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転生してもムショクでした ~無能と呼ばれた『無色』の魔導士は色に染まって無双する~  作者: 越水けい
緑の章

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五十二話 新たなマスター

俺はゼンさんに支えられながら、ヒジリさんのいる応接間まで来ていた。


「はは! わざわざありがとうな、ゼン」


 ヒジリさんが笑う。


「いえ、いきなり彼が門に衝突して倒れたのでびっくりしましたよ」

「なんかすいません……」


 随分と酷い初対面だった。


「ゼンさんは、今まで何してたんですか?」

「国境の外で開拓者としていろいろと。主には『灰色の彷徨者』を探していたかな」


 国境の外……そういえばエキスパートしか出れないんだっけ。あとは軍に所属してる人か。というか、


「灰色の彷徨者とは?」

「ああ。あの良い噂も悪い噂も聞く、国境の外をさまよってる謎の魔導士のことか」

「奴は悪人ですよ。黒の魔法を使うのですから。黒の魔法を使う者は悪です。それは当然の理屈でしょう?」

「そっそうだな……」


 黒の魔法も白の魔法も使うから灰色? 白と黒のハーフなのだろうか。


「今も願わくば奴を捕えたいとはと思っていますよ。ですが、マスターの仕事はやらないといけませんからね。ヒジリさんの危機に駆け付けられず、不甲斐ないです」

「いいんだ。俺が選んだ結果だ。それに、セントラルの奴に頼んだら義手を作ってくれるらしい。最近の魔法技術はすごいな」

「それはよかったです」


 ゼンさんは聡明な良い人という感じだな。


「そういえば、フブキのお兄さんのヒョウガさんはマスターにはならないんですね」

「彼はああ見えて頑固だからね。私もよく喧嘩したよ。酷いときは真剣で斬り合ったり」


 善人同士でも喧嘩はするものなのか。真剣で斬り合うって相当だな。


「うちの兄がどうかしました?」


 廊下からフブキが現れた。


「フブキさんか! いつもリツが世話になっているね」

「本当ですよ。リツは私がいないと何もできないんですから……!」


 本当にこの人、リツがいないところでは好き放題言うよな。


「それは昔の話だろうフブキ。それはそれとして、久しぶりに会えて嬉しい。叔父さん」


 あ、本人。というか、叔父さん?


