五十九話 天より穿つ
森の中、緑のマスターのリーリヤと、緑の七戦帝のヴァルヴァラが対峙する。
「タイプ、カクトゥス」
その言葉と共に、リーリヤの肌に無数のトゲが生え始める。
「ニードルストーム!」
風と共にトゲが舞い、鋭いトゲの嵐がヴァルヴァラを襲う。
「グルーミースナイプ・ジャヌスト」
ヴァルヴァラは素早く弓を引き、矢を放つ。
その矢は飛んでいる最中、周囲のトゲを黒く染め、自分の攻撃に巻き込んでいく。
リーリヤは黒のトゲと矢を風で薙ぎ払った。
「ずいぶん陰湿な魔法ね」
「そういう魔法が好きなの。いいでしょ?」
ヴァルヴァラが笑いながら弓を引く。再び彼女の体を醜悪な見た目の植物が覆う。
「グルーミースナイプ・ヴァッサカニエリ」
「自分の下僕を撃った?」
矢の刺さった下僕たちは、ふらふらと立ち上がると、突然雄叫びを上げた。キノコの成分で脳の神経を刺激されて、力がみなぎっているようだった。
「私の魔法も元は緑の魔法。治癒とか、植物の成分を流し込んで身体強化とかはお家芸だからね」
「ならこちらも。超治癒」
今度はリーリヤがパーシヴァルやソニア、リェナ達に魔法をかけた。
「一瞬で傷が治った……?」
リェナが信じられないと言うように自分の体を見る。
「白髪の君は休んでおいた方がいい。君には魔力が残っていない」
リーリヤはリツに冷たく言う。
リツも無言で頷く。
「僕たちは下僕の相手をします!」
すっかり元気になったパーシヴァルが剣を抜く。
「頼んだ。君たちも神経を刺激する魔法で一時的に身体能力を上げている。安心して戦うといい」
「本当! 体が軽い!」
ソニアもダガーで下僕の攻撃に応戦する。レンジャーたちと、下僕は同程度の強さの様だった。
「さて……」
リーリヤはヴァルヴァラに向き直る。
「やっと本気を出してくれる?」
ヴァルヴァラは舌を出して微笑む。
「タイプ、フォレスト」
リーリヤは何も言わずに、自身の究極の形態へと変身する。腕や背中からは気が生えており、体を包むように葉が生い茂っている。
「フォレストスナイプ・アトリーチュナ!」
リーリヤは天高く飛び上がると、太陽を背にして、森の力を最大限に込めた一撃をヴァルヴァラに放つ。
それはまるで、森が空から降ってきているようだった。
「グルーミースナイプ・リヤヌスト!」
ヴァルヴァラも負けじと禍々しい矢を放つ。
意外なことに、ヴァルヴァラの放った矢はリーリヤの究極の攻撃と拮抗している。
「この魔法は敵の魔法の攻撃が強ければ強いほど、強くなるの!」
ヴァルヴァラはそう言いながら矢に魔力を送り続ける。
「それはすごいな。だが、その程度の魔法に私が負けるとでも?」
リーリヤは焦ることなく、笑みを見せる。
「どうして? 私の魔法が押し負けてる? 何で魔力がなくならないの?」
「光合成よ。私は光がある限り半永久的に魔力を回復できるわ」
全身に葉を広げた今のリーリヤは太陽の力によって無敵だった。
「そんなぁ!!」
魔法を維持できなくなったヴァルヴァラは、リーリヤの矢を食らい、四散した。
「今日だけでもう三体目かぁ……」
数秒後には、ヴァルヴァラは別個体となって復活していた。
「まったく。きりがないな……」
リーリヤはため息をつく。
◇
モルとアカリは森の中を、キューブを探しながら歩いていた。
「なんかさっきから周りが騒がしくないですか?」
モルが心配そうにあたりを見渡す。
「そうね……他の受験生の人たちが戦ってるんでしょうね」
「それにしては何だか数が多いような……」
「――きゃっ!」
アカリが悲鳴を上げる。
