山の扉
アドリアンは受話器をナイトテーブルの上に落とした。
「何か見つかったか?」
火山も司法制度も朝食前に扱う男のような、揺るがぬ落ち着きだった。
通信の向こうの作業員の声は緊張でわずかに震えていた。
「は、はい……閣下。構造物があります。古い……何か“扉”のようなものが。主鉱脈の下、岩の奥に隠れています」
アドリアンは片眉を上げ、ゆっくりとメイランの方へ視線を向けた。彼女はまだ裸のまま眠っている。深く規則正しい寝息。その穏やかさは、昨夜二人が巻き起こした嵐のような激情とは対照的だった。
激しく、容赦なく、すべてを燃やし尽くすような夜だった。
それでも彼女は眠っている。
「そのまま寝かせておけ」
アドリアンはわずかに笑った。実務的で、どこか皮肉を含んだ声音だった。
「昨夜のあとで起こすのは……賢明じゃない。休ませてやれ」
作業員が咳払いをする。
「すぐに調査を?」
「いや。何も触るな。俺が行く……コーヒーを飲み終えてからな」
立ち上がり、ベッドに近づき、メイランの額に静かに口づけを落とす。彼女は目を覚まさなかった。
一口コーヒーを飲みながら、宙に浮かぶホログラム地図を見つめる。
「山の中の扉か……宝でも眠っているといいがな」
山の内部では、岩柱の間を移動する影に誰も気づかなかった。
警備チームが動きを感知し、一瞬一人になっていたナラはすぐにアドリアンのもとへ移された。
その隙を、カエルは逃さなかった。
足音すら立てずに前へ進み、首から下げた宝石を鉱脈の隙間へ滑り込ませる。
宝石は即座に反応した。
電光のような青い光が鉱脈を走り、古代文字が空中に浮かび上がる。
カエルは周囲を見ない。彼にしか見えない道が、宝石によって示されていた。
次の瞬間、光が彼を包み込み——
山ごと、世界が歪んだ。
激しい眩暈がアドリアンを襲う。
岩も、空気も、重力も、すべてがねじ曲がる。
浮いているのか、落ちているのかも分からない。耳鳴りが頭蓋の内側を震わせる。彼の理性は必死に基準点を探すが、何一つ見つからない。
光が消えたとき、世界は変わっていた。
足元の地面は湿って柔らかく、焦げた土と金属の匂いが肺を刺す。槍のようにねじれた巨大な樹木。影は生き物のように伸び、揺れ、動く。
「……ここは、どこだ」
携帯電話を取り出す。圏外。衛星なし。地図なし。コンパスは狂ったように回転する。
森は彼らを閉じ込めただけではない。
意識を持っているかのようだった。
枝が揺れるたび、影が伸びるたび、感覚が揺らぐ。
パターンがない。
秩序がない。
ただ、生きている。
見ている。
「固まって動け。慎重にだ」
低く、緊張を帯びた声。
数時間の行軍ののち、森はゆっくりと開けた。
谷が現れる。
上から差す光は液体のようで、霧を通り抜け、葉一枚一枚を水晶のように輝かせていた。
そして、彼らはそれを見た。
虹色の毛並みを持ち、地面からわずかに浮かぶ鹿。
複数の生物が融合したような獣。
翼が液体の鏡のように光を反射する鳥。
「……現実じゃない」
ナラが震える声で呟く。
その瞬間、黄金のグリフォンが影から現れ、鹿の群れへ襲いかかった。
谷は光と悲鳴と土煙で爆発する。
完璧な暴力。
完璧な自然。
ここには、この世界の法則がある。
そして彼らは——ただの異物だった。
夜が迫る。
霧が濃くなり、影が長く伸びる。
アドリアンは頭の中で冷静に数える。
二十人の護衛。
拳銃二十丁。
予備弾倉六十。
それだけだ。
「まずは隠れ家だ。それからだ」
岩陰へと移動する。
森は、間違いを許さない。




