十七話 ”カウンター”カウンター
俺はまず始めに玉座を見る。皇帝は拳闘士のダミニと弓使いのティムールの防護魔法で守られていた。俺はひとまず安心する。
「トオルさん、大丈夫ですか? 私のせいで……」
俺に抱きかかえられたモルが申し訳なさげに言う。
「モルのせいじゃない。俺がもっと早く彼女の魔法を見破ってれば……」
俺は唇を噛む。だが、これで少女の魔法は分かった。
「その子の使う魔法はカウンター。しかもその魔力、彼女のものじゃないな」
俺はテイマーに向かって言う。
「正解だよ。彼女は魔法道具を代償無しに使うことが出来る特異体質。今のはカウンターをする魔法道具の能力さ」
テイマーの言った通りだ。彼女の使った魔法はとても複雑に組み上げられていた。魔力を取り込んだから分かる。あれは魔法陣でもないと再現できない。
「トオルと言ったか……無茶はするな、無闇に攻撃しても奴は倒せんぞ……マスターやエキスパートを待つんだ……」
カウンターの一部を食らい、苦しそうなジンが言う。
「いや、俺が倒す。ただ念の為、もう一度だけカウンターを受ける準備をしておいてくれ。それと、陛下や他の方の避難も」
俺の体が魔法の負荷に耐えられるならば、彼女をどうにかする方法は一つだけある。カウンターの魔法は、細かい部分を端折って言えば、黄色の『硬化』魔法で防御力を上げ、その間に緑色の『光合成』の魔法で一時的に魔法を吸収し、藍色の『波』魔法で魔法攻撃そのものの向きを変え、外へ放つと言ったプロセスで成り立っている。
魔法としては非常に複雑だが、これをすべて理解する必要はない。何故なら、魔法そのものが組みあがった状態で俺の中に吸収されているからだ。つまり俺はこの魔法を設計図通り使えばいい。
そしてもう一つ。俺は無色の特性で攻撃に使われた魔力を吸収して再利用できる。つまりさっきと同じ威力の攻撃を打てる分の魔力が今俺の体の中にあるということだ。
俺は刀を抜き、体から魔力を取り出して刀に移す。一度に大量の魔力を出力するのは体に負担がかかる。だからこうして少しでも負担を減らさなければいけない。
「どういうこと……目の色が変わった……?」
ダミニが呟く。確かにこれを初めて見る者にとっては不思議な光景だろう。一生の内に一度も変わるはずのない瞳の色が赤や橙、黄色に緑と変わっていくのだから。
「トオルさん、何をするつもりなんです?」
モルがおずおずと聞いてくる。俺は静かに答える。
「――カウンターをカウンターする」
俺は切っ先に全神経を集中させ、体に溜まった魔力を一斉に放つ。『疑似カウンター』だ。
「――カウンター」
少女も俺の攻撃を受け止め再びカウンターをしてくる。だがここまでは想定の範囲内だ。目の前に膨大な魔力攻撃が迫る。それに合わせて俺は『カウンター』の魔法を使う。
「カウンター!」
俺は今度は攻撃によるダメージを受けることなく攻撃の向きを御子と呼ばれた少女へ向け直した。これには流石に少女も動揺した様子だ。
「――カウンター!」
「カウンター!」
再び少女がカウンターするが、それも俺がカウンターする。ここまでくれば、どちらが先に倒れるかの耐久勝負だ。
「これ以上は魔法道具がもたないな。御子ちゃん、一時撤退だ」
俺の跳ね返した攻撃が少女に迫る中、テイマーは彼女を抱きかかえて背中に生やした羽で逃げて行った。
なんとか勝てたみたいだ……
「トオルさん! 大丈夫ですか! トオルさん!」
俺は駆け寄るモルの声を聞きながら、意識を失い、倒れた。
◇
目を覚ますと、俺はベッドの上に寝ていた。目の前にはモルをはじめとしたレンジャーたちが揃っている。
「やっと起きましたか。心配しましたよ」
モルが安心したように笑って言う。
「あれ、敵は……」
「逃げましたよ。トオルさんのおかげです」
他のレンジャーたちも笑っている。どうにか敵は退けたみたいだ。よかった。
「びっくりしたぜ! お前もカウンターの魔法が使えるなんてな!」
橙色の髪のイグナシオが一点の曇りもないようなカラッとした笑顔で威勢よく言う。
