四十五話 赤き翼の目覚め
ブラッドと四人の戦いは一進一退の様相だった。
「四人の相手は少々手がかかるな。来い、朱雀」
「お呼びでしょか。ご主人?」
ブラッドの背後に巨大な赤い鳥が現れる。
「足止めをしろ」
「了解するよ」
朱雀は不思議な言葉づかいで返事をすると、鳥の姿から、赤い髪を軽く伸ばした、長身の人間の女性の姿に変身した。
「人型になった?」
「私ほどの魔獣にもなると変身もこなせちゃうかな。人間相手だったらこっちの方が戦いやすいよね」
「こいつは俺がやる。三人はブラッドを!」
ショウが朱雀を引き付ける。それにガイたちも目を向け、無言で頼むと合図を送る。
「一人でダイジョブか?」
「人間様に勝てると思うなよ。魔獣」
ショウは右腕を広げる。
「魔獣様の強さをなめないほうがよろしだよ」
朱雀も目をぎらつかせる。
「来い! 霊亀!」
ショウが呼ぶと、大柄な赤黒い亀が現れる。
「おお、亀。そんなところにいたのか」
「朱雀よぉ……まさかこんなところであんたに会うとはなぁ。ショウ、こいつぁ手ごわいぜ」
霊亀が渋い顔で話す。
「でも勝つぞ。俺はレッカのために役目を果たす」
「おうよ。分かってるぜ」
ショウは亀の体を左手で掴む。霊亀もそれに反応し、腕や顔を引っ込める。
ショウは霊亀の甲羅を盾として朱雀に突進する。
朱雀もそれに反応し、背中に羽根を生やすと、低空飛行で素早く後ろへ回り込みんで蹴りを入れる。ショウもすかさず甲羅の盾で守る。
「ちょこまかと……爆裂槍!」
朱雀の隙を捉えたショウは右手の槍で素早く突く。朱雀の羽に槍は当たり、そこで爆発が起こる。朱雀は怯んで飛ばされるかの様に見えた。
「私に炎は効かないんだね。羽根が炎を吸収するよ」
朱雀は傷一つついていなかった。
「最初の魔獣の攻撃もこれで防いだのか。でもこの盾をブラッドが失ったのは大きいんじゃないか? それなら、俺がもう少し時間を稼げば勝機はあるかもしれない……」
ショウは朱雀相手に苦戦を強いられながらも、一筋の希望を見出す。
◇
復活したテイマーとガンナーは、アカリ、ジン、クオンの三人と対峙していた。
「アカリ、作戦の邪魔した。倒す」
「トオルはリーパーさんのとこに行っちゃったか。しょうがない。来い。鴉」
「ガァァ!」
テイマーの召喚した鴉がジンを襲う。
「誰だか知らぬが燃やすのみだ。永遠之業火!」
ジンは機械槍を鴉に向けて投げる。炎を纏った槍は自動で鴉を追尾し、串刺しにした。
「文字通り焼き鳥ね」
アカリは苦笑する。
「ジェネレート。ショットガン」
彼女の背後からガンナーがぬっと現れる。銃を召喚し、今にも発射するところだった。
「緋桜!」
アカリも素早く反応し、発射された銃弾を突きで割ると、そのままショットガンも破壊した。
「何これ、体が重い? さっきの触手のせい?」
気づくと、彼女の腕には黒いあざのようなものが浮き出ていた。ジンにも出ている。
「リーパーさんの呪いの魔法かぁ。えぐいんだよなぁ。アレ。その魔法はね体力、気力を減らしていく呪いだよ。五分も立っていられないだろうね」
テイマーは軽薄に笑う。
「ジェネレート、ガドリング」
「来い、黒獅子」
二人はこれを好機と見たか、アカリとジンに畳みかける。
「どうしよう……みんなが大変そう……でも私が行っても大して変わらないだろうし……」
クオンはいまだに戦場を一歩後ろから眺めているだけだった。
「クオンさん! あなた、呪いを受けてないわよね!」
アカリがガドリングの弾から逃げながら叫ぶ。
「はっはい。一応……」
「力を貸してほしいの! クオンさん、リンさんにも認められるほど強いんですよね!」
「それはクオンじゃなくてだな……」
黒獅子に苦戦しているジンが口を挟む。
「しっ。ジンもクオンさんを褒めるのよ」
アカリが口に手を当てる。ジンも渋々とそれに同意した。
「……。クオンお前の力が必要だ。助けて欲しい」
「私の、力が? でも、私は魔法陣を使って戦うのが主なので……」
「それでもお願い! クオンさんの強力な力、貸してほしいの!」
二人は徐々に呪いに体を蝕まれ、気力もすり減っていた。
「クオン様の超々強力なお力を貸してください、の間違いでしょう?」
突然、クオンの声色が変わる。
「えっと?」
アカリは頭の上に疑問符を浮かべる。
「クオンの中にいる魔獣、孔雀は自分がクオンだと勘違いしているんだ」
ジンがぼそりと言う。
「仕方ないわね。聖女のように優しいこの私が力を貸してあげるわ」
クオンは背負っていた槍を取り出すと、黒獅子に向けた。
「いきなり人が変わったけど、何なのこの人?」
「無駄口は、不要……」
ガンナーもガドリングをクオンに向ける。
「燃えよ」
次の瞬間、広大な魔法陣が一瞬にして展開され、ガドリングの弾、黒獅子、そのすべてが一瞬にして焼き払われた。
「嘘? いつの間にこんな魔法陣が……?」
「少しはやるんだねぇ」
テイマーはニヤリと笑う。
「少し? あなたの目は節穴?」
「え?」
テイマーが気付いたときには既に、彼の胸元に魔法陣が書きあがっていた。彼はそれを避ける余裕すらも与えられずに立ち尽くす。
「消し飛べ」
テイマーの体が消失し、今度こそ何も残らなかった。
「消えた……?」
「奴をここで使うのは少々勿体なかったかもしれないな」
ジンが余りの強さにため息をつく。
「そんなに強かったなんて……」
アカリも軽く引いている。
「調子に、乗るな……」
「爆ぜよ」
同じ調子でクオンはガンナーを消し炭にした。
「はぁ。呆れるわね。こんな奴らのために私の手を煩わせるなんて」
「なんか、ごめんなさい……」
アカリはクオンに頭を下げる。
「本体はまだ残っているのよね?」
「無視された……」
クオンは槍を背負ってリーパーの元に歩き始めた。




