不味くなるんだけど……ッ!」
不意にフィリップの静かな怒りが飛ぶ。椅子の背に立てかけられた奏剣の刀身が、いつの間にか男の首筋に向かっている。
「なんだクソガキ……? 俺と喧嘩したいのか?」
男の手にも、いつの間にかグレネード・ランチャーが握られている。
「やめろ、フィリップ……やめろ。」
「砂海さん!? 初対面の少年に発砲するつもりですか? 今の砂海さんめちゃくちゃ小物ですよ!?」
二人の険悪極まりない雰囲気を察してか、須藤刑事と因幡という青年が制する。
「くっだらねぇ……。ちょっと外の風浴びてくるッ!」
「車で待機してていい? 興醒めした……」
『ちょっ、フィリップ!? このナポリタンどーすんの!? 俺が食えばいいのコレ!?』
「ハルさん、だっけ。なんかごめんね? 砂海さんは根は悪い人じゃないんだけどさぁ……。ちょっとキレやすいというかなんというか……」
既にエプロンを外した青年がハルにそう謝る。バンダナを外した頭でには無造作に跳ねた銀髪が輝いている。
「あの人も元ディークノアなんですか?」
「うん。ここにいるメンバー……まぁまだ全員集まってないんだけど、僕らはみんな元ディークノア。現役で闘ってるけどね!」
「まだ闘ってる!? それってどういう……?」
「一応この組合の目的って、“ディークノアの能力を正しく利用し、暴走しがちな能力者にアドバイスする”事なんだよ。そして、暴走した場合の制圧と警察への引渡しね」
「私たちがやってる事と同じ……」
「西エリアでの君たちの活躍は聞いてるよ! 契約して日が浅いのに凄いね! 僕らはそれを東エリアでやってるんだよ」
「私、ここで頑張りたいです! なんとかミューズに精神を乗っ取られずに、平穏な毎日を暮らしたいです!」
「いいね、いい心がけだよ! じゃあハルさんに先輩から一つアドバイスをしてあげよう! 『ディークノアが暴走する条件』ってわかるかな?」
「ディークが宿主の願いを叶える……?」
「そう、更にプラスして『宿主の感情が爆発した状態』も含まれるよ。特に、悲しみ・怒り・絶望とかのネガティブな感情が爆発したときに」
「つまり、極端に感情を動かさなければ、精神を乗っ取られない……?」
「ご名答!」
「ありがとうございます、えっと……」
「シュウ、因幡柊。気軽に“シュウ先輩”って呼んでくれて構わないよ!!」
「シュウ……アンタ後輩が出来たからって調子乗りすぎよ」
ラミアと呼ばれた女性はそう言い、シュウの髪をくしゃくしゃと撫でる。
「アタシはラミア、鏑矢ラミア。さっき出ていったのが砂海キミヒトであともう一人が……。あっ、史明は知らないか?」
「誰か入会したのか……?」
「うん、もうすぐ来ると思うんだけど……。まあいいや、アンタ達が北条遥とミューズ?」
「はい、コウモリのディークノアです! よろしくお願いします!」
「若いわねぇ……。コウモリかぁ……。確か、なんだっけなぁ……」
ラミアは、少し脳内で思考を逡巡させてから微笑んだ。
「まぁ頑張りなよ。怪我しないようにね。怪我しても私が回復してあげるけどね!」
『ハル、ヘルプ! なんだこれ、めっちゃ辛い! というか痛い! 俺の知ってるナポリタンはここまで辛くないんだけど! ナニコレ!!』
「えー、仮にも作った人の目の前でそういう事言っちゃう……? ホントだ、辛っ!」
『待てよ、フィリップがタバスコ大量に入れたな!? あの味オンチ……!! ちょっとトイレ行ってくる!』
「賑やかなディークねぇ……」
「ホントですよ、いつもうるさくて……。そうだ、ラミアさん。さっき話題に出てた“志柄木さん”って何者なんですか?」
「あ〜、ちょっと待ってて!」
ラミアを待つあいだ、ハルは注文したミルクティーを飲む。
「あっ、シュウ先輩! 氷か何か持ってます? このミルクティー、もう温くなっちゃって……」
「わかった、ちょっと待ってね!」
シュウはそう言うと、ミルクティーの上に手をかざした。
「これで良し、っと!」
「冷たっ……! いったい何を!?」
「ふふっ、能力を応用すればこんな事もできるんだよ!」
「あったあった。この写真!」
ラミアが引っ張り出してきたのは、古びたアルバムの一ページである。
集合写真だろうか?どこかの会議室で撮られたその写真には、優しそうな笑みを浮かべた老人が写っている。
「南雲陽……夕澄來……志柄木憲芳……!」
「この真ん中に写ってるおじいちゃんが志柄木さんね。私たちは、みんな志柄木さんにお世話になったのよ」
しかし、ハルの視線は写真の別の場所に奪われている。
「ラミアさん。志柄木さんの隣に座っている男の子、夕澄さん? ……もしかしてハクトさんのご親族ですか!?」
「あぁ、ライ君? 十二年前に行方不明になったハクトのお兄さんよ。たしか十二歳って若さで、警察の特殊部隊に入ってたんだっけ……?」
夕澄ライ、ハルは脳内で反復した。黒髪ミディアムの跳ねた髪と、夕闇を溶かしたようなワインレッドの瞳は、不思議とハルの心を動かした。
「おーい、話聞いてる?」
「あっ、ごめんなさい! 私が質問してたのに……」
「いいのいいの、気にしないで……」
「ついでに、もう一つ質問いいですか!?」
「色んなことに興味を持つのはいい事よ。どうぞ?」
「あの、ここの組合の人ってみんな『契約』が終わったんですよね? どうしてディークが去っていったんですか?」
「そうねぇ……。ディークは願いを叶えることで、宿主の心の隙間を埋めようとするのよね。だから『現状に満足する、願いを叶えなくても幸せだと思う』事が大事なんじゃない?」
『その話、詳しく聞かせてもらっていいですかね?』
「ソルグ!? 居たんだ……?」
『ラン様を追いかけていくタイミング失ったんですよ……。それよりも! 宿主が幸せを感じれば、ディークは精神を奪わなくていいんですね!?』
「えぇ、でも寄生したディークは消えてしまうわよ?」
『それでもいいんです、ラン様が幸せなら……』
「あら、何か訳ありのようね?」
ソルグが丁度説明しようとした時、どこか遠くで排気音が響いた。
「トオル……! やっと帰ってきた! 新人が来たの!」
薄い色のサングラスを着けた男は、息を切らしながら言った。
「それどころじゃありません! 東エリアにディークノアが二体出現しました……ッ! しかも〈人型〉です!」
「人型……ッ!?」
次回は久しぶりにアクションやります。修行しなきゃ……(使命感)




