二十五話 戦いに飢えた奴ら
第三章開幕です。
エリアホワイトの村に帰った俺たちは再びヒジリさんとの稽古の日々を送っていた。
「先の藍の国の戦いは壮絶だったらしいな。ところで俺と戦わないか?」
泊まり込みで稽古に来ているリツが俺に木刀を向ける。
「何としても俺と戦いたいんだな」
「前は結局戦えなかったからな。それに藍色の魔法も覚えて来たんだろう?」
リツが俺を木刀の先でつつく。
「そりゃ手ぶらで帰って来たりはしないよ。いいよ。やろう」
潜海を使って驚かせてやろうか。それとも操舵奪取か? 幸い、エリアネイビーを出る時に刀にたくさん魔力を貯めさせてもらったから魔力には余裕がある。
「お前たち、そんなに戦いに飢えてるんだったら、あれに参加するのはどうだ? バルバニ春の武闘祭」
なんだ、そのどこかで聞いたことのあるような響きの祭りは。というか、
「バルバニってなんです?」
「エリアイエローの中心都市の名前よ。あそこの武闘祭は毎年たくさんの観客が見に来る大がかりな祭りなの」
「武器は使用禁止だがな」
フブキとリツが補足する。案外有名な祭りなんだな。
「本当に拳だけで語り合うってことですか」
「そういうことだ。因みに俺は優勝したことがあるぞ」
ヒジリさんは自慢げに話す。相変わらずヒジリさんはさらっと凄いことを言う。多分この人、家にトロフィーとかめちゃくちゃ置いてあるタイプの人だ。
「それなら私、イエローに知り合いがいるから連絡しておくわ」
そんな実父の自慢をガン無視してアカリが話を進める。
「決まりだな。その武闘祭でお前を倒してやる」
「望むところだ」
リツが再び俺に木刀を向けて宣戦布告する。
◇
数日後、エリアイエロー中心地であるバルバニに着いた。ここに向かうにはエリアセントラルを通り抜けなければならず、かなりの時間を費やした。ワープする魔法でもあれば使いたいぐらいだ。
街は人が多く、賑やかで、周りの人々は褐色肌の快活な人が多い。道をぎっしりと馬車が並んでいて、数歩進むのも一苦労と言った混雑具合だ。俺たちは一度市街地を離れ、街に隣接した砂漠地帯に進む。
「やぁ久しぶりだね。元気にしてた? アカリ」
「ダミニ。久しぶりね」
俺たちの前に見覚えのある女性が現れた。彼女は確か、エリアセントラルで一度会ったな。
「そこの人は彼氏?」
「ちっ違うわよ。私の友達のトオル」
ダミニは白い歯を見せて笑う。アカリは相変わらず分かりやすく赤面する。
「冗談冗談。トオルとは一か月前ぐらいに一回会ってるし」
「覚えてたのか」
「そりゃ、あんなことした魔導士を忘れろなんて逆に難しいよ」
そう言われて俺はエリアセントラルでの出来事を思い出す。確かカウンターを使う魔導士をカウンターで追い払ったんだったな。
「お、そこのお二人さんも武闘祭の参加を希望?」
「ええ。初めまして。私はフブキ。こっちはリツよ」
「へぇ、こっちはなんか闇が深そうだからいじらないでおこ。あ、私はダミニ・パテル。ここでレンジャーをしてるんだ。よろしく」
フブキとリツを複雑な顔にしながらダミニは遅れた自己紹介をする。
「祭りは二日後だよ。ほら、トオルそこを見てみなよ」
ダミニが砂漠を指さす。俺がその方向を見ると、そこには珍妙な光景が広がっていた。
「何だこれ……」
「みんな特訓をしてるんだよ。毎年予選はここからコロシアムまでのレースなんだ。上位から十六番目までにゴールした奴だけに、本戦の参加資格が与えられるってルールだ」
なるほど、それで背中に岩を背負って走っているのか。五人ほどの大人が砂漠の真ん中で岩を背負って走っている様子はピラミッドの建築でもしているみたいだ。
「レースなら俺たちは有利だな」
「そうだね」
リツも渋い顔をしながら腕を組む。
「おお! ダミニ、来てたのか! お前も一緒に特訓するか? バリっと楽しいぜ?」
男たちの一人がこちらに気づいて近づいてきた。というか何だバリっとって。
「今は友達を案内してるんだ。後でな。ラトゥール」
ダミニは彼の手に自身の手を絡め、軽くキスをすると、彼を見送った。
「あ、今のは私の彼氏だ。ラトゥールも祭りに出るからな。君らと当たるかもしれない。あいつの雷には気をつけろよ」
ダミニは軽く頭を搔く。
「イエローの人って、大胆なのね……」
アカリは目を白黒させていた。
◇
俺たちは着替えを済ますと、砂漠の上でダミニのレクチャーを受ける。
「よし。まずは基礎を教えようかな」
ダミニがわざとらしく咳払いをする。彼女は彼女なりに楽しそうだ。
「イエロー出身の魔導士は必ず覚えている一番基礎の技がある。それが『硬化』ってやつだ。もちろん魔法が使えなくてもコツを掴めば誰でもできるから覚えておいて損はないぞ。見本を見せてやろう」
そう言って彼女は拳を構える。
「トオル、試しに私を殴ってみろ」
「え? ほんとにいいのか?」
「問題ないぞ。全力で来い。あ、骨折しない程度にな。トオルが」
そう言われると殴るのが怖くなってくる。下手なパンチは逆に自分の拳を傷つけるって聞いたこともあるしな。それに俺は喧嘩の経験もない。書類の山で頭を叩かれたことはしょっちゅうだったが。いけない。そんな闇の記憶はもういいんだった。今はとりあえず、殴ることに集中だな。
「じゃあ。いくぞ……」
俺は躊躇いながらも彼女に拳を向ける。
「そんなに緊張するなよ。腹でいいぞ。ひと思いにドンと行ってくれ」
ダミニはウキウキしながら待っている。ここで手加減するというのは逆に失礼だろう。俺は思いっきり彼女の腹部にストレートを打ち込んだ。
「ゴフゥ!」
その攻撃とほぼ同時に、短い呻き声と共に、それはふわっと浮かび上がると、重力に任せて落下し、音を立てて倒れこんだ。
――そう。俺が、だ。




