十六話 異質な来訪者
俺たちは皇帝の玉座のある、王国の中心の間にまで案内された。玉座は俺たちが立っている場所よりも高くなっている。アニメとかに出てくる城そのものと言った感じだ。俺たちの横には既に、他のレンジャー選抜の人たちが並んでいる。お互い話している者もいる。
「一番右側にいるのが、ジン・レッカさんです。エリアレッドの出身で機械槍という個性的な武器を使うので有名ですね」
俺の右側に立っているモルが言った。因みに俺とモルは左端に立っている。ジンと呼ばれた男は、中国風な鉄製の鎧を着て、背に槍を背負ってまっすぐ前を見つめている。髪は黒いが、瞳は赤い。エリアレッドの出身か。
「クールな感じでかっこいいな」
「その隣がイグナシオ・オルネラスさん。今年初めての人ですね。ダガー使いです」
イグナシオという男は髪、瞳共に橙色だ。ジンとは対照的に活発な印象を受ける。なんとなく南米いそうな雰囲気だ。彼は隣の女性と話しているらしかった。
「名前覚えにくいのによく覚えてるな」
「まあ私は詳しいので。その隣の人はダミニ・パテルさん。有名な拳闘士です」
モルは少し得意げになる。
ダミニは黄色髪、いや、金髪で肌は褐色のボーイッシュな女性だ。寒さを少しも感じないのか、肩までを出したワイルドな服装だ。
「この人もかっこいいな」
「次がティムール・ディミトロフさん。一度に五本の矢を放てる凄い人です」
ティムールは黒髪の大柄な男性だ。この人は片胸を露出した更にワイルドな服装だ。森の中に生きる人と言った感じだ。
「体は大きいのに弓使いなんだな」
「エリアグリーン出身の人は普通は弓使いですよ? だいぶ外界と離れた生活してたんですね」
モルは驚いた顔を見せる。確かに俺は転生者だからこの世界の常識は無い。
「……色々あるんだよ」
「まあいいです。ティムールさんの隣にいるのが私の友達でもあるシンシア・ノーブルちゃんです。真面目な見た目してますけど、可愛いところもあるんですよ」
シンシアは青色の長髪を後ろにまとめて、眼鏡をかけている。服装もこれまでの人とは違って中世ヨーロッパ的なワンピースだ。
「仲がいいんだな」
「です。エリアパープルの人は欠席みたいですね。例年そうらしいですけど。外界と関わるのを極力避けたいみたいです」
「不思議なところもあるんだな」
俺がそう言うと、突然周囲が少し騒がしくなる。
「あ、皇帝陛下がお見えになられます! 跪いてください!」
モルが慌てたように言う。俺が気付いた時にはもう、他のレンジャーたちは膝をついていた。俺も急いで膝をつきファンタジーでよく見る敬礼の姿勢をとる。ちらりと前を見ると、青を基調した豪華な服を着た男性が玉座に座っていた。
「楽にせよ。そうでなければこちらもやりにくい」
皇帝が言う。その言葉と共に、俺たちは一斉に立ち上がる。
「今日は良く集まってくれた。感謝する。さて、面倒な前置きは無しで行こう。君たち一人一人にレンジャー選抜認定証と渡航任務執行許可証を授与する。エリアレッドの彼から始めよう。ジン・レッカ。前へ来給え」
「は!」
威勢のいい声と共にジンが前に出る。
「ジン・レッカ。君はエリアレッドにて黒の帝国の住民の帝国への侵入を食い止めることに多大な成果を出した。これからも帝国の国境警備に助力してくれ」
「見に余るお言葉」
二つの証を貰ったジンは一礼して元の場所へ戻る。渡航任務執行許可証は金属の板に印字されている。紙製だと濡れたりしたときに困るからだろう。
「イグナシオ・オルネラス。前へ来給え」
「はい!」
イグナシオが意気揚々と前に出る。
「君は……」
――皇帝が話し出した時だった。突如、背後の扉が開かれた。俺たちが振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。
「ここが帝国の中心地かぁ! 初めて来たよ。あ、皇帝さん初めまして。僕はテイマー。あなたの首を貰いに来たよ」
テイマーがわざとらしく頭を下げる。
「テイマー、またお前か!」
「やあトオル君。また会ったね」
テイマーは笑う。彼は傍らに見知らぬ幼女を連れている。彼女は誰だ? それに彼女から感じる魔力、異質だ。これは普通の黒魔導士のものじゃない。複数の色が複雑に混ざり合ったような、この変な感覚は……
「陛下に手を出すな! 不死鳥之炎!」
「パッショネートビート!」
「ランドブレイカー!」
「フォレストスナイプ」
「アイシクルブレード!」
ジンとイグナシオは空中から、ダミニとティムールは遠距離から、シンシアはテイマーに近づいて技を放つ。炎や土、木の葉や氷など様々な攻撃が混ざり合う。
「大海の斧撃!」
モルも少し遅れて、魔法で具現化した巨大な斧でテイマーを斬りつける。
「みんな、一旦と止まれ! 奴は何かをする気だ!」
俺はあの虚ろな目をした少女に違和感を覚えていた。彼女は緑色の宝石が嵌められたペンダントをしていた。まさか、あれに何かあるのか?
「さぁよろしく。御子ちゃん」
テイマーはそう言うと、あろうことか少女を自分の盾にした。攻撃によって舞い上がった粉塵が晴れると、信じられない光景が目の前に現れた。少女は傷一つ負っていなかったのだ。それと同時に俺は更なる異変を感じていた。レンジャーたちの攻撃の分の魔力が俺に吸収されなかったのだ。それはつまり、あの攻撃の分の魔力を彼女がため込んでいるということだ。彼女の目は黒い。ということは彼女は無色の魔導士ではないはず。なら、魔力をため込んでいるのは、あのペンダント……
「嘘、全く効いてない……」
少女の前でモルが呟く。俺は嫌な予感がしていた。彼女は、何かをしようとしている。
「モル! 逃げろ!!」
「え?」
とっさのことで動けないモルを俺は俊歩で少女の前から移動させ、自分も少女から離れる。
「――カウンター」
――少女がそう呟くと、レンジャーたちが放った全ての魔法が俺たちに放たれた。多くの色が混ざり合った大波のような苛烈な攻撃は、激しく音を立てながら、城の床を抉り、俺たちを吹き飛ばした。




