四十六話 心の中の炎
「隙をついて一撃で仕留めるか、魔力が尽きるまで耐久戦をするか……」
ヒジリはブラッドと戦いながらも、攻めあぐねいていた。
「お前の目的はレッカの一族の滅亡なのか? 語弊とはどういうことだ!」
リンが猛烈な勢いで槍を突く。ブラッドも炎を纏った腕でそれを受け流す。
「黙れ。お前たちがレッカを騙るな」
「何だと?」
「親父の言っていたことは本当じゃったということか……」
ガイが声を落とす。
「どういうことです?」
ヒジリが一度ブラッドから距離を取る。
「その昔、儂らの先祖は赤の国を統治していた一族、レッカ家を滅ぼし、レッカ家に成り代わったというのを聞いたのじゃ」
「そんな……じゃあ私たちは……」
「偽物のレッカ家だということじゃな」
ガイはそう言ってブラッドを見る。
「そうだ。うぬの先祖に我が一族は滅ぼされた。だから我は誓ったのだ。罪深き偽物の一族に必ず復讐するとな」
「本物のレッカ家の生き残り。それがお前か」
「そうだ。我の本当の名はギョウ・レッカ。これでうぬらがこれから殺される理由を聞けて満足か?」
初めてブラッドが感情らしい感情を見せる。彼の中に灯っている炎は復讐の炎だということだった。
「昔は報復を避けるために、敵の一族全員を殺していたというが、恐れられていたことが正にここで起きていたとはな」
「恨むのならば己が先祖を恨むがよい」
「好き勝手しているのはお前方だろう! 来い! 炎駒!」
リンは赤い麒麟、炎駒を召喚し、それと共にブラッドに突っ込む。
「終わりだ! 西狩獲麟!」
ブラッドは炎駒を正面から受け止め、体に傷を作りながらも攻撃を止めた。
「我は血を流すことで強くなる。何度攻撃しようと無駄だ」
「そんなのありかよ……」
傷はすぐに赤黒い地で止血され、その部分が鎧のようになる。ブラッドはリンに手を向ける。
「煉獄」
ブラッドが放った黒い炎は炎駒を焼き、魔界に強制的に戻した。さらに、リンまでも炎が包む。それをガイの魔獣、赤い龍、燭陰が防いだ。
「父上!」
「ブラッドよ……どうか許してはくれぬか。儂の子たちだけは、見逃してはくれぬか……」
ガイはブラッドの前で立ち止まると、先程までの勢いを失ったかのように立ち止まる。
「いきなり何を言い出す」
「儂らの先祖は確かに恨まれるだけのことをしたのじゃろう。儂の命と引き換えに、許してはくれぬか」
「ガイさん!」
ヒジリが走る。しかしガイはそれを制止する。
しかし次の瞬間、ヒジリの心配は現実となった。
ブラッドが容赦なくガイの横腹を抉ったのだった。
「なんじゃと……」
ガイは口から血を吐き出す。
「二百年の苦労を我が無駄にすると本当に思ったのか?」
ブラッドは表情を変えずにとどめの一撃を食らわせようとしていた。
「ブラッドォ!!!」
ガイは最後の気力でブラッドに槍を向けると、槍に自身の前魔力を込める。
「まだそれだけの気力があったか」
ブラッドは少しの焦りを見せる。
「奥義! 気炎万丈!!」
「奥義、死屍累々!」
爆炎、そして熱風。壮絶な魔法のぶつかり合いの末に残ったのは、ブラッドの姿だった。
「復讐の完遂まで残り五人……」
ブラッドは傷を負いながらも立ち上がる。
「父上ぇ!!」
「そんな……マスターが、負けた?」
ヒジリは覚悟を決め、刀を握りなおす。
「ガイさん。俺が仇を取ります」
◇
俺は魔法陣に魔力を供給しているリーパーの元に着く。名前はさっき聞こえた。
「お前、リーパーって言うんだな」
「むっ無色? 足止めしていたはずなのに」
リーパーはオドオドとこちらを向く。
「仲間が戦ってくれてるよ。俺はお前を倒してその魔法を止める役だ」
「ならば、私は私の役割を果たそう! 呪縛刃!」
またしても黒い触手が放たれる。残念ながら俺の敵にすらならないのだが。
「聖域」
俺は周囲に聖の魔法を放出する。黒の触手たちは浄化され、消滅した。
「そんな、私の魔法が! 聖の魔法だと?」
「そうだ。お前の呪いの魔法にはうってつけだな」
「その魔法に代償があることも知らないで使うなんて……私が言うのもなんだが、馬鹿なのでは?」
「代償?」
それは聞いたことがなかった。一体どんなものなのだろう。
「聖の魔法は使用者を白く染める……常識でしょう」
「なら黒の魔力が溜まってる俺には丁度いいな」
丁度黒の魔力が溜まりすぎて邪魔になってきたところだった。何だ。これじゃ俺にとってメリットしかないじゃないか。
「へ?」
「奥義、廓然無聖!」
俺はリーパーに聖の魔力の刀を振るう。彼の体は簡単に斬れ、そして倒れた。
「私がこうも簡単に負けるだってぇ?」
リーパーは倒れた後も、悔しげでいる。
「あぁ死ぬのは……嫌だ、嫌だ……恨めしい! ムメイトオルめ! まだ私は死なないぞ!」
「しぶとい奴だな……おい!」
リーパーは自分の体から、魂……のようなものを放出して脱出すると、俺の後ろにいたジンに入りこんだ。
「ジン!」
ジンの目は黒く染まっていた。
「私はこういうこともできる。憑依魔法だぁ。仲間は攻撃できないだろう?」
「嘘、ジンが乗っ取られた?」
アカリも顔を覆う。
「何よ。燃やせば解決じゃない?」
クオンがジンに槍を向ける。ん? 何やら様子がおかしいような。
「本当にクオン?」
「私にはもっと丁寧な言葉遣いをすることね。無個性さん」
クオン(?)は傍若無人な態度でいる。俺の知っているクオンはもっと大人しくて自信のない感じだった気がするんだが。そして無個性なのは割と気にしているからやめて頂きたい。
「俺は無色だ!……です」
「それでよい。無職の穀潰しよ」
呼び方がさらにひどくなっている。
「お前たち、私を置いていくな! 呪うぞ!」
ジンの中に入ったリーパーが喚く。もう面倒くさい。見た目と言動が一致しない人が一つの場に二人もいるなんて。頭がショートする。
「私、もう呪われているのだけど……」
アカリが自分の腕を見る。そこには黒い跡が刻まれていた。
「それは解除しておくよ」
俺はアカリの腕に触れ、聖の魔法で呪いを解く。
「私、もう眠いのだけど」
今度はクオンが欠伸をしている。
「それは知らないです」
「あんたたちに気力と筋力を強化する魔法をかけておいてやる。あとは任せる」
クオンは高速で魔法陣をかき上げると、宣言通り寝てしまった。本当に何だったんだこの人。
「聞いたことがあるわ。『心火』という魔法のことね。お母さんに教えてもらったっけ……」
「本当だ。自分の中に火が灯ったみたいだ」
体の中から力と共に勇気が湧いてくる。
「よし。ジン、今助けてやる」
俺は刀を抜く。
「助けてやるピヨ」
「白鷺?」
また勝手に出てきたのか。そういえば、焼き鳥にならずに済んだのか。
じゃなくて。何故にこのタイミングで出てきた? お前。




