五十七話 再会の連鎖
リツの攻撃によって、ヴァルヴァラは両断され、下僕たちもほとんどが倒されていた。
「助かった……」
「ありがとうございます! て、大丈夫ですか?」
パーシヴァルとソニアはリツを見上げる。
「気にするな……敵も倒したんだ。あとは増援を待とう」
「そうですね……」
「どうもそうはいかないみたいだけど?」
リツの後ろからリェナが口を挟んだ。
「何だと?」
「あれ、私何でこんなところにいるんだっけ? ふむふむ。ありがと下僕ちゃん! 私はヴァルヴァラって名前なんだね! よし、思い出してきた!」
リツの視線の先には、倒したはずのヴァルヴァラが立っていた。彼女は下僕たちに何やら木の板に書かれた文字を見せられている。
「確かに斬ったはずだ……」
リツが戦慄する。
「うん。私の体は斬られたよ。でも、私の場合、肉体の死は意味がないんだよね。肉体はただの器っていうかさ。よくあるじゃん? そういうの」
ヴァルヴァラは体をポンポンと叩きながら、カラッと笑った。
「この、化け物め!」
リェナがヴァルヴァラを魔法で浮遊させる。
「おお、サイコキネシスかぁ。なんか変な感覚だね」
「フリーズブレード!」
「フェンジーテンポ・アレグロ!」
それに追随して、パーシヴァルとソニアがヴァルヴァラに攻撃を仕掛ける。氷の剣と、高速で繰り出されるダガーがヴァルヴァラに迫る。
しかし、
「バークアーマー」
彼女は樹皮の盾で身を守る。
さらに、
「グルーミースナイプ・ペリダニア」
「ぐぁぁ!」
ヴァルヴァラは弓を引き、禍々しい植物で覆われ、先端は食虫植物のようになった矢を二人に放った。
その矢は二人の魔法を食らい酸によって鎧を溶かした。
「陰気な魔法でゴメンね」
ヴァルヴァラがウインクする。
「さて。白髪の君も終わりにしよっか。グルーミースナイプ・ニースタスヴァ!」
「一閃!」
再び、禍々しい矢がリツに向かって放たれたと思われたその瞬間、リツの目の前にトオルが割り込み、攻撃を打ち消した。
「トオル?」
リツは茫然と立っている。
「リツ、あとは任せ……」
トオルが決め顔でリツに振り向こうとしたが、
「バージャーショット」
「へ?」
ヴァルヴァラに矢が突き刺さり、刹那の後、一人の小柄な少女、リーリヤが彼らの目の前に移動してきたのだった。
「タイプ・ドラセナ」
そう言うと、リーリヤの体から血管のような幹と鋭い葉を持った植物が生え始める。
「フォレストスナイプ・ラズルーシェニア!」
リーリヤが放った植物で覆われた矢はヴァルヴァラの体を簡単に貫き、粉々にした。
リーリヤは一仕事終えたように、息をついた。
「君は、リーリヤ……?」
トオルが恐る恐る尋ねる。
「マスター? どうしてこんなところに?」
トオルに付いてきていたティムールが珍しく大声を上げた。
「マスターだって? こんなちびっ子が?」
サーナーが素っ頓狂な声を出す。
「また会ったね。トオル。そうだ。私がエリアグリーンのマスター、リーリヤ・カリストラトヴァだ。どうも騒がしかったので来てみたら、黒の魔導士が見えたからね。少しちょっかいを出しに来たよ」
リーリヤは相変わらずの薄い服を払いながら微笑んだ。
◇
俺は困惑していた。
まさか、あのとき森で出会った少女の正体がエリアグリーンのマスターだったなんて。
「ああ。そうそう。私の姿は魔法で自由に操れてね。こんな風に」
「お姉さんになった……」
リーリヤは魔法を使い、少女の姿から、元の大人の女性の姿へと変身した。もちろんこの姿が本当の姿かは分からないんだけど。
「いつもは小さい体のほうが落ち着くから、少女の姿で過ごしている。戦うときはこの姿の方がいいな」
そう言ってリーリヤさんは、大きくなったことでより危険度が増したうっっすい服を払う。
「あ、そうそう私はヴァルヴァラ。ヴァルヴァラ? うん。そうだったね。多分」
「……は?」
今、ヴァルヴァラの声が聞こえたような。いや、ヴァルヴァラは確かに死んだはずだ。
「いやぁ。驚いたよ! 今日だけで二つも『体』を消費するとは思わなかったからねー」
そこには確かにヴァルヴァラがいた。復活していたのだ。
「下僕の体を自分の精神の器にしているのか。一人でも下僕を残していれば永遠に復活できるというわけだな」
そんな敵の様子に一切動揺せず、リーリヤさんは冷静に分析を始める。
「そうだよ! しかも下僕ちゃんたちは、作ろうと思えばいくらでも作れるからね。ある意味永遠に生きてるっていうか? 復活するたびに、前の記憶は曖昧になって行っちゃうのが難点だけどね」
「なんて奴だ……」
サーナーも絶句する。彼が息絶え絶えなのは俺たちを急いで呼んで来たからでもあるが。
「さーて、無色の魔導士くん本人も来たことだし、もう一発行ってみよー!」
リーリヤが指を鳴らすと、倒されていたはずの下僕たちが立ち上がった。
緑の魔導士は治癒の魔法が使えるからか。
「ヴァルヴァラさん。大きな音がしたけど大丈夫?」
茂みから一人の少女を先頭に、小さな部隊が現れた。
「おー! 御子ちゃん! 今日も可愛いね。私を助けに来てくれたの?」
御子だと? あの、エリアセントラルが襲われたときの、カウンターの魔法を使っていた少女か?
「うん。ヴァルヴァラさん、苦戦してるみたいだったから」
「そっかぁ。ありがとね! でも大丈夫!」
「でも私、ヴァルヴァラさんとママの役に立ちたい……」
御子は前回会ったときよりにも増して、体中に魔法道具を装備していた。
「そうなの? じゃあ……ひらめいた! そこの無色の魔導士君の相手をしてくれるかな?」
俺かよ。
「え。うーーん……わかった……」
「うん。よろしくね!」
御子が嫌そうな顔をしているのは、多分俺がエリアセントラルでカウンター返しをさんざんしたせいだろう。普通の魔導士相手だったら、カウンターの魔法道具は超絶厄介だろうしな。
「御子、あのときの……」
ティムールが俺の横で呟く。
そのすぐ後。
「強制追放」
御子は右腕に着けた、宝石がはめられたリングを構えて淡々と詠唱した。
「何?」
次の瞬間、俺の周りの景色は一変していた。
「俺まで移動させられた?」
一つ同じなのは、横にティムールがいることだった。
ただ、周囲の景色から察するに、俺たちが強制的に移動させられたようだった。
今回と次回のエピソードは書いているときは一話分としていたのですが、5000文字を超える勢いだったので二話に分割しました。