彼女の前に一人の男性が転がってきたのだ。
「何?」
モルもすぐに駆け寄る。
「トオルじゃない! どうしたのよ!」
アカリは転がってきたトオルを見て叫ぶ。
「御子だ……気をつけろ……」
トオルがうめくように返す。
「御子?」
「セントラルを襲撃したあの幼女のことですね……」
モルが額に汗をにじませた。
「ティムールさんも!」
今度はモルの前にティムールが吹き飛ばされてくる。
「あれは、まずいぞ……」
ティムールも、死んだような目をしていた。
その先には、真っ黒な目をした幼女、御子が立っていた。
「殺戮」
御子は手に持った真っ黒な大鎌でモルたちに襲い掛かる。
「来て! ケートス!」
「緋桜!」
モルとアカリは、かろうじてケートスと桜の魔法で御子の一撃を受け止める。しかし、御子は二回目、三回目と次々と鎌を振り回す。
アカリも刀で受け止めるが、対処がギリギリ間に合っているだけで、攻撃はほとんどできていない。
「朱雀、二人を守ってくれ!」
トオルが寝ころびながら叫ぶ。
「任された。この娘を倒せばいいね」
人型で召喚されてきた朱雀が淡々と言う。
「やりすぎるなよ?」
「それは保証できないかも」
朱雀は猛スピードで御子に迫ると、アカリやモルのことは気にせずに、猛烈な蹴りを加える。
御子は蹴りによって一瞬のけぞるが、すぐに超人的な反応で鎌を振った。
朱雀もすぐに反応して、それを間際で避ける。
「ちっちゃいのに強いのか。すごいかな」
朱雀も御子の非人間的な動きに少し焦りを見せる。
しかし、少しずつ御子の動きが鈍くなっているのも確かだった。
「ケートス!」
朱雀が斬られるのをモルのケートスが間に割って入ることで防ぐ。しかし、ケートスは魔界に帰されてしまう。
「せめてあの魔法道具を……!」
更にアカリが好きを狙い、胸元の魔法道具に刀を伸ばすが……
「――おっと。それはやめてもらおうか?」
突如、割り込んできた男に刀を握られてしまう。
「ジャック、力を借りる」
突如現れた男、黒の帝国の大隊長、ベルセルクの右腕が猛獣の者に変化する。
「斬撃」
「嘘?」
アカリは突然の攻撃を防げずに、斬撃によって数メートルほど飛ばされてしまう。
「ベック、力を借りる」
ベルセルクは今度は、自身の顔をドラゴンのものに変形させた。
「え? 顔まで?」
モルが立ち尽くす。
「咆哮(ロア―)!」
ベルセルクが放った咆哮は、モルと朱雀を巻き込んだ。
「凄まじい魔力だよ……」
朱雀も倒れこむ。
「二人……と一匹! 大丈夫か!」
トオルがアカリ達に駆け寄る。
彼女らの肌には痛々しい、駒かな傷がびっしりと刻まれていた。
「久しぶりだな。トオル・ムメイ」
ベルセルクが、倒れている御子を抱き起こしながら言った。
「ベルセルク、お前!」
「まったく。俺の妹に何をするんだよ。傷が付いたら大変だろう」
ベルセルクは冷たい目でトオルを睨む。
「お前こそ、こんな小さな子に戦わせるのが正しいと思ってるのか!」
「黙れ。お前が正義を語るな。無知に発言権は無いんだよ。御子は本心で戦ってる」
御子を気によりからせて座らせると、ベルセルクはトオルを見た。
「力を借りるぞ。フィーネ、ジャック、ヴェイン、ベック、アルカトラズ」
「は?」
ベルセルクの腕は虎に、体はドラゴンに、羽根は生えて、足は鋭く爪の生えたものに、顔も凶暴な獣の姿に変わった。
「フォーム・キマイラ。この場にいるお前の仲間を全員殺して、お前を堕落させる。それですべて終わりだ」
声すらも変わったベルセルクが叫ぶように鳴いた。




