五十四話 協力体制
俺は森の中で目を覚ました。
「どこだよ、ここ……」
無論、どこにいるかなんてわかるはずがない。エリアグリーンにある、試験会場の森のどこかだ。
「一人で行動するのは危険だよ」
背後から声がした。そこには長身、銀髪、蒼眼の美青年が立っていた。銀色の鎧を着ており、腰には剣を提げている。
「誰だ?」
「僕はパーシヴァル。パーシーでいいよ」
美青年は笑顔で名乗った。
「もしかして、俺とチームを?」
「そうさ。この試験はチームを組まないと勝ち目がないよ。君もそう思うだろう?」
「そうだな。戦闘になったときに人数差があると厳しい」
戦闘において人数差というのはかなり大きいハンデになる。このタイミングで味方を増やせるのは正直ありがたい。
「そういうことだ。ところで君、何色なんだい?」
パーシーは小首をかしげる。この人は俺のことを知らないのか。
「俺は無色だよ。そう言えば名乗ってなかったな。トオル・ムメイだ」
「無色のトオルか……聞いたことがあるような」
「ずいぶん有名になっちゃったな」
黒の帝王に知られるぐらいだから、もう知らない人も少ないのだろうか。
「そうだね。あ、これ。ヒントじゃないかな?」
パーシーは俺の右手側に生えている木に引っ掛かった、一枚の紙を手に取った。
紙には、赤色の漢字で魔法陣のようなものが書かれていた。
「本当だ。これは中国語かな?」
「チューゴクゴ?」
パーシーが目を丸くする。
「あ、いや。エリアレッドの昔の言語、みたいな」
危ない。この世界に中国は無かったな。エリアレッドがそんな感じではあったけれど。
「確かに。これはエリアレッド発祥の魔法詠唱法で使われている字だね。いや、今はエリアホワイト式か。もしかして、読める?」
「文字は分からないけど、多分この欠けてるところに一文字加えれば魔法陣が発動するんじゃないかな」
俺は紙に書かれた魔法陣の欠けている部分を指さす。
「そうだね。じゃあ記憶を辿るとしようかな……」
「辿る?」
「青の魔導士は記憶を司る魔法を使えるんだ。今使っている『アーカイブ』は自分の無意識の記憶の中から情報を取り出す魔法さ」
パーシーは目を閉じて集中している様子だ。
「無意識の記憶?」
「人間が記憶していられるのは、普通は意識して見たり聞いたりした記憶だけなんだ。でも、もちろん無意識の内に見たり聞いたりしている記憶もある。それが無意識の記憶だよ」
「なるほど……」
わからん。
「思い出した! こうだな」
パーシーは目を開けると、すらすらと魔法陣に漢字を書き込む。
「あとは赤の魔力さえあれば……」
「それがないと魔法陣が起動しないのか?」
そうか、赤色の魔法陣を起動させるためには赤色の魔力が必要なのか。それはクソゲー過ぎるような。
「違う色の魔力でも起動は出来なくはないし、魔法陣の式から、キューブがどの座標にあるかも分からなくは無いんだけど、手間がかかるんだよなぁ」
「なら俺に任せてくれ」
俺はヒントの紙を手に取る。
「でも君は赤の魔導士じゃないんじゃ?」
「俺は無色だから何色にでも染まれるんだ」
俺は体内に残っていた赤の魔力を魔法陣に流し込む。
その瞬間、魔法陣から炎の魔弾が発射され、俺たち顔の横を通過していった。
「うわ!」
炎の魔弾は、俺たちから数メートル程離れた木に衝突し、焦げ目をつけていた。
「あそこにキューブがあるってことか」
俺とパーシーはともにキューブがあると思わしき木へ向かう。
「あれ? 無いな? もしかして、これ偽のヒントかな」
「そんなのあるのか?」
「うん。僕、君に会う前にも一つヒントを解いたんだけどそのヒントも偽物で、キューブは手に入らなかったんだよ。今日はツイてないな」
パーシーは落ち込んでいるようだった。
「でもこのペースで探していけば、きっと見つかるはずだよ」
「……そうだね」
容姿の整った人は何をしても絵になるな。
というのはどうでもいいんだった。この不運な彼と共に早く本物のヒントを見つけないとな。
◇
トオル達から少し離れた場所では、藍のレンジャー選抜であるモルが二人の魔導士に囲まれていた。一人は黄色の四人衆、マハンガだ。
「二対一はさすがに厳しいですね……」
モルは斧を持っていない左手で額の汗を拭う。
「ブリザード!」
「サンダーレイン!」
二人が同時に攻撃を仕掛ける。あたりに雷と猛吹雪が吹き荒れる。
「操舵奪取!」
モルは必死に斧を振り、二つの魔法を払いのける。
しかし、彼女の背後にマハンガが迫っていた。
「貰った! ライトニンングコンボ!!」
「――桜吹雪」
突如、横から桜の攻撃を受けたマハンガは避けることもできずに、吹き飛ばされてしまう。
それと同時に藪の中からアカリが顔を出した。
「アカリさん!」
「まさかこんなところで会えるなんて思わなかったわ。モルさん」
アカリもモルとの再会を喜ぶように微笑む。
「隙あり! アイシクルブレード!」
今度はアカリに氷の凶刃が迫る。
それにモルは素早く反応すると、叫んだ。
「遅いです。来て! ケートス!」
次の瞬間、彼女の手元から藍色の子クジラが現れた。
「クジラ?」
青色の剣士は驚愕する。
「大海の斧撃!」
クジラと共に放たれた強烈な斧の一撃は剣士を吹き飛ばした。
「いつの間に使えるようになったのね」
「この数か月間、何もしてなかったわけじゃないですから」
モルは得意げになる。
「すごいわ、でもどうしてモルさんが狙われてたの?」
「多分これのせいですね」
モルはふところからキューブを取り出した。
「キューブ!? もうですか?」
「あ、これ転送したら目の前にあったんです」
モルはあまり嬉しそうではなかった。
「強運ね」
「まあそれはいいんです。アカリさんに会えてよかったですよ。良ければ一緒に一緒に行きませんか?」
「もちろんいいわよ!」
彼女らは早々に意気投合を果たすと、森の中を歩き始めた。
◇
二人の様子を木の上から覗いている者がいた。
緑のエキスパートにして、学園の教師。ゾーヤだ。
「やはり本命はレンジャー選抜たちでしょうかね」
彼女は通信用の魔法道具で森に散らばった教師たちと連絡を取る。
「そうだな……こっちでもシンシアとジンが手を組んだみたいだ……」
吐息の多めな声が帰ってくる。
「南側も、ダミニにイグナシオ、フブキと注目株が揃っている。だがまだ試験は序盤も序盤。これからどうなるかは、まだ誰にもわからないだろう」
次いで男前な声が彼女の元に帰ってくる。
それを聞いた彼女は小さく笑うと、足をぶらぶらとさせながら応えた。
「そーですね。まだまだこれから。面白くなるかな?」
ゾーヤは笑顔のまま通信を切った。




