9-1
あれから約1ヶ月。
夏がすっかり終わり、肌寒くなってきた10月の終わりごろ。
あたしはようやく、隼人さんのことを諦めかけていた。
「波瑠!
今度さ、映画見に行こうよ!」
「映画?何の?」
「今やってる新しいやつ!
ほら、あの人が出てる恋愛系の映画!」
「…あぁ、あの俳優さんが出る映画ね。
沙柚も好きだね」
「大好きよ!
かっこいいもん!」
「竜二くんとどっちが好き?」
「………」
「迷うなよ!」
あははっと、どちらからということなく笑う。
いつもの会話。
いつもの沙柚。
いつものあたし。
のはずなんだけど、あたしの目が笑ってないことに、沙柚は気づいているかもしれない。
それでも、何も聞いてこない沙柚は優しい。
それと、あたしは沙柚にも言っていないことが一つあった。
それは、あの日の記憶。
記憶を無くした原因であろう、あの日の出来事。
あたしは、それを最近思い出していた。
別に、恨んでなんかいない。
隼人さんのせいじゃないって、わかりきっている。
ただ、小さいあたしに、その現実が受け止めきれなかっただけ。
でも…理由は何だったんだろうって、今でも疑問に思う。
そして、その度に隼人さんを思い出して苦しくなり、もう関係ないと自分で落ち着かせる。
そんな日々。
でも、学校生活も家での生活も、変わったことは特にない。
いつもの日常。
これが毎日続けばいいんだって思ってた。




