三十四話 純白の救世主
「フブキ、立てるか?」
「うん。ありがとう……」
リツはフブキの手を取る。
――次の瞬間、フブキの胸を銃弾が貫いた。
「――え」
「フブキ……?」
傷口からは血が溢れ、二人の表情も驚愕と恐怖に染まる。
「死んだな。俺の勝ち、だな」
「ガンナーァ!」
そこには死を間際にしたガンナーが銃を持って立っていた。あろうことか、崩壊していた体が少しづつ治り始めている。
「生命開放魔法、ヤバくなったら使えって、言われてた」
更にガンナーの体は黒く染まっていき、銃と体が一体化し始めた。
「リツ! フブキの治療は俺がやる、お前はガンナーを!」
ティムールがフブキに駆け寄り、抱きかかえる。
「分かった! 千羽鶴・風花雪月!」
リツは魔力を解き放ち、折り鶴と雪の嵐を起こす。
「ジェネレート・デスバレット」
ガンナーはそれに対し、全方位に散弾を撃ち出した。敵味方構わずばらまかれる銃弾の攻撃は、反対側にいるトオルたちをも巻き込むものだった。
「サンダーレイン!」
事態に気づいたラトゥールは、ガンナーの発砲から間髪入れずに雷の雨を降らせることで銃弾を撃ち落とした。
「まだまだ油断すんじゃねぇぞ! もう助けらんねえかんな!」
バランと戦いながら彼は叫ぶ。
◇
ベルセルクが魔界に飛んでいくのを見送った俺たちが次に目にしたものはガンナーが異形に変化しているところだった。
「何がどうしてああなったのよ……」
「生命開放魔法を使ったのか?」
「何それ?」
ダミニが聞く。
「命を削って使う魔法のことだよ。この魔力を使い切った魔導士は死ぬことになる」
「あのおぞましいのがそれってことか」
もう体に銃が癒着している。彼はとうに人間であることを捨てていた。
「ジェネレート。ガドリング、ロケットランチャー、アサルトライフル、サブマシンガン……」
ガンナーは淡々と詠唱し、体に次々と銃を作り出しては結合させていく。その掃射による攻撃は弾幕と呼ぶのにふさわしいものだった。
「これじゃ近寄れない!」
「このままじゃあいつは死ぬまで銃を撃ち続ける殺人マシンになるぞ……」
俺たちもリツに駆け寄り、刀を抜くが、奴に対抗する手段が思いつかない。間合いに近寄れなければ攻撃もできない。
「そんなのどうやって止めたら……」
俺たちに絶望の空気が漂い始めたそのとき、前方に巨大な氷の壁が出現した。
「凍らせる。それがいいかもしれませんね」
「――! あなたは?」
「僕はヒョウガ・キリタチ。フブキの兄です。彼女に召喚されてきました」
純白の甲冑に身を包んだ騎士はそう言った。
「召喚?」
「僕が妹に覚えさせている緊急用の魔法ですよ。僕の意識を宿す仮の体を作り、そこに僕を呼び出すことで召喚する魔法です」
フブキの最後の切り札ということか。
「お兄、ちゃん……」
「よくがんばった。フブキ。あとは僕に任せてくれ」
ヒョウガさんはフブキに駆け寄ると傷口を凍らせた。
「凍らせた……?」
「傷の進行を遅くする特別な氷です。これで出血も収まるでしょう」
そうしてヒョウガは剣を構える。氷の壁はひび割れ始めていた。
「ヒョウガさんは学園で教師をしてるエキスパートよ。エリアホワイト出身の魔導士の中だったら、多分ヒジリさんの次に強いわ」
アカリが俺に言う。それだけの人がいれば心強い。この数時間で戦況が二転三転していたけれど、ここに来てまた好機が来たみたいだ。
目の前の氷壁が壊れ、俺たちに再び弾丸が向かってくる。
「氷結」
ヒョウガさんが剣を一振りすると、銃弾は全て凍り、静止した。
「瓦解」
その言葉と共に、銃弾がすべて砕け散った。目の前で繰り広げられる分かりやすい”チート無双”に、俺は少し気後れする。
◇
一方、バランとラトゥール、ライガルの戦いにも変化は訪れていた。
「バリっと吹っ飛びな! ライトニングコンボ!」
ラトゥールが雷を纏わせた連撃を繰り出す。
「効かないな」
しかし無慈悲にも攻撃はブラックホールに吸収される。
「ランドボルテージ!」
ライガルも雷と地面の両方から攻撃をする。
「地面魔法は苦手だったが習得したんだな。悪くは無い。だが力が足りん。バニシングショット」
バランはブラックホールを手元で作り出し、それをエネルギー弾として撃ち出した。ライガルの魔法はバニシングショットに吸い込まれ、消滅した。
「魔法が消えた?」
「ブラックホールは全てを吸い込み破壊する。これが強者の特権というものだ」
「こっちもこっちでバチっとやばいな。普通の魔法が効かないんだったら何が効くんだ? 素手か?」
ラトゥールが支離滅裂なことを言い始める。
「よっぽど駄目だろうが!」
「クソ! こうなったら適当に、サンダーレイン!」
「馬鹿! 魔力の無駄づかいだ!」
バランの周囲に大量の雷が降り注ぐ。その中の一つがたまたまバランに命中した。
「運のいい奴め」
「運も実力の内だぜ」
雷の攻撃は少しは効いているようだった。ラトゥールはドヤ顔で返す。
「そうか、バランの意識の外から攻撃すれば当たるんだ!」
「は? どういうことだよ。もっとサクッと説明しろよ」
「良いからお前はサンダーレインを撃ち続けろ。それが今のところの勝ち筋だ」
ライガルがラトゥールの背中を叩いた。ラトゥールは仕方なくサンダーレインを撃ち続ける。
「下らんな」
バランは二人の様子に呆れていた。
◇
観客席では、気を失っていたマハンガが意識を取り戻したところだった。
「おい、サーナー、ダッドム! 大丈夫か。起きろ!」
マハンガは二人に駆け寄り、体を叩く。
「あれ、俺たちは確か、バランにやられて……」
「ラトゥールさんたちが今も戦ってるんだよ! ほら、起きろって!」
マハンガは更にサーナーの肩をゆする。
「マジかよ! 俺たちも加勢しないと!」
「そうだ。俺たちもみんなの手助けをしないとなんねえんだよ」
「じゃあ今すぐ行こう……ってライガルさん、こっちになんかサイン送ってるみたいだな」
ダッデムが戦場を見て言った。
「何だ? そこでじっとしてろってか?」
「いや、不意打ちをしろ、じゃねえか? 俺たちを伏兵として使おうとしてるんだろ。バランも俺たちのことなんざ忘れてるからな」
五人衆の中でも頭の回る方のダッデムは考え込む。
「天才か? ダッデム。よし、そうなったら最大出力で魔法の準備をするぞ!」
マハンガは居ても立っても居られない様子だ。
「サーナーに俺たちの魔力を集めるんだ。そんでもってサーナーが高速で近づいて攻撃する」
「よし。ライガルさんの合図があるまで待機、だな」
三人はサーナーに魔力を送りながら機を待つことにした。




