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転生してもムショクでした ~無能と呼ばれた『無色』の魔導士は色に染まって無双する~  作者: 越水けい
藍の章

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二十一話 決意の朝


 決戦の朝が来た。俺は身支度を済ませて表に出る。


「来たね。作戦を始めよう。まずは各地にレンジャーを配置し、町を巡回させる。他にも奴らのアジトを暴くため、夜に引き続き、森の捜索も行う。そして、本題はこの後。モルを囮としてシェヘラをおびき寄せる。もちろん敵に気づかれないように俺たちはモルを見張っておくよ」


 アルフが俺を見て言った。


「シェヘラは本当に来るんでしょうか……」

「奴は来るよ。ここのところほぼ毎日、奴は少女を襲っている。恐らく長い時を生きて、老いが早まっているんだ。そんな中で寿命を一日奪いそこなったシェヘラはかなり焦っているんだと思う」


 彼はどこにいるかも知れない因縁の相手を探すように町を見渡す。高台にあるハザール家からは、エリアネイビーの中心部であるダルバッドの街並みがよく見える。住宅のほとんどは伝統的な土づくりのものだったが、一部はエリアセントラルの文化に影響されて、中世ヨーロッパ風の造りになっている。


「ほら、行くよ。お兄ちゃん。トオルさんもしっかり私を守ってくださいね」

「もちろん」


 モルが兄を急かしながら、俺に目線を送った。



 他のレンジャー達も持ち場につき、モルも変装をして作戦が始まった。まだ日が昇ってからそう時間は経っていない。藍色の街に不似合いな朝焼けが空を覆っていた。


「――きゃぁぁぁ!」

「悲鳴? 何処だ? すぐに向かわないと……」


 悲鳴を聞いたアルフが即座に動く。


「待ってください! フェイクの可能性も……」


 シェヘラの魔法は寿命を奪った人間に変装することもできる。これが彼女の悲鳴だということも否定できない。


「――ねぇ! トオル! モルが!」


 アカリが俺の袖を引く。俺は急いでモルが歩いていたはずの場所を見る。


「いない……だと……」


 俺は急いで、隠れていた道角から出る。


「モル! 何処だ! モル!」


 この一瞬でモルほどの魔導士を誘拐するということは、敵も相当な手練れだ。それほどの魔導士なら、魔力を辿れるかもしれない。



 薄暗い町角に二十人程度の魔導士の集団が集っている。そこに一人、黒い羽を広げて飛び込んだものがいた。


「これでいいのです? シェヘラさん」


 黒の魔導士、テイマーは、たった今誘拐してきたモルを地面に押さえつける。


「うん。ありがとう。久しぶりだね! モルちゃん」


 シェヘラは自身が命を奪ったモルの友人の姿で彼女を迎えた。声も彼女のものだ。


「違う……お前は……シェヘラ……」


 モルは怒りに震え、瞳を潤ませ、歯を噛みしめている。


「まったくあなたも趣味が悪い。彼らに見つからないうちに早めに殺しちゃってください。いつまでもこうして押さえられるわけじゃないんですから」

「それはすまない。手早く済ませるよ。――優しく食べてあげるね? モルちゃん」


 一瞬、彼女の本来の声に戻ったかと思うとシェヘラは再び演技を続ける。


「許さない……絶対にぃ……」


 モルの叫びが弱弱しく響く。


「奥義、光彩奪目」


――目をつんざくような極光が町角の陰鬱な空気を切り裂いた。少女の姿をしたシェヘラの首は跳ね飛ばされ、胴体だけが残った。


「トオル……さん……?」


 モルは混乱の中で、気の抜けたように言った。



「モル。君は少し休んで」


 俺は彼女に声を掛けると、刀を構え直す。

 

「やっぱり来てくれた。トオル。また会えてうれしいよ」

「お前とも、もうこれで最後にしようか。テイマー」

「望むところだよ」


 テイマーが笑顔を見せる。正直もうこいつの顔は見飽きた。初めに会ってから一か月も経ってないのにもう三度目の対面だ。いい加減勘弁してほしい。


「ここじゃあ少し狭いなぁ。広けた場所がいい」


 彼はそう言うと、いつものように腕に羽根を生やして詠唱した。


「ディザスターウィング」


 その羽によって生み出された暴風は、土づくりの建物を一度に吹き飛ばし、この街のシンボルである砂浜までの町を全て更地にした。


「黒の魔法は、破壊、恐怖、迫害、搾取、絶望と、あらゆる悪を司る。真っ当な道から外れることのできない君たちオクトの魔導士には敵いっこないのさ」

「……それはどうかな」


 俺は攻撃の威力にビビりながらも、刀をテイマーに向けて詠唱する。


「絶海断!」


 水平に振られた刀は大量の海水を一挙に巻き込み、その水圧と共にテイマーを叩き斬る。


「藍と白の合わせ技か。君らしいね。最高だ。君の特性は知ってるよ。彼の戦う所を君が見ている限り、君の魔力は尽きそうにないな」


 テイマーはアルフを見る。確かに俺の魔力の供給源はアルフやモルだ。


「さて、僕にも隠し玉があるんだ」


 彼がそう言うと同時に、俺の右肩を一発の銃弾が貫いた。銃で撃たれるのが初めての俺はその痛みに悶絶する。


「スナイパー! これが……!」


 ヒジリさんの警告していた魔導士はこの銃を扱う魔導士のことだろう。さっきの傷は魔法で多少修復したけれど、頭を狙われたらこうはいかない。厄介には違いない。


「なら私がそのスナイパーを倒しに行くわ」


 駆け付けていたアカリが不意に言う。


「いや。アカリ一人じゃ危ない! 敵は銃を持ってる」

「銃って高速で相手に銃弾というものを打ち込むって言われてる、あの?」


 アカリはさも難しいことを話すように言う。


「そうだ。簡単に倒せる敵じゃない」

「心配ありがとう。でも私にも活躍させて欲しいの」


 彼女の懇意な態度に俺は根負けする。


「……分かった。頼む。――危ない!」


 再び放たれた銃弾に俺は咄嗟に潜海で反応し、アカリを庇う。アカリは俺に少し照れながら感謝を示すと急いで敵の元へ向かった。


「良い仲だね。羨ましいよ。トオルはどうしたら僕と仲良くしてくれる?」


 様子を見ていたテイマーがまた笑う。


「誰がお前なんかと……」

「それはショックだなぁ。今ので落ち込んだから、もうちょっと温めときたかった切り札、先に切っちゃうね」


 彼はそう言うと大量の黒の魔力を辺りに放出する。


「ダークネスト!」


 その詠唱と共に魔力は黒い羽根に変化し、まるで鳥の巣巣が覆いかぶさったように辺りを闇で覆った。


「これで君はもう魔力を補給できないよ。黒の魔法を除いてね」


 俺の魔力の補給手段を断ったのか。確かに、俺の対策をする上では一番単純で簡単な方法だ。そして俺は、残念なことにこの事態にほとんど対策をしていない。刀と体に残った魔力でテイマーとの戦いを制さないといけないのだ。


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