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転生してもムショクでした ~無能と呼ばれた『無色』の魔導士は色に染まって無双する~  作者: 越水けい
藍の章

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十九話 大波退治


「とにかく、俺とアルフさんで本体を。アカリとモルは町を襲う波を止めてくれ!」


 迫りくる複数の大波を前にして、このままでは埒が明かないので、役割分担をすることにした。


「分かったわ」

「分かりました!」


 アカリとモルもそれぞれ戦闘態勢に入る。


「緋桜!」

暴流渦潮ウィアリングタイズ!」


 アカリの魔法は炎の力で波を蒸発させ、モルの魔法は、渦潮をぶつけて波を相殺した。

 俺とアルフはそれを横目に本体を探すために海へ出る。


「紙風船!」

波乗り(サーフィング)


 俺はリツの魔法で紙風船を作り、それに捕まって宙へ浮かぶ。アルフは斧をサーフボード代わりにして波乗りをして本体を探す。


「光明!」


 俺は魔法で真っ黒な波を照らす。すると、奥の方にどくどくと動く心臓のようなものを見つけた。


「あそこが本体です! 壊してください!」


 俺は光で魔獣の心臓を照らす。アルフもそれに気づくと、波乗りをやめて、空中で斧を振りかぶる。


「奥義、黎明の箱舟(ノアズアーク)!」


 詠唱と同時に、巨大な船の形をした大波が現れた。船の大波は魔獣の本体と衝突し、跡形もなく消滅させた。同時に、町に迫る大波も姿を消した。


「お前が強いというのはどうやら本当らしい。仕方ない。シェヘラ討伐の任務に参加することを許可しよう」


 アルフは着地しながら俺に言う。


「ありがとうございます」

「これでわかったでしょ? お兄ちゃん」


 モルも兄に駆け寄る。


「俺よりは弱いかな……」

「また変な意地張って……」


 アルフにモルも呆れている。


「トオル、お疲れ様」

「ありがとう。アカリ」


 アカリも刀を収める。俺たちはハザール家に戻った。



「魔獣が出たと聞いたけど大丈夫だったのかい?」


 俺たちが部屋に入ると、紺色の長髪を垂らした女性が立っていた。


「マスター! また抜け出して。具合はまだ優れないんですから休んでいてください」


 アルフは急いで彼女に駆け寄り、よろめく彼女を支えた。


「そうだな。すまない。私が不甲斐ないせいでシェヘラにも好き勝手やられてしまって……」

「いいんです。シェヘラは俺が倒しますから」


 アルフは彼女を病室まで運んで行った。


「今のが、ここのマスターですか?」

「そうだ。ライラ・ザードさん。帝国に統合される前、藍の国を統治していたザード家の末裔だ。俺の師匠でもある」

「後であいさつに行っても?」

「そのぐらいなら問題ないよ。病室は奥にある。それと、今日はここで休んでいくといい。明日になったら作戦を決行する」


 相変わらずアルフは胡散臭い笑顔を見せる。


「お兄ちゃん。囮は私がやるからね」


 モルが兄にすり寄る。


「前も駄目だと言っただろ。そんな危険なことはさせられない」

「えーいいでしょお兄ちゃん。私強いし。トオルさんもいるし」


 モルが駄々をこねる。とは言っても内容は物騒だ。


「それなら俺が守った方がいいだろう。なんでもトオルに任せようとしなくても」

「なら私が……」


 アカリが囮役に進んで出る。


「いやいや。客人に囮をさせるわけにはいかないさ。仕方ない。モルに任せる」

「やっと分かってくれた! ありがとう! お兄ちゃん」


 モルは笑顔で兄に抱き着く。


「モルはどうしてそんなに自分が囮になりたいのかしら?」


 アカリは不思議そうだ。実を言うと俺も少し気になっていた。


「友達が、シェヘラにやられたんです。私なら守れたはずなのに。私のせいなんです」


 モルが俯く。


「あなたのせいじゃないわ。悪いのはその黒魔導士。自分を責めるべきじゃないわよ」


 アカリはモルの肩を掴んで、諭すように言う。


「みんなそう言うんです。でも私は私を許せません。だからこれは贖罪でもあるんです。私はこの手でシェヘラを倒さないといけないんです」


 モルは潤んだ目でアカリをまっすぐ見た。


「モル。俺たちも協力する。必ずシェヘラを倒そう」

「はい。ありがとうございます」


 モルの切なげな表情に俺も心を揺さぶられる。



 俺たちは夕食を終え、アルフとモルとも別れて家の中を歩いていた。


「マスターに挨拶しに行こう。もしかしたらシェヘラについても何か知っているかもしれない」

「そうね」


 ライラの病室には扉が付いていた。俺たちは扉を軽く叩いて中に入る。


「失礼します。エリアホワイトから来たムメイ・トオルです」

