十三話 それぞれの決着
リツと対峙した九尾の狐は人間のように不気味に笑った。リツは跳躍し、刀を大きく振り上げた。
「千羽鶴!」
大量の鶴が刀に導かれて九尾に放たれようとした瞬間。
「リツ……やめて……! どうしてそんなことするの?」
――突如、リツの目の前にアカリが現れた。
「アカリ? いや、アカリは向こうで戦っている。狐が化けたのか」
リツは一瞬の戸惑いがあったが、千羽鶴をアカリに向ける。
「いやっ!」
擬態のアカリは千羽鶴の攻撃に身を縮める。リツは反射的に千羽鶴を消してしまった。
「……やりにくいな。だが所詮は幻……」
リツは再びアカリに向けて刀を構える。
「千羽鶴、二連!」
「いやぁ! やめてよ! リツ!」
今度は狐はフブキに化けた。
「フブキ……? なら問題ない」
相手がフブキであると確認すると、リツは躊躇なく折り鶴を食らわせた。擬態が解け、フブキが元の狐の姿に戻る。
「ちょっと! 私を容赦なく斬るんじゃないわよ!」
フブキが鵺と戦いながら怒る。
「まさか容赦なく切るとはナ……愛の無い男だ……」
九尾の狐は傷に苦しみながらうめくように言った。
「勘違いするな。俺が今更フブキを見間違えるはずが無い」
「リツ……」
フブキがわずかに頬を赤く染める。
「本物はあんなにおしとやかではない。もっと乱暴だ」
「リツ……あとで斬るから覚悟してなさい……」
フブキの顔は一瞬にして冷徹なものへ戻った。
「お前は目の前の敵に集中しろ」
それを聞いたフブキは目の前まで来ていた、鵺の攻撃を間一髪でかわす。
「私は何を見せられているんダ……」
「見苦しいところを見せたな。安心しろ。すぐに魔界に帰してやる」
リツはとどめを刺そうと、狐に近寄る。すると狐は、霧を出してリツたちの視界を阻む。
「霧か……下らん……」
リツは霧の中で動く狐の影を見つけると、それと反対の方向を向き、刀を振るった。フブキも同様に鵺とは反対の方向に技を出す。
「千羽鶴・騒乱!」
「雪嵐!」
折り鶴たちは雪の嵐と共に、大きな渦を形成し、狐と鵺、両方を飲み込んだ。
「グォォォォ……」
「我の幻術を破るだト……」
折り鶴の嵐に飲まれた二匹の魔獣は倒れこみ、鵺は消滅した。
「霧の幻術を使う魔導士が今更、幻術に騙されるわけないでしょう?」
「俺も幻術には慣れている」
リツとフブキが狐の前に並んで立つ。
「変わった人間もいたものダ……阿吽の呼吸とはこのことか……」
そう言って九尾の狐は消滅した。
「阿吽の呼吸……まぁ、リツの体調、心拍数は常に把握しているから当然ね……」
「……俺も流石に寒気がしたぞ」
「? どうしてかしら?」
顔色を悪くするリツの横で、フブキはきょとんとしていた。
◇
俺は急いでアカリの元へ駆けつける。
「アカリ! 俺も戦うぞ!」
「トオル、ありがとう! 魔獣が多すぎて大変だったの!」
俺の姿を認めたアカリは、顔を綻ばせる。
「無色野郎が戻ってきたか。俺と勝負しやがれ!」
俺を見たコタロウが刀を振り回しながら叫ぶ。
「てめえ、自分で魔獣出しておいてそれを言うのかよ!」
「しょうがねえ……隙を見つけて一撃で決めるんだ。行くぞ、アカリ」
「分かった」
俺たちは魔獣から一度距離を取り、刀を構え直す。
「光明!」
「緋桜!」
俺は刀を獅子の魔獣の上から叩きつける形で振り、獅子を真っ二つに斬った。アカリは刀の先を大蛇の魔獣に向け、炎を宿した桜の花を刀に纏わせ、突きを食らわせた。アカリの刀は蛇の喉元を焼きながら貫き、蛇は消滅した。
「ほらな。落ち着いたら倒せるだろ?」
「そうね……」
アカリはほっと息をついた。周囲の魔獣は一掃出来たみたいだ。
「コタロウ、次はお前の番だ」
俺はコタロウに向き直って言う。
「そう簡単に倒せると思うなよ?」
そう言ってコタロウは俺に迫る。俺も刀を構える。
「来い! 俺の影!」
「何?」
コタロウがそう言うと、コタロウの陰からもう一人のコタロウが現れた。フブキの魔法とは違い、実体のある分身だ。コタロウは影と共に俺に斬りかかる。俺は俊歩でそれをかわし、形勢を立て直そうとするが、コタロウと影の連続攻撃がそれを許してはくれない。
「黒獅子斬り!」
コタロウは俺に向けて大きく刀を振った。俺はそれを上体を反らして避ける。しかし、コタロウは手首を返して下から上へ刀を振り上げた。大きな牙のような形をした魔力の刃が俺の顔を掠める。俺は避けようとするが、顔に切り傷を負ってしまった。俺は魔力を少し多めに消費してコタロウの間合いから脱出した。
「前より強くなってるな……」
「これが黒の力だ」
コタロウは再び影と共に俺に向かってくる。
「桜吹雪!」
――突如、影が桜の嵐に吹き飛ばされる。
「影は私に任せて! トオルはコタロウに集中して!」
アカリが言った。コタロウは呆気にとられていたが、すぐに俺の方を向き直った。
「助かる! コタロウ、今度はこっちの番だ」
俺もコタロウに俊歩で間合いを詰める。
「一閃!」
「その技はもう分かってるんだよ! 黒龍斬!」
俺が横向きに刀を大きく振る。それに対して、コタロウは闇の魔力を纏わせた刀を縦に振り下ろす。俺とコタロウは鍔迫り合いの形になる。
俺はそこからさらに、素早く手首を返し、刀を下から上へ振り上げる。
「白獅子斬り!」
黒の魔力は使ってはいけないが、型なら真似してもいいだろう。俺は光の魔力を纏わせた斬撃でコタロウを吹き飛ばした。
「今見た技をコピーしただと?」
コタロウは冷や汗を額から垂らす。俺はそんな彼に構わず、間合いを詰めて斬りかかる。
「白龍斬!」
「黒虎刃!」
俺は再びコタロウの技の型を真似る。コタロウも黒の魔力を使って威力を相殺しようとするが、どうやら黒の魔力が切れて来たみたいだ。彼の技には先ほどまでの強さを感じない。どうやら彼の黒の魔力は『借り物』のようだ。
黒の魔力が尽きたならもう勝負はついたも同然だ。俺は刀から魔力を借り、地面を強く踏み出した。
「奥義、光陰如箭!」
俺はコタロウに、目にも留まらぬ速さで連続の斬撃を与える。一瞬にして、十を超える傷がコタロウの胴に刻まれる。
「奥義だと? ぐぁは!」
コタロウは呻き声をあげながら倒れた。
「……刀が折れたか」
気づくと刀は技の負担によって砕けてしまっていた。




