三十一話 戦帝降臨
サーナーとダッデムは、コロシアムの外でアカリを探していた。
「この人ごみの中で知り合いでもない奴を探せって言われてもなぁ……」
「しゃあねぇよ。ダオーラさんには逆らえねぇ」
そんな二人の前に、フードを被った大柄な男が現れる。
「お前たちは……レンジャーか?」
男が掠れ声で話しかけてきた。
「ああ。そうだぜ。エリアイエロ―の五人衆と言ったら俺たちのことよ」
「じゃあ、強いんだな?」
「そりゃ当たり前だ。何なら戦うか? 俺の速さについてこれるかな?」
サーナーがフードの男を挑発する。ダッデムはやめておけ、と彼を諫める。
「良いだろう。強さこそが正義だからな。二人同時でもいいぞ」
その言葉にダッデムもカチンときたようで、二人同時にフードの男に殴り掛かる。
「舐めやがってぇ!」
「――グォッ」
次の瞬間、二人は強大な重力によって地面に叩きつけられていた。
「弱い。弱い……ライガル、お前の弟子はそんなものなのか? まだまだ力が足りない……」
攻撃の衝撃によって起きた風で男のフードが剥がされた。
「お前は、まさか……先代マスターの……バラン・クリムナガル……堕落したはずの奴がどうして……」
ダッデムの顔が青くなる。
「約束を果たしに来たんだよ。俺の弟子、ライガルとのな」
そう言ってバランは二人の首を持ち上げ、コロシアムに向かった。
◇
コロシアムでは、リツとトオルの戦いが続いていた。
「いつも思うんだが、お前には魔力容量の限界は無いのか?」
「あるとは思うけどまだ感じたことは無いかな。多分人とつくりが違うんだと思う」
拳同士がぶつかり合いながらも、両者一歩も引かない状況だった。
「なら、魔力切れを期待しても無駄か……」
リツは一度トオルを蹴って距離を取る。
「雪景色」
リツは再びコロシアムに雪を降らせた。
「俺は寒さに強くもないけど弱くもないぞ」
「雪があれば俺が魔法を使いやすいんだ。行くぞ。雪礫! 雪嵐!」
「連続で魔法を出した! ここに来て勝負を決める気か?」
司会の声が聞こえる。連続魔法は食らったことがなかった。俊歩と潜海を使えば何とか避けれるか……?
「これが俺の集大成だ。千羽鶴・風花雪月!」
こいつ、俺に勝つためにそこまで? まずい、想像以上だ。奥義を出さないと負ける……!
「奥義……っ!」
――その瞬間、俺の背後に悪寒が走った。この感覚、ネイビーにいたときにも感じたものだ。まさか、ここに黒の魔導士が? って、まずい。このままじゃ、リツの攻撃が……
「何故途中で技を撃つのをやめた?」
リツも俺が技を撃たないことに気づき、直前で技を止めた。
「――来る」
「何がだ!」
「膨大な黒の魔力。多分、七戦帝……!」
そのレベルじゃないと俺が魔力を感じることは殆ど無い。テイマー程度の魔力では反応出来なかったからだ。
次の瞬間、観客席から、大きな音が聞こえた。何者かが建物を破壊した音だった。
「弱い。弱すぎる。いつからここの奴らはこんなに弱くなった? なぁ教えてくれよ。ライガル」
そこには、サーナーとダッドムの体を手に持った大男の姿があった。こいつが悪寒の正体か。
「サーナー! ダッドム!」
騒ぎを聞きつけてラトゥールとダミニがコロシアムに出てくる。
「ラトゥールさん……すみません……」
サーナーは呻くようにして言った。バランは二人を手から離す。
「あんた、何勝手な事してんのよ!」
その隙に観客席からダオーラが果敢にも大男に挑む。
「邪魔だ」
「ダオーラ!」
しかし、その攻撃も敢え無く防がれ、逆にダオーラは吹き飛ばされてしまった。ライガルもその姿を見て叫ぶ。
「強さこそが正義。勝者こそが法。ずっとそう教えてきたはずだが……」
「あんたの教えよりも大事なことを見つけたもんでな。バラン。みんな、逃げろ。こいつは俺の敵だ。俺が勝負をつける」
ライガルは司会席からコロシアムに入ると、観客たちに避難を促す。観客たちは半分パニックになりながら逃げ始める。
「そうしたいところだが、俺の他にも邪魔なものが付いてきているみたいだ」
バランはそう言って後ろを見上げる。そこにはガンナーと、大剣を持った魔導士の姿があった。
「邪魔なものとか言わないでくださいよ。あなたも黒の帝国の一員でしょう」
「誰を、狩ればいい?」
二人はその声と共に前に出る。
「お前たちは、直属部隊……!」
「そうだ。俺は第二大隊長のベルセルク。お前の身柄を貰いに来た」
ベルセルクは俺に大剣を向ける。
「俺の身柄?」
「お前が拒むなら、俺は君の友人を殺すことになるだろう」
「どういうことだ!」
「俺は魔界と自由に繋がることが出来る。その力を使って、アカリという魔導士を魔界に閉じ込めた。このままなにもしなければ、彼女は魔界で魔獣に食い殺されることになる」
ベルセルクは、一瞬だけ気を失っているアカリを召喚すると、すぐに魔界に戻した。いつの間にアカリが敵の手に。許せない。
「それが嫌ならば、大人しく俺たちに付いてくるんだな」
「それが嫌だと言ったら?」
「その選択権はお前には無い」
ベルセルクのただでさえ悪い目つきがさらに悪くなる。ガンナーも俺に向けて銃を構える。
「なら団体戦と行こう。そっちの魔導士全員対、俺たち三人。本当の祭りの始まりだ」
俺たちの様子を見てバランが宣言する。俺たちは、俺の他にリツ、フブキ、ダミニ、ラトゥール、ライガル、そしてティムールの合計七人。対して敵はバラン、ベルセルク、ガンナーの三人。これまでにない規模の戦いになることは明白だった。ただ、俺たちが勝つためには数の有利を生かすしかない。




