五十話 想い人
黒の帝国では七戦帝と直属部隊の幹部たちが集められていた。
「ブラッドが敗れたようですね」
青の七戦帝、サイモンが話し始める。
「あの野郎。あんなに格好つけて負けたのかよ!」
ディザスが憤る。
「負けではないよ。マスターを二人倒した。十分な活躍だ。それにしても、無色の彼も成長したね……」
黒の帝王がディザスを牽制する。彼女はトオルの成長を喜んでいるようだった。
「陛下、今の作戦はあまり良いとは思えないのですが。七戦帝全員、いえ、黒の帝国の全軍隊をもって攻撃を仕掛けない限り、オクトを滅ぼす術は無いかと」
サイモンが眼鏡を直しながら言う。
「もっともな意見だ。でも私はこの作戦を変えるつもりはないよ。まずは彼に試練を与えることがこの作戦の目的なのだから」
「そのためには我々を駒として扱うことも厭わナーイのデスネ?」
橙の七戦帝、エルナンドが口を挟む。
「私は陛下のためならこの命、惜しくはないですよ!!」
今度は緑の七戦帝ヴァルヴァラが深緑色のポニーテールを揺らしながら立ち上がる。
「ありがとうヴァルヴァラ。頼りがいがあるね。そんな君にお願いがあるんだけれど、いいかな?」
「捨て駒でもなんでも、やってやりますよ!」
「あと数週間後にエリアグリーンで学園の入学試験がある。そこを襲ってほしい」
黒の帝王は笑顔を崩さずに話す。
「かしこまりましたぁ! どのぐらいの攻撃を加えればいいのです?」
ヴァルヴァラは目を輝かせながら、右手で敬礼のポーズをとる。
「無色の彼を殺さなければ何をしてもいいよ。部下も自由に連れて行くといい」
「陛下は無色くんにお熱ですね! お可愛いです!」
「陛下に失礼だぞ」
サイモンが咎める。
「いいんだ。彼は私の想い人なのには違いないんだから。きっと彼なら私の正しさを証明してくれる……」
黒の帝王は自身の胸に手を当てると、オクト帝国のある方角を眺める。
「神を殺すことの正しさを……ね」
彼女は誰にも聞こえないような小さな声で、そう付け足した。
◇
私たちはエリアレッドを離れ、ホワイトまで帰ってきた。幸い、リツも大事には至らずに傷も回復していた。彼もフブキも、父さんの怪我に驚いていたけれど、ひとまずは無事に帰ってこれたことを喜んでくれた。
父さんは家出しばらく安静にしていないといけないらしい。私とトオルは、晴天の空の元、母さんの墓を訪れていた。
「俺まで付いてきてよかったのか?」
トオルが私を見る。
「いいのよ。今日は母さんに終わったよって伝えに来たの」
「そうか。それならよかった」
「うん」
私は母さんの墓の前で、瞳を閉じる。
私が本当に忘れていたことは、母さんは物言わぬ石塊なんかじゃないということ。そして、自分の人生を生きるということだったんだろう。
きっと母さんは私に自分を責め続ける人生なんか望んでいなかったはずだ。
なぜなら、私に優しさを教えてくれたのは母さんだったから。
私が目を開けると、トオルも目を開けたところだった。
「それじゃ、行きましょ」
「そうだな」
そうして私たちは歩き始める。
それにしても、自分の人生を歩むってどうすればいいのだろうか。
まずは、自分の気持ちに素直になるところからなのだろうか。思えば私は他人の色恋には興味津々で、よく話してはいたけれど、自分のことになると全く何をしていいか分からないのだった。
私は隣を歩く、青年の顔を覗く。
「どうかした?」
「いや……そうだ、そろそろ学園の試験ね」
「そういえばそうか! 今年は受かれるといいね」
トオルは柔らかな笑顔を見せる。初めてであった時よりも表情が豊かになったし、疲れがにじみ出ていた顔も今は健康そうなものになっている。
「トオルも受かるのよ?」
「一年目で受かるかな……? もちろん頑張るけど……」
何故受からないと思うのだろうか……あなたの実力なら受かるでしょうに。こういう、いきなり弱気になるところは始めから変わらないな。そこも含めてトオルなのだろうけど。
「トオルは受かるわよ。私が保障する」
「ありがと……」
トオルは頭を軽く搔いた。
自分の気持ちに素直になるのは、もう少し先にしておこう。大事な試験の前に彼を混乱させてはいけない。
だから、今はまだ心の中にしまっておこう。
そうして後で、ちゃんと伝えるんだ。
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