「久しぶりだね。リツ。学園の試験も頑張るんだよ」

「えっゼンさん男だったんですか……!」

「そうだよ。よく勘違いされるのだけどね。もう慣れたよ」


 フブキよりも長い髪をたなびかせながらゼンさんは笑った。





 トオルたちが部屋を去った後、ヒジリは真剣な顔でゼンに聞いた。


「まだ、聖の魔法を使ってるのか?」

「はい。黒の魔導士を斬るには聖の魔法が一番良いです。それに私はもう来るところまで来ていますから」


 ゼンは顔色を変えずに話す。


「そうか。それなら俺も止めはしないが」

「私が選んだ道ですから。正義に身を投じる覚悟ならもう済ませてます」

「マスターを押し付けて悪いな……」


 ヒジリは右肩をさする。


「いえ。私は黒を滅ぼせればなんでもいいのですよ。下手に中立を気取っている灰色も気に食わない」


 それだけ残すと、ゼンは席を立った。





 俺たちは表まで来ていた。


「学園の試験まで残り一週間だな」


 リツは数本の木刀を背負っている。


「ゼンさんに稽古つけてもらうのは?」


 フブキが思いついたように言う。


「叔父さんも忙しいだろう。俺たちだけでやろう」

「そっか……まあそうだよね」

「アカリはどこに行ったんだろ」


 いい加減、誤解を解きたいところだ。と思っていたら、門からアカリが現れた。


「トオル!」

「アカリ?」

「ごめんなさい! 私、トオルが勝手に女性を連れ込んだのかと……」


 アカリが申し訳なさそうな顔で謝罪する。


「誤解が解けたみたいで良かったよ」

「本当にごめんなさい。トオルがそんなことするわけないのに」


 良かった。一応の信頼は得られてるみたいだ。


「いやいや、大丈夫だって。むしろあれぐらいじゃ何にも感じないというか……」


 久しぶりの『理不尽耐性』の使いどころだった。これまで戦ってきた敵は……理不尽のレベルを超えた最低な奴ばっかりだったからなぁ。


「それって、もっと冷たい目で見られたいってこと?」


 フブキが口を挟む。


「え」


 俺の思わぬところから鋭い一撃が飛んできやがった。実際、聖人のアカリに引かれるという状況には何か来るものがあるけど、決して俺はそういうのでは……


「へぇ……トオルってちょっと変わってるのね……」


 ガッツリ引かれた。


「誤解も解けたいみたいだから行くぞ」


 相も変わらずにリツが話の流れをぶった切っていく。今新しい誤解が生まれたんだけどな。


「行くってどこに?」

「山だ。今年の試験はエリアグリーンで行われるらしいぞ。なんでも、『宝探しサバイバルレース』らしい」


 何かワクワクする試験だな。


「随分と開拓術よりなのね」


 開拓術? サバイバル術的なやつか。


「そうだな。去年よりはマシだと言えるか」

「去年は何だったんだ?」

「エリアセントラルの広場を貸し切って受験者全員でバトルロイヤルよ……」

「何というか、蟲毒みたいだな」


 考えるだけでもぞっとする試験だ。


「あれはもうやりたくないわね」


 アカリの顔が戦慄を感じさせた。


「この辺りでいいだろう」


 リツが荷物を置く。目の前には森が見えていた。


「試験に向けて特訓かい? 面白そうだね。私も混ぜてよ」


 気づくと、俺たちの後ろにゼンさんがいた。いつの間に。


「ゼンさん?」

「私が森の中で逃げて、それを君たちが追いかけるというのはどうだい?」


 唐突な提案だな。俺たちの話を聞いていたような口ぶりだ。


「四対一でいいんです?」

「むしろそのぐらいでないと相手にならないと思うよ」


 流石マスター。自信がすごい。


「じゃあ、十秒後に探し始めてくれ」


 ゼンさんはそう言って颯爽と森へ消えて行った。


 十秒経った。


「俺たちも行くか」


 リツが木刀を手に歩き出す。俺たちも続いて森に入る。


「手分けして探す?」

「いや、四人で探した方がいいと思うぞ。一人だと見つけても逃げられるだろう」


 そう言いながらも、俺たちはそれぞれ別方向を歩いていた。まぁ、俺の魔力探知があればゼンさんを見つけるのも簡単なんだけど。


「アカリ! 多分その先にいる!」

「それってこっち?」


 アカリが一歩踏み出したその瞬間、地面の間近に張られた糸に足を取られた。

 

「糸?」

「糸斬り」


 忍者のように素早く現れたゼンさんが彼女の背後から、刀身の無い刀で彼女を斬る。いや、刀身が糸になっているのか?


 しかし、アカリは咄嗟の反応で糸を燃やした。


「燃えた?」

「緋桜!」


 素早くアカリが振り返り、木刀でゼンさんを突く。しかし、


「雪斬り」


 ゼンさんは今度は刀身を雪に変化させ、火をかき消した。


「晴嵐! アカリ、一度離れて!」


 フブキが霧を張り、それに乗じてアカリがゼンさんから離れる。


「紙吹雪」


 一方、現マスターの方は冷静に風を起こして霧を晴らす。


「そこだね」

「嘘?」

「光斬り」


 更には霧に乗じて近づいていたフブキを捉え、光の刀で切り裂いた。


 俺とリツはそこに更に追撃を仕掛ける。しかし、それすらも見切られ……


「一閃」


 フブキへの攻撃の勢いのまま俺たちに向けられた攻撃を何とか避けながらも、俺たちは体勢を崩して倒れこむ。


「良い回避だ」


 俺たちが倒れたのを確認すると、ゼンさんはすぐに逃げ始める。


「待て!」


 俺たちも木を伝いながら俊歩で後を追う。


「千羽鶴!」

「紅蓮!」


 リツの千羽鶴に俺が着火する、炎を纏った鶴たちがゼンさんを囲む。


「まったく。森が焼けてしまうよ。雪月花」


 またもや一瞬にして火が消え去った。今のは自信あったんだが。


「刹那」


――気づいた時には攻撃を食らって俺たちは倒れこんでいた。


「隙だらけだよ」

「俺が見切れない速さだって……?」


 攻撃が見えなかった。奥義でもない技でこれだけの速さが出せるものなのか?


「国を出ればもうそこは修羅の世界。そんなところに何年もいれば嫌でも強くなるんだよ。君たちも頑張ってくれ」


 ゼンさんはそう言うと足早に帰っていった。


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