黒い祭壇
翌朝、澄みきった空の下、シアンたちはフンワリ草原の奥へ進んでいた。
先頭を歩くのはローだ。
黒い鼻を地面へ近づけ、時折風の匂いを確かめながら歩いていく。
「ウォン。」
ローが低く鳴き、進む方向を変える。
「何か見つけたみたいね。」
ミントが静かに言う。
「黒い魔力の匂いを追っているのかもしれない。」
シルヴァは斧を肩に担ぎ直した。
「頼もしい案内役だ。」
シアンはローの背中を軽く叩く。
「頼んだぞ。」
ローは嬉しそうに尻尾を振ると、再び走り始めた。
しばらく進むと、草木の生えていない不自然な空き地へたどり着く。
そこだけ空気が重く、冷たい。
「この場所……。」
ミントは眉をひそめた。
地面には黒い紋様が円を描くように刻まれている。
中心には、腰ほどの高さの黒い石が立っていた。
「祭壇か。」
シルヴァが低くつぶやく。
シアンは近づこうとするが、ミントが手を伸ばして制した。
「待って。」
ミントは杖を掲げ、光魔法で周囲を照らす。
すると祭壇の周囲に、黒い魔力の糸のようなものが浮かび上がった。
「触ると危険よ。」
その時だった。