二十六話 頼りない強者たち
「大丈夫? トオル」
アカリの声で俺は目を覚ます。
「ごめんごめん。つい癖で」
倒れている俺に向かってダミニは手を差し伸べる。
「癖でカウンター食らわすなよ……」
痛む腹をさすりながら、俺は立ち上がる。
「ま、とにかく。筋肉に力を入れる感じでやるんだ。二日で習得は難しいかもしれないけどさ」
「なるほど。説明、感謝する」
リツは俺のことも特に心配せずに、腕を組んで頷いている。アカリとフブキは心配してくれたというのに。
「あ、あっちでなんかあったみたいだね。行ってみるか」
さっきまでの出来事はもう忘れたとでも言うように、ダミニの興味は、道端で行われている喧嘩に移っていた。どうやら、さっきまでピラミッドの建設をしていた五人の男達が一人の大柄な男に絡んでいるみたいだ。
「おうおう、ライガルさんの方からお出ましとはなぁ! この前の決着、バリっと決めようじゃねぇか!」
「おう、ラトゥールじゃねえか。五人衆も一緒か。いいぜ。何ならまとめて相手してやるよ」
ライガルと呼ばれた男は、ラトゥールの挑発に簡単に乗ってしまう。二人は一触即発だ。
「あれ、大丈夫なの?」
フブキがダミニに聞く。
「んーちょい危ないかも」
ダミニは危機感無さげに言う。
「行くぜ! コロっといっちゃいな!」
「こっちもやってやるぜ!」
ラトゥールの攻撃で喧嘩が始まった――と思いきや次の瞬間、二人は割り込んできた乱入者に吹き飛ばされ、頭から地面に落下した。
「ライガル! 街が危ないでしょうが!」
その乱入者は、逞しい顔つきをしたワイルドな女性だった。
「げっダオーラかよ……」
「何だいその顔は? ほら帰るよ」
ライガルは面倒くさい奴が来たといった顔をしている。ダオーラはそれに構わず、ライガルの耳を掴み、引っ張って行った。
「おい、引っ張るなって!」
ライガルの抵抗も叶わず、ライガルはダオーラに連れて行かれ、見えなくなった。ダオーラはライガルの妻なのだろうな。
「ラトゥール、大丈夫か?」
「おう、大丈夫大丈夫。またライガルと決着つけそこなったぜ……」
ラトゥールはダミニに起こされる。
「ライガルさんってどんな人なんだ?」
「知らねえのか? ライガルはこのエリアイエローのマスターだぞ?」
俺が彼に聞くと、予想していなかった答えが帰ってくる。奥さんに耳引っ張られて退場していくマスターというのもいるんだな。
「えっ? あの人がマスター?」
「見えねぇだろ。だから俺が代わりになってやろうってことさ」
「なるほど……」
確かに見えない。かといって、路上でマスターに喧嘩を吹っ掛ける奴もマスターとしてどうかと思うが。
「ま、お前らも残り二日、頑張れよ。本戦でバリっと戦おうぜ」
「うん。楽しみにしてるよ」
ラトゥールは五人衆と呼ばれた集団と一緒に、人ごみに溶けていった。
「よし、喧嘩も収まったところで、特訓再開だ」
ダミニが笑って俺たちを促す。
「面白くなってきたな……トオル」
「リツも楽しみなんだな」
俺はわざとらしい笑顔をリツに向ける。
「勘違いするな」
「え? 何を?」
「……お前に俺の感情を測られるというのが気に食わん」
リツの言い訳にも限界が来たみたいだ。
◇
「ひぃぃっ! 申し訳ございませんっ!!」
黒の帝国の最前基地、デッドゴードンに直属部隊第一大隊長、リーパーの情けない声が響く。
「これが謝って済む問題か? アァン? 中隊長一人に生命開放魔法を使わせた上、負けて帰ってくるだと?」
彼の上司である部隊長、ディザスは怒りを露にする。
「申し訳ございません……私が彼らの実力を見誤ってました……」
「ったく。帝国との戦争勃発を避けるためにこちらの軍隊をそのまま送りこめないのは分かる……あまり大きな動きをしすぎると、目を付けられるからな」
「はっはいぃ……」
「だが、日和過ぎるのもバカのすることだ。お前の頭には鶏肉が詰まってるのか?」
「いえ……申し訳ございません……」
リーパーは深々と頭を地につけるばかりだ。
「この任務、第二大隊に任せてもいいんだぞ!!」
「むしろその方が歓迎です。ディザス部隊長」
リーパーの後ろに立っている、第二大隊長のベルセルクが冷淡に言う。
「ベルセルク……いたのか……」
「不甲斐ないな。リーパー。死神の名前が泣くぞ」
ベルセルクは呆れている。
「申し訳ございません……もう一度だけ、チャンスを……」
「仕方ない……奴らは今、イエローにいるんだろう」
「はい……ガンナーを派遣してます……」
「それだけでは不安だな。ベルセルク。お前も行け」
「俺の部下ではなく、俺、ですか?」
名指しされた彼は驚いたように言う。
「そうだ。大隊長直々に挨拶しに行って来い」
「分かりました」
ディザスはこれまで見せなかった笑みを初めて見せる。
「リーパー。これでガンナーが敗北したら……分かっているな?」
「それは、勿論……」
リーパーは涙を流しながら再び深々と頭を下げた。




