湖畔のひととき
帰路での休息
封印の番人との戦いを終えた一行は、王都へ戻る途中、小さな湖のほとりで休憩を取ることにした。
夕暮れの湖は鏡のように静かで、空を赤く染める夕日が水面に映っている。
「ここで少し休もう。」
シルヴァはシアンを木陰へ座らせる。
「足はまだ無理するな。」
「はい。」
ミントは湖の水を小さな鍋にくみ、薬草を煎じ始めた。
「腫れを引かせる薬を作るわ。」
ローは湖の水を飲んだあと、気持ちよさそうに木の下で丸くなる。
しばらくして、シルヴァは周囲の警戒を兼ねて森の様子を見に行った。
「少し見回ってくる。」
「気を付けて。」
ミントが見送る。
静かな湖畔には、シアンとミントだけが残った。
風が湖面を優しく揺らしている。
「……きれいですね。」
シアンがぽつりとつぶやく。
ミントも静かに湖を見つめた。
「ええ。こういう景色を見ると、森で暮らしていた頃を思い出すわ。」
「エルフの里って、どんな場所なんですか?」
ミントは少し懐かしそうに微笑む。
「大きな世界樹があって、その周りに家が並んでいるの。朝は鳥の声で目を覚まして、夜は星を見ながら眠る……とても静かな場所よ。」
「行ってみたいな。」
「いつか案内してあげる。」
その言葉に、シアンの表情が明るくなる。
「本当ですか?」
「ええ。」
ミントはうなずいた。
「でも、人間が簡単に入れる場所じゃないの。」
「そうなんですね。」
少し残念そうに笑うシアンを見て、ミントはくすりと笑った。
「あなたなら、きっと歓迎されるわ。」
「俺が?」
「自然を大切にする人だもの。」
しばらく沈黙が流れる。
湖を渡る風だけが二人の間を通り抜けていく。
やがてミントが静かに口を開いた。
「シアン。」
「はい。」
「今日はありがとう。」
「え?」
「ゴーレムを倒すんじゃなくて、助けようって言ってくれたでしょう?」
シアンは少し照れながら頭をかく。
「助けられるなら、その方がいいかなって。」
「その考え方……私は好きよ。」
ミントは穏やかに微笑んだ。
「エルフは命をとても大切にする種族なの。だから、あなたと一緒に旅ができてよかった。」
その言葉を聞き、シアンも自然と笑顔になる。
「俺もです。」
「これからもよろしくね。」
ミントはそっと右手を差し出した。
シアンは少し照れながら、その手を握る。
「よろしくお願いします。」
二人が笑い合ったその時だった。
「おーい。」
森の方からシルヴァが戻ってくる。
「そろそろ出発するぞ。」
「はい!」
ローも立ち上がり、「ウォン!」と元気よく鳴いた。
湖畔で交わした約束は、言葉にしなくても互いを信頼できる仲間になった証だった。
四人は再び王都への道を歩き始める。
彼らを待ち受ける次の試練が、すぐそこまで近づいていることも知らずに。
いつかエルフの里の話を出そうかな




