十二話 戦闘開始
「トオルはどこへ行った? こんな時に……」
リツは一人で鵺と九尾の狐の相手をしていた。
「リツ! 私たちも手伝うわ!」
「フブキ! アカリ! すまない。魔獣を頼む。俺はコタロウの相手をする!」
リツは二人の姿を認め、叫んだ。
「コタロウの相手なら私が行くわ。同郷の私の方がコタロウの魔法に詳しいわ」
アカリが神妙な表情で言った。
「分かった。アカリに任せる。フブキは鵺を頼む。俺は九尾の狐だ」
「了解したわ」
フブキも刀を抜き、鵺と対峙する。
◇
「コタロウ……どうして堕落なんて……」
アカリは悲哀の表情を浮かべる。
「アカリ、お前にもわからないだろうよ。こうでもしないと俺はあいつに勝てないんだよ」
コタロウはきまりが悪そうに言う。
「トオルのことね。確かにトオルは強いわ。けど、彼の強さも努力をしてこその強さよ」
「そこだ。そこが気に入らねえんだよ……努力? そりゃ、元から強い奴が努力したらさらに強くなるだろうよ。努力なら俺だってしてきたはずだ! 俺の努力は何だってんだよ!」
コタロウは憤り、足を踏み鳴らす。
「それは……」
「もういい。俺はこの村を壊す。努力なんてクソ食らえだ」
コタロウは刀を抜き、吐き捨てる。
「来い! 黒獅子!」
「グォォォォ!」
アカリの目の前に大きな黒い獅子が現れた。アカリも刀を構える。
「すぐに目覚めさせるわ。コタロウ」
◇
俺は体を加速してテイマーに斬りかかる。テイマーは自身の腕に生えた羽根をクッションにして刀を受け止めた。俺は素早く二発、三発目を繰り出すが全て受け止められてしまう。技を出そうにも、こうも隙がないと逆に技を出した俺が不利になりかねない。とにかく今は敵に隙を作らせなければ。
俺はテイマーの周りを素早く移動しながら攻撃を重ねるが、テイマーはそれを見切り、受け止めていく。駄目だ。無理やり相手を崩すしかないか。
「晴嵐!」
詠唱と共に辺りに霧が立ち込める。
「霧の魔法か。ならこっちは……」
そう言ってテイマーは右腕を上げる。
「クロウウィング!」
その瞬間、テイマーの右手から黒い翼が生え、暴風を生んだ。風で霧はすっかり晴れてしまった。この調子だと、紙吹雪や雪嵐など風に依存する技は軒並み効かないだろう。黒の魔法使い、かなり厄介だな。仕方ない。奥義を使うか。
俺は刀をしまい、居合の構えをとる。これをするからには一発で仕留めなければいけない。だが、黒の魔法使いだからといって殺してもいいのか? やっぱり気を失わせて憲兵とかに受け渡すべきか?
「どうしたんだ? 攻撃しないのかい?」
テイマーは俺を挑発する。俺は息を整え、集中する。
「今度は俺の番だ。奥義、光彩奪目!」
「シャドウクロー!」
俺が技を出すのと同時に、テイマーも黒い鈎爪で攻撃を防ぐ。しかし、俺の白の魔法は黒の魔法を打ち消し、テイマーの胴体に一本の深い傷を刻みつけた。
「威力えぐいなぁ……でも君も終わりだね」
吹き飛ばされたテイマーは苦しみながらも笑った。こいつ胴体をざっくり斬られたのに笑ってるだと? 痛覚どうなってるんだ? というか、『君も終わり』だと?
「後ろだよ」
――しまった。俺としたことが。後ろから迫りくる巨大な鴉に気が付かなかった。鴉は鈎爪をギラリと光らせ、俺に向かって急降下してくる。まずい。技を出した後だからすぐには動けない……
「奥義、光陰如箭!」
――刹那、鴉は超高速の光の刃の連撃を受け、悲鳴を上げながら消滅した。その刀の主は、俺の師匠で白のマスターのヒジリさんだった。
「ヒジリさん? どうしてここに?」
「お前の雛鳥が知らせてくれたんだよ。村を黒の魔導士が襲撃して来たってな」
「……ピヨゥ」
ヒジリさんの肩の上で雛は自慢気に鳴いた。そういえば、白鷺は自分で考えて行動すると、ヒジリさんも言っていたな。
「お前……やるな」
雛鳥は俺の元へ飛んできて、魔界に戻っていった。
「ここは俺に任せろ。トオルはコタロウのところへ行くんだ。アカリが苦戦している」
「アカリが……分かりました!」
テイマーとの戦いに夢中でコタロウのことを忘れていた。急がなければ。俺は体を加速してコタロウとアカリの元へ向かった。
◇
「さて、僕はここで失礼……」
隙を見て、テイマーが逃走を図る。
「逃がすか」
それを見たヒジリは高速でテイマーに近づき、刀で彼の肩を地面に突き刺して拘束した。
「マスターさん、ここはどうか慈悲をくれませんかねぇ?」
「……それなら一つ聞きたいことがある。それに答えてもらおうか?」
「ええ。なんでも答えますよ! なんでも!」
テイマーは激しく頷く。
「ブラッドという黒の魔導士を知っているか。そいつは今どこにいる」
「あぁ。あの七戦帝のブラッドさんですか。そりゃ知ってますよ。黒の魔導士の中では伝説的な人ですからねぇ。今どこにいるかってのは知らないですけど適当に血でも吸い回ってるんじゃないですか。吸血鬼の異名を持つぐらいですし」
テイマーは何だそんなことか、といったような顔で答えた。
「七戦帝? なんだそれは?」
「七戦帝は黒の帝国の幹部の総称ですよ。全員が堕落者で構成されてるんです」
「全員が堕落者……」
「もういいですか? そろそろ会議が……」
テイマーが再び逃走を図る。
「離すわけがないだろう」
ヒジリは刀を押す力を強める。
「ぐぁっ!」
――どこからともなく発射された銃弾がヒジリの肩を貫いた。その拍子にヒジリは刀から手を放す。
「何だ今のは?」
「ありがと、ガンナー! マスターさんもまた会おうね~!」
テイマーはそう吐き捨てると、背中に翼を生やして逃げて行った。
「俺の目でも見切れない速さの攻撃だと……?」
ヒジリは肩を抑えながら立ち尽くしていた。