「厳密にはちょっと違うんだけどな……いって」
俺は体を起こそうとするが、その瞬間頭に鋭い痛みが走った。
「今日の間はじっとしてて下さい。魔力の過剰使用で体を痛めてるんです。魔力過剰放出症です。トオルさんはまだ軽症なので一日寝てれば治ります。」
「そんな病気があるんだな……」
やっぱり無理はするものじゃない。転生前の世界の上司はやたらと自分の限界を超えろとか言ってきたが、その言葉に従った奴から体を壊していってたっけか。
「意外と常識無いのね」
思いもよらないところから鋭い言葉が飛んできた。発言の主は、彼女か。シンシアノーブル。モルの友達だったっけ。
「こら、シアちゃん。怪我人に言うことじゃないですよ」
モルがシンシアをたしなめる。シンシアははっとした表情をしている。
「モルちゃん……ごめんなさい……」
シンシアは謝罪するが、その謝罪は俺に向かっていない気がする。
「なんにせよ無事でよかった。俺たちはここで失礼させてもらう。お大事にな」
弓使いのティムールが言った。その言葉と共にレンジャーたちは病室を去っていった。ダミニやイグナシオが帰り際に手を振ってくれたのが印象的だった。
「モルも行っていいよ。もう大丈夫だから」
「いえ、私はここにいます。少し話したいこともあるので」
レンジャーたちの中でモルだけが部屋に残っていた。モルは俺のベッドのすぐ横に座っている。
「話したいこと?」
「はい。これこそ怪我人に言うことじゃないかもしれないんですけど……あ、その前に渡航任務執行許可証です」
そう言ってモルは俺に渡航任務執行許可証を手渡す。鉄板にはしっかりと俺の名前が印字されていた。
「ありがとう。受け取ってくれてたんだね」
「はい。陛下が代わりに私に」
「後で陛下にも挨拶したいけど、難しいかな。それで話って?」
怪我人に言うことじゃない話とは一体何だろう。
「トオルさんにエリアネイビーでの任務を受けてほしいんです」
「それは意外だったな。どんな任務なんだ?」
エリアネイビーのこともよく知らない俺に何をしてほしいんだろう。
「エリアネイビーに数百年前から出没している黒の魔導士の退治をしてほしいんです。彼女の名前はシェヘラ。ネイビーに住む若い女性を襲っては、魔力を吸って寿命を奪う悪魔のような人間です。昔は生贄を捧げていたこともあったみたいです」
「そんな、人間を超えたような魔導士もいるのか……」
というか、妖怪みたいなやつだな。その例えしても彼女には伝わらないだろうから言わなかったけど。数百年前からって、何歳だよそいつ。元の世界基準で言ったら、江戸時代とかから生きてる人間がいるってことだよな。怖過ぎるだろ。
「近年は鳴りを潜めていたのですが、最近になって急に犯行が増えて、初めは一年に一人だったのが、一か月に一人になり、一週間に一人になっていきました。私たちは彼女を探し出して倒すことに手を尽くしてきましたが、どうやら彼女は黒の帝国と組んでいるみたいで……」
「黒の帝国……俺に頼んだのは、その黒の帝国と戦った経験があるから?」
俺は先のエリアホワイトでの魔獣騒動で、黒魔導士のテイマーと戦っている。何ならさっきもだが。
「それもありますけど、トオルさん、強いじゃないですか。トオルさんになら私の身も任せられます」
モルは少し照れながら言った。こういった表情には年相応の幼さを感じる。
「それってまさか……」
「はい。次の作戦では私が囮になります。そう立候補します」
モルの顔は一転、引き締まったものになる。
「分かった。モルのことは必ず守るよ」
俺がそう言えるようになったのも、これまでの稽古と戦いのおかげだった。
「ありがとうございます。ではエリアホワイトへ一度帰ってから、装備を整えて来てください。あ、もちろん迎えにはいきますよ」
「助かる。そうさせてもらうよ」
その後も、馬車の時間まで俺たちは話し、それぞれ帰途についた。迎えは四日後に来るとのことだった。
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