三十三話 戦場の列女
コロシアムの中央ではバランとライガル、ラトゥールらが死闘を繰り広げていた。
「お前は俺を倒すと言っていたが、お前は平和ボケしてるんじゃないのか? 強さに対する貪欲さが足りてないように見えるぞ」
バランは殴り掛かってきた二人の拳を受け止めると、重力操作で二人を地面に叩き付けた。
「強さに囚われて堕落したアンタみたいになりたくはねぇもんだからな」
ライガルも踏ん張り、重力操作から抜け出す。
「その結果、二人がかりでこの様か。弱過ぎて話にならないな」
バランはライガルの攻撃を再び捉えると、更に強い重力で彼を地面に打ちのめす。ラトゥールも先程から動けていない。
「さっきまでのは準備体操だ」
ライガルは何倍にもなった重力がかかった空間で、苦しみながらも立ち上がる。足は震えていた。
「ライトニングフィスト!」
ライガルの高速の拳がバランの顔面に炸裂する。バランは吹き飛び、コロシアムの壁を破壊した。一時的に重力操作も切れ、二人の周囲の重力は元に戻る。
「それが本気か?」
粉塵の中からバランが現れた。彼は攻撃を食らいはしたものの、ダメージは受けていないようだった。
「マジかよ。ライガルの一撃をもろに食らって立ってる奴なんて見たことねえ」
「食らう前に攻撃を吸収した。ブラックホールを使ってな」
バランは手元に漆黒のブラックホールを作って見せる。
「ブラックホール? ってなんだ?」
「俺も分からん」
二人は頭をひねる。
「重力が大きくなりすぎると、光も飲み込むような暗黒の穴が生まれる。それがブラックホールだ。要は最強の力だ」
「その最強を破ったら、俺たちが最強ってことでいいんだな?」
ラトゥールが意気込む。
「そんな未来は来ない」
バランがそう言って二人に再び向かおうとしたそのとき。コロシアムに銃声が響いた。
銃弾はダミニの頭部に命中した。彼らもそれに注意を奪われた。
「――ダミニ? そんな、嘘だろ?」
ラトゥールは取り乱し、彼女の元へ駆け寄ろうとするが、それをライガルが止める。
「落ち着け。ダミニがあんな攻撃で死ぬと思うか? あいつの二つ名を思い出せ」
「ダミニの二つ名は、『鉄壁』……そうか、そうだな。あいつが死ぬはずがねぇ」
「そうだ。俺たちは目の前の敵に集中するんだ。俺たちがバランに背を向けることこそ、ここにいる全員の危機につながる」
ライガルはそうしてラトゥールを説得すると、バランに向き直る。
◇
リツとフブキはガンナーと対峙していた。
「案外大したことないみたいだな。ガンナー」
リツは俊歩でガンナーの攻撃を避ける。銃の射線を意識すれば彼にとって攻撃を避けることは造作もなかった。
「黙れ。お前も、撃つ」
「リツを撃ったら私が許さないわよ」
フブキも刀で応戦する。
「ジェネレート。ガドリング」
彼の前にガドリングガンが現れた。
「雪礫!」
すぐにフブキが反応して雪玉をガドリングガンに放つ。銃は水分によって故障して動かなくなってしまった。
「銃の魔法しか使えないようじゃ対策されるのも仕方ないわね」
「俺のターゲット、お前たちだけじゃない。ジェネレート。スナイパーライフル」
ガンナーは動じた様子を見せずに、右手にライフルを作り出し、反対側にいて、動きが止まっているダミニを狙った。
「やめろ!」
リツが駆け寄るが、無慈悲にも銃弾は放たれる。さらにリツも拘束されてしまった。
「ジェネレート。ハンドガン。死ね」
瞬時にガンナーはリツの頭に銃を突きつけて引き金を引く。
しかし、銃弾はリツに放たれることは無かった。銃が凍り、真っ二つに切断されていたからだ。
「な? 氷の魔法?」
「氷刃」
ガンナーが気付いた時には、彼の胸にフブキの刀が突き刺さっていた。その周囲が凍結し、体が砕け始めている。彼を突き刺しているフブキの目は怒りで正気を失っていた。
「何が、起き……」
フブキは刀を抜く。それによって支えを失ったガンナーの体が倒れた。
「大丈夫か? フブキ!」
脱力して倒れこむフブキにリツが駆け寄る。
「無事でよかった……早く他のみんなも助けないと……」
しかしフブキはかなり疲れている様子だった。
◇
俺は倒れているダミニに駆け寄る。
「ダミニ!」
「痛って……死ぬかと思ったよ」
ダミニは頭をおさえながら起き上がった。
「死んだかと思ったよ……」
「バーカ。『鉄壁』のダミニがこんなとこで死ぬかっての。ほら。気を取り直して行くよ」
ダミニは呆れたように言って立ち上がると、右拳を左手で受け止めるようにして気合を入れ直した。
「堕落まであと一歩だったが……免れたか。その上ガンナーが倒れたな」
「リツたちが倒したんだな。俺たちも負けてられないね」
流石はリツとフブキだ。これでガンナーの銃撃にも警戒せずに済む。
「ベック。力を借りるぞ」
ベルセルクは詠唱によってドラゴンの鱗でできた鎧を着こんだ。腕の部分もドラゴンのようになっている。見た目で言えばリザードマンというのが近い。
「ライトニングフィスト!」
「ランドクラッシュ!」
俺たちもひるまずに攻撃を加える。雷の攻撃はさっきの一瞬、バランとライガルさんたちの戦いを見て覚えたものだ。俺たちの攻撃は僅かながらも効いているように見えた。
「ジャック、力を借りる」
再びベルセルクが魔獣を呼ぶ。しかし、彼の腕に魔獣は現れなかった。
そして、そのかわりに白鷺を肩に乗せたアカリが魔界からやってきたのだった。
「ジャックならもういないわよ」
返り血で血みどろになったアカリが言う。
「何だと?」
「私とこの子が倒したから」
アカリは白鷺の頭をなでる。
「白鷺!」
「ピヨォウ」
俺の知らないうちにまた白鷺は大きくなっていた。そういえばあいつも魔界に住んでいるんだったな。それにしてもアカリのことまで守ってくれるとは。後でご褒美でもあげないとな。
「お前! ジャックになんてことを!! それが人間のすることか!」
ベルセルクが激しく取り乱す。
「人を魔界に閉じ込めておいてよく言うわね」
「ジャックは俺の親友だ! ジャックの命はお前たちより重いんだぞ!」
ベルセルクが喚く。
「そんな馬鹿な」
「馬鹿はお前たちだ! 俺はジャックの手当をしてくるからお前たちはそこで待ってろ!」
「え? ベルセルク?」
彼はそう言うと魔界に飛んで行ってしまった。
予想外の展開に俺たちは困惑する。魔獣想いなのは良いことなのかもしれないが、戦いを投げ出すほどとは。よく大隊長とやらになれたもんだな。上司としては最悪だぞ。
「行っちゃったな」
残された俺たちは言葉を失ってしまう。とにかく、これで敵はバラン一人になった。ということでいいのだろうか。




