十五話 帝国からの招待状
藍の章です。
魔獣の騒動から二週間。村の復興も終わりに近づき、リツとフブキたちも二人の故郷に帰っていった。
「そろそろ刀ができる頃だな」
俺が荒れた道を直しながら呟く。
「そうね。テツジさんのところへ行ってみましょ」
そうして俺とアカリは作業を一時中断しテツジの作業場へと向かった。
「そういえば、この世界には魔法陣はないのか?」
俺は歩きながらアカリに尋ねる。
「魔法陣はあるわよ。でも戦闘中に魔法陣を書いてる余裕なんてないでしょう? だから魔法陣は物に刻み付けて魔法道具として利用する場合が多いわね。そうすることで難しい魔法も簡単に速く使えるようになるのよ」
「なるほど。よく考えられてるんだな」
そんな話をしながら俺たちはテツジの作業場に到着した。
「おお、無色の兄ちゃんか。刀、出来上がったぞ!」
俺たちが中に入るとすぐにテツジが元気よく迎えてくれた。
「よかった。これは代金だ」
俺はテツジに銭が入った袋を手渡す。
「おお、ありがとよ。ってこんなに?」
「魔獣討伐の報酬が帝国からたくさん出たんだ」
「でも、こりゃあだいぶ多いぜ。普通の二倍はある」
テツジは袋の中を見ながら言う。
「そうなのか。普通がどれくらいかよく知らなくてな。まあ受け取ってくれ」
「おう。そりゃ俺もそう言われたら受け取るぜ……で、そこにあるのが出来上がった刀だ」
テツジは俺の右側に置かれた刀を指さす。俺は刀を持ち上げる。
「これが……一見したら普通の刀だな」
「そうだな。でもその金属の特性は魔力を吸収するところだ。それと使う魔力によって色が変わる。白の魔法なら白っぽくなるって風にな。また修理が必要になったら俺のところに来るといい」
「ありがとう。テツジ。いい刀だ」
俺は新しい刀を鞘にしまった。
「あたりめえだ。俺の打つ刀にハズレはねえよ」
テツジは得意げに言った。
テツジの作業場から俺たちが白鷺家に帰ってくると、ヒジリさんがいた。
「お、刀を受け取ってきたのか。よかったな。それとトオル。お前に帝国政府から手紙が届いてるぞ」
ヒジリさんが俺に手紙を手渡す。
「何だろう……『あなたはレンジャー選抜に選ばれました。所定の日程にエリアセントラル中央、オクト城へ来るように』か。レンジャー選抜ってなんです?」
「レンジャー選抜は、年に一度、各エリアのマスターがそのエリア内でもっともすぐれたレンジャーを一人ずつ推薦して帝都で表彰する制度のことだ。渡航任務執行許可証も貰える。これがあると出身エリア以外での依頼もレンジャーとして受けることが出来るようになるんだ」
「違うエリアの任務って受けちゃいけなかったんですね」
まだまだこの世界には知らないことがたくさんあるな。
「そうだな。他のエリアに介入しすぎると、そのエリアのレンジャーの仕事を奪うことにもなるからな」
「なるほど。というか、各マスターが推薦するってことは、僕を推薦したの、ヒジリさんですよね?」
さっきから態度が妙に白々しかったのもそのせいだろう。
「バレたか。弟子優先なマスターだとか思われそうで隠してたんだが……」
「因みに去年は私よ。そのときは親馬鹿かって言われてたわね」
アカリが困り顔で言う。
「そうなんだ。マスターも大変だな。ていうか、俺、白の魔導士じゃなくて無色ですけど大丈夫なんですか?」
また無色だからといろいろ言われそうだが。
「白の魔法を使い続けてればいいんじゃないか? 俊歩とかなら詠唱無しで使えるだろ」
「街に常に高速移動してる奴とかいたら気持ち悪くないですか?」
俺だったら絶対に引く。スリでもしてそうだ。
「確かに不気味だな。まあ、無色でも問題ないだろう。もしかしたらトオルのことは既に帝都に広まってるかもしれないしな」
「そうですね……」
それから俺は、エリアセントラルへ行く準備を進めた。
◇
そして出発当日。
「それじゃあ、行ってきます」
俺は少し大きめの荷物を馬車に乗せて、馬車に乗り込む。
「おう。気をつけろよ」
「気を付けてね」
二人が手を振る。俺も手を振り返す。
御者が馬の手綱を引き、馬車を出発させた。エリアセントラルまでは一日ほどかかるらしい。
◇
白都を超え、エリアホワイトを抜けて少しした頃、夜の闇の中、女性の声が聞こえた。
「そこのお方! 乗っていた馬車が壊れてしまったので乗せてくれませんか!」
御者も声が聞こえたようで、すぐに馬車を停め、道に立っていた少女を馬車に乗せた。壊れた馬車の御者は壊れた馬車の馬を近くの村に一度送り届けると言って馬に乗って行った。
「ここの方が親切で助かりました。あ、私はエリアネイビーでレンジャーをしている、モル・ハザールです。モルと呼んでください」
モルが名乗る。モルは紺色のショートカットで、首には山吹色のストールをまいている。身長は低く、顔も幼げだ。十五歳ぐらいに見える。
「俺はトオル・ムメイ。俺もエリアホワイトでレンジャーをしている。トオルと呼んでくれ」
「え、もしかして、無色の方ですか?」
この言葉。この世界に来てから何度言われたことか……もちろん無職という意味で聞かれているわけではないのだけど。
「まあ……そうだよ」
「あ、よく見たら瞳がちゃんと無色ですね」
モルが小動物のように顔を近づける。俺は少したじろぐ。
「俺の噂はもう違う色のエリアにまで広がってたんだな……」
俺は目の前まで来ているモルの顔から目を逸らしながら言う。
「噂っていうのは若い女子の間では特に広まるのが早いものですから。敏感じゃない人たちには広まってない程度ですかね。それより、トオルさんは何用でセントラルへ? もしかして私と同じくレンジャー選抜ですか?」
モルは俺との距離を元に戻す。首を右に少し傾げる様がやけにあざとい。
「そう。レンジャー選抜。俺は無色なんだけどエリアホワイトの選抜に選ばれてさ」
「まあ色の制限はないので大丈夫ですよ。もっとも、これまでエリアの色と瞳の色が違うというケースは一度もありませんけど」
「まあそうだよね」
話をしている内に朝日が昇ってきた。村を出発したのも日が昇ってからすぐだったから、もうすぐ到着だろう。
「日が昇ってきましたね。あ、帝都の門が見えてきました」
「本当だ。あれが帝都か……」
俺たちの目の前に、頑丈そうな大きな門が現れる。高さは十メートルを超えているだろう。
「ですね。正式には帝都、オクタウィア。もしかしてここに来るの初めてですか?」
「初めてだよ。モルは違うのか?」
「私は学園の入学試験で一度。城の周りは賑やかですよ。見てみてください」
門を通過すると、これまで聞こえなかった街の喧騒が聞こえてくる。そして城。とにかく大きい。六十メートルは超える。青を基調とした落ち着いたデザインだ。その城の周囲を四車線分はありそうな道が取り囲んでいる。もちろん反対側は見えないが。
「城、大きすぎるだろ……」
「私も初めはびっくりしました。案内の方が出迎えてくれるみたいですね。行きましょう」
前を見ると、二人の守衛の他に、正装を着た背の高い男性が立っている。彼が案内か。
「お二方、ようこそお越しくださいました。エリアセントラル中央、オクト城へようこそ!」
男性が快活に言った。初めての帝都に俺は心が躍る。モルも口元をほころばせた。




