黒き影の使者
悪役登場です
黒い霧はゆっくりと渦を巻き、一人の人影へと姿を変えていく。
全身を黒いローブで包み、顔は深いフードに隠れて見えない。
ただ、闇の奥で赤い瞳だけが妖しく輝いていた。
「ククク……よくここまで追い詰めたものだ。」
低く響く声に、シルヴァは斧を構える。
「お前がこのオーガを暴走させたのか。」
黒い影は口元だけをゆがめた。
「実験は成功だ。黒き魔力は予想以上の力を引き出してくれた。」
「実験……だと?」
シアンは怒りをにじませる。
「命を何だと思っている!」
黒い影は肩をすくめる。
「弱き者が淘汰されるのは、この世界の理だ。」
その言葉に、ミントの表情が険しくなる。
「あなたは……『黒霧教団』の者ね。」
黒い影は一瞬だけ沈黙した。
「ほう。森の民はまだ我らの名を覚えていたか。」
シアンはミントを見る。
「黒霧教団って?」
「数十年前に姿を消したはずの闇の集団よ。禁じられた魔法で魔物を操り、世界に混乱をもたらそうとしたと言われているわ。」
シルヴァは歯を食いしばる。
「噂だけじゃなかったってことか。」
黒い影は片手を掲げた。
「さあ、最後の仕上げだ。」
すると、倒れていたオーガの体が再び黒い魔力に包まれる。
傷がみるみる塞がり、その筋肉はさらに膨れ上がった。
「まだ強くなるのか!」
シアンが叫ぶ。
「皆さん、下がって!」
ミントは杖を高く掲げる。
「光よ、闇を退ける盾となれ――《ホーリーシールド》!」
三人の前に黄金色の光の壁が現れる。
直後、暴走したオーガの拳が結界に激突した。
激しい衝撃が森中へ響き渡る。
結界にはひびが入り、ミントの額から汗が流れ落ちた。
「長くは持たない……!」
シルヴァは斧を握り直し、静かにシアンへ言う。
「シアン、お前は回復魔法が使えるようになった。これからは戦うことだけじゃない。仲間の様子も見ろ。」
「…はいっ!」
「ミント、お前は奴の動きを止められるか?」
「数秒だけなら。」
シルヴァは不敵に笑う。
「それだけあれば十分だ。」
三人の視線が交わる。
出会って間もないはずなのに、不思議な信頼が生まれていた。
「いくぞ!」
シルヴァの掛け声とともに、三人は一斉に駆け出す。
その様子を見つめながら、黒い影は静かに笑った。
「面白い……。特にあの少年。」
フードの奥の赤い瞳が、シアンを見据える。
「白き癒やしの魔力を持つ者が、まだ生き残っていたとは。」
その一言を残し、黒い影は霧となって森の奥へ消えていった。
残された三人は、暴走したオーガとの最後の決着をつけるため、力を合わせて立ち向かう。
そして誰も知らなかった。
シアンが宿した癒やしの力こそ、黒霧教団が長年探し続けていた「白き聖光」の力であることを。
謎多き黒霧教団の目的とは…




