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行き先

ベルガの問いに、細身の男は答えなかった。


玄馬がベルガから帳面を受け取り、閉じる。


「運んでいたと言ったな」


「……荷だ」


「何の荷じゃ」


アラタが聞くと、男は壁に背をつけたまま吐き捨てた。


「食い物とか、服とかだよ。俺は言われた物を運んでただけだ」


アラタが床に落ちた紙を拾う。


「なら、この人数は何じゃ」


男は答えに詰まった。


紙には日付と時刻、その横に人数が並んでいる。


食料を運ぶだけなら、人の数を書く理由はない。


ベルガが男を見る。


「子供を西へ運んだのも貴様か」


「違う。東だ。俺は――」


男が言葉を切った。


ベルガは静かに言う。


「妾は行き先など知らぬ」


細身の男が顔を上げる。


「西と言ったのは、貴様の口を開かせるためだ」


しばらく沈黙が続いた。


玄馬が口を開く。


「東のどこだ」


男は観念したように壁から背を離した。


「……東門の外だ。門を出て、街道を少し行ったところに古い倉庫がある」


「そこへ何を運んだ」


「最初は荷だけだった」


「最初は?」


男は答えなかった。


ベルガが玄馬の持つ帳面を見る。


「下で聞くぞ」


玄馬が細身の男を立たせる。


アラタとリーズが逃げ道を塞いだまま、男を連れて一階へ戻った。


◇


一階では、大柄な男が椅子から立ち上がろうとしていた。


弁慶が肩へ手を置く。


それだけで、男の身体は椅子へ戻った。


「離せ!」


「大人しくしておれ」


玄馬が机の上へ帳面と紙を置いた。


「東門の外に倉庫があるそうだな」


大柄な男が細身の男を睨んだ。


「知らねえ」


「こいつは知っていたぞ」


玄馬が細身の男を見る。


大柄な男が怒鳴った。


「余計なこと言いやがって!」


ベルガは大柄な男を見ず、机の帳面を開いた。


移送された子供の名前を追う。


「子供も運んだのか」


細身の男へ向けた声は低かった。


男は何も言わない。


「答えろ」


「……何回かだ」


ベルガが顔を上げる。


「荷車に乗せて、倉庫まで運んだ。そこから先は知らねえ」


玄馬が問う。


「向こうには誰がいる」


「決まってねえ。毎回同じ奴でもない。俺は荷を渡して、金を受け取って帰るだけだ」


「子供を渡した時も金を受け取ったのか」


男は答えなかった。


玄馬も、それ以上は決めつけなかった。


「最後に子供を運んだのはいつだ」


「五日くらい前だ」


ベルガが帳面の日付を追う。


その頃に移送された子供は、一人しかいなかった。


「……ミナ」


六歳の少女。


夜になると一人で眠れず、ベルガの隣へ潜り込んできたことが何度もあった。


玄馬が細身の男へ確認する。


「その子か」


「名前なんか知らねえ。小さい女の子だった」


ベルガが帳面から手を離す。


「行くぞ」


アラタが制する。


「待て」


「五日だぞ」


「分かっておる。だからこそ、ここを放り出して全員で走るわけにはいかん」


ベルガが言葉を返しかける。


だが、四人の男と帳面、床に散った紙を見て口を閉じた。


「……どうする」


玄馬が答えた。


「人を呼ぶ。こいつらと、ここにある物を見張らせる。その後で倉庫へ行く」


玄馬が弁慶を見る。


「悪いが、詰所まで走ってくれるか」


「承知した」


弁慶が入口へ向かう。


ベルガが背中へ声を飛ばした。


「急げ!」


弁慶は振り返らず、片手を上げた。


◇


ほどなく、弁慶が連れてきた討伐者たちが施設の見張りを引き継いだ。


四人の男と帳面、倉庫の物資を任せ、アラタたちは東門を出る。


先頭は玄馬。


その後ろをアラタ、ベルガ、リーズ、弁慶が続いた。


志乃と圭介は子供たちのいる詰所に残っている。


街道を進むにつれ、家の数は減っていった。


やがて玄馬が前方を指す。


「見えた」


街道から少し外れた場所に、古びた倉庫があった。


石の土台に木造の壁。


屋根の一部は黒ずみ、正面の大きな扉には錆びた金具が付いている。


使われていないようにも見える。


だが、倉庫へ続く土の上には新しい車輪の跡が残っていた。


弁慶がしゃがむ。


「荷車であろうな」


アラタも跡を見る。


何度も同じ場所を通ったように、地面が細く削れている。


玄馬が周囲を確認した。


「正面から入るのは待て。裏を見てくる」


「妾も行く」


ベルガが言った。


アラタが首を振る。


「ここにおれ」


「またそれか」


「今回は違う。中に何人おるかも分からん」


ベルガは不満そうだったが、前へは出なかった。


玄馬とアラタが建物の側面へ回る。


リーズと弁慶は正面を見張り、ベルガは二人の少し後ろに残った。


倉庫の横には、小さな窓が一つあった。


板で半分ほど塞がれている。


アラタが中を覗こうとした時だった。


かすかな咳が聞こえた。


一度だけ。


アラタが窓へ耳を寄せる。


しばらくして、今度は途切れ途切れの咳が続いた。


正面側に残っていたベルガも、その音に気づいた。


倉庫を見る。


ベルガが一歩だけ前へ出た。


「……おる」


声は震えていなかった。


「中に、子供がおる」

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