「アカリ・シラサギです」


 病室の中は簡素な作りになっていた。中央にベッドがあり、他には窓やカーペット、小さな机と椅子ぐらいしかものが無かった。


「エリアホワイトから……よく来たね。ほら、そこに座って。お茶を入れよう……」


 ライラさんは立ち上がろうとするが咳込んでしまう。俺とアカリが慌てて彼女を止める。


「無理なさらないでください。お茶なら自分で入れます」

「そうかい。お茶はそこのティーポットに入っているよ」


 そうして俺たちは小さな机の上に置かれたティーポットに入った紅茶をカップに注ぐ。


「……近くに黒の魔力を感じる。この部屋の周りにシェヘラがいるかも」


 俺は小さな声でアカリに言った。何やら魔力を隠そうとしている意志を感じるような微弱な黒の魔力を感じる。俺自身に色がないせいで俺は周囲の色に非常に敏感になっているのだ。最近感じれるようになったのだが。


「え?」


 アカリは思わず声を出すが慌てて口を紡ぐ。そうだ。俺たちが気配を察知していることを敵に知られるのは不味い。


「お茶、入れてきました」

「ありがとう。助かるよ」


 俺は使っていない椅子を机代わりにして三つのカップを置いた。俺たちは彼女の右側に並んで座った。


「まだ名乗ってなかったね。私はライラ・ザード。このエリアのマスターをしている。とは言っても、マスターはもうアルフに譲るのだけどね」


 少し老いを感じさせる顔でライラは切なげに笑った。


「アルフさんの師匠でもあるんですよね」

「そうだよ。彼は不器用な奴だがネイビーの平和を心から願っている。お手柔らかにしてやって欲しい」

「ええ。彼は悪い人ではないんですよね……」


 だが彼は笑顔でドギツイことを言ってくる。正直彼のような人のことをサイコパスと言うのではないかと思う。俺の思い過ごしであってほしいのだけど。


「それと、聞きたいことがありまして。シェヘラについて、ライラさんが知っていることがあれば教えて欲しいんです」

「シェヘラか……悪いが私も彼女の姿は見たことがないんだ。彼女は神出鬼没でね。ある者は老婆と言うし、ある者はまだ成人していない若い女性の容姿をしているとも言う。分かっているのは、黒の魔法を使う堕落者ということくらいだよ。すまないね。役に立てなくて」


 ライラは物憂げな表情のまま視線を落とす。彼女も元マスターなりに思うところがあるのだろう。


「いえ。ありがとうございます。お大事にしてください。俺たちはこれで……」

「あぁ、よければアカリさんは少し残ってはくれないかな。少し話したいことが」


 部屋を出ようとする俺たちを彼女が呼び止める。正確にはアカリを、だ。


「いいですよ。私でよければお話聞かせてもらいます」


 アカリも笑顔で答える。


「それじゃあ、俺は先に出てるな」

「おやすみなさい。トオル」


 アカリは柔らかな顔で俺を見送った。


 部屋を出た俺は念の為、部屋の周囲を見回ることにした。



「あなた。トオル君のこと好きでしょう?」


 不意にライラが尋ねる。


「……私に誰かを好きになる資格なんてありません」


 アカリは明らかな動揺を見せながらも俯く。


「あら、どうしてそんなことを?」

「私には一生をかけても償いきれないような罪があるんです。それを差し置いて自分だけが幸せになろうなんて、許されるわけがないんです」


 アカリは手を顔まで持ってきて顔をうずめる。


「そうかしら? その罪がどんなものか知らないけれど、あなたの人生はあなたのものでしょう? 自分の好きなように生きればいいじゃない。きっと後悔することになるわよ」

「……それじゃあ、駄目なんです。それに彼には本当の私の姿を見せてないですから。私が彼にやさしくするのも、私の自分勝手な贖罪のためなんです」


 ライラは押し黙る。


「……あなたは良い人ね」

「いえ。そんなことは無いですよ。でも、どうしていきなりこんなことを?」

「私が昔後悔したからよ。私は一度結婚して、夫に捨てられたの。そこから新しい恋をしようにも、もうそんな歳ではなかった。私は一度しかない人生で恋をする機会を失ってしまったのよ。そして今では持病で寝たきり。私はあなたに後悔してほしくないのよ」


 ライラは気丈な様子を見せながらも物憂げだった。


「そうでしたか……そうですね。私も後悔しないようにします……」


 そう言ったアカリはうとうととし始めていた。


――そして、彼女は遂には寝込んでしまった。


「そうよ。老いたときに気づいても、もう遅いんだから……あら、寝ちゃったのね。本当に可愛い子。本当に……食べちゃいたいくらい……」


 ライラはアカリの寝顔を見ながら艶めかしく笑った。


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