五十八話 パンドラの箱
森の中、俺たちと御子は対峙する。
「みんな、お願い」
「了解した」
御子が自分の後ろに並ぶ部下たちに命令する。
部下の黒魔導士たちは、様々な武器を持って俺たちに襲い掛かる。
「疾風!」
「バージャーショット!」
俺は風の魔法、ティムールは木の矢で黒魔導士たちを薙ぎ払う。
俺は御子の前まで躍り出ると、刀を振り下ろす。流石に子供相手で躊躇はするが、その一瞬が命取りになりかねない。
俺は思い切った。
「光明!」
「カウンター」
案の定、俺の魔法はそのまま返された。だが、俺にもその魔法は効かないってことを忘れたか?
「カウンター!」
「吸収」
「な? 学習してる?」
俺の華麗なカウンター返しは緑色の宝石が埋め込まれた魔法道具によって吸収されてしまった。
「馬鹿にしてるの」
御子が呆れたような声を出す。この子、喋れたんだ。
「いや、してないけど!」
「爆破」
御子は俺の返答を待たずに赤い宝石の魔法道具で俺を吹き飛ばした。
「やっぱり子供相手だと調子狂うな……」
俺は地面を転がりながら受け身を取る。
だが、これだけ攻撃を受けてもどうしてか、この子が自分の意志でこんなことをしているようには見えなかった。彼女はまだ善悪を判断できるような年齢でもないだろうに。どうしてこんなことをさせられているんだ。
「セントラルで戦ったときは容赦なくやってたじゃないか」
「あれは、テイマーがまさかこの子を壁にするとは思わなかったんだよ。その後も、引くに引けなかったし……」
お節介かもしれないが、彼女は本当の悪ではない気がした。
確か、彼女は黒の帝王の娘で、無色のハーフのはずだし。
「おしゃべりしに来たの?」
御子が感情の籠らない声で呟く。
「君こそなんで来たんだよ。俺たち試験の最中だったんだけど」
「ママに言われたから……」
「黒の帝王か」
俺の言葉を御子は無視する。
「成人もしてない実の娘を戦地に送るってのもどうなんだろうな」
「成人してるかどうかがそんなに大事なの? 平和ボケしてるんだね。私の国では同い年の兵隊さんなんかいくらでもいるよ」
御子が続ける。彼女は俺に対して呆れた様子で、ゆっくりと近づいてきている。
「トオル、それでこの子どうするんだ?」
「保護……したいけど、上手くいくかどうか」
「それなら任せろ」
ティムールが俺の前まで来て、弓を構える。
「フォレストスナイプ!」
「お願い」
またも黒の魔導士たちが御子の前に壁として立ちふさがる。魔導士たちは黒魔法でティムールの攻撃に対抗する。
「雪月花!」
俺はそれに割り込み、雪の魔法で魔導士たちを振り払う。
「よし、今だ! アイヴィコフィン!」
「え?」
ティムールが咄嗟に放った魔法のツタによって、御子は罠にかかった野生動物のように捕獲された。
さらにティムールがツタの檻に近づき、手を添えた。
「治癒」
数秒の間、御子は抵抗するようなそぶりを見せたが、大人しくなると、そこから動かなくなった。
「眠った……のか?」
「ああ。過剰に体にエネルギーを送って眠らせた。食後に眠くなるのと似たような原理だ。大人を眠らせるのは苦労するが、相手が子供ならこれも有効だ」
「よかった。ひとまず近くの教師を探すか」
ツタの檻から御子を持ち上げる。彼女は安らかな寝息を立てながら眠っていた。
こうしていれば、ただの少女と変わらないはずなのにな。
彼女を黒の兵士たらしめているものはなんなのだろう。
いや、彼女だけじゃないか。黒の魔法が魔導士を狂わせるのなら、生まれつき黒の魔力に侵されている彼らはどんな気持ちで戦っているのだろう。
生まれたときから悪と決めつけられる人生があってもいいのだろうか。
「そうだな。他にも敵がいるかもしれなからな」
ティムールも歩き始める。
俺は腕の中の御子を見ながら、彼女の胸と腹の間に不自然なふくらみがあることに気づく。何か魔法道具でも装備しているのだろうか。
俺はやましい心などは全くない気持ちで、彼女を一度地面に置くと、みぞおちの部分が見えるように服を少し開いた。
「トオル? どうした? おい?」
俺は絶句していた。
「なんだよ……これ……」
そこにあったのは、色の付いていない透明な宝石の見た目をした、巨大な魔法道具だった。
問題は、その魔法道具が、体と一体化するように埋め込まれていたということだった。
次の瞬間だった。
俺が魔法道具に手を触れると、それに反応したかのように御子が急に目を覚ましたのだった。
そして、
「殺戮」
胸部の魔法道具がどす黒く染まり、魔法が放たれようとしていた。
「まずい!」
俺はティムールと共に、すぐに御子から離れる。
しかし、それももう遅かった。
俺は決して開けてはいけない、パンドラの箱に手を触れてしまったみたいだ。
緑の章、あと八話程度でまとめられそうです。
ちなみに、ここからの学園編はあと二章分の予定です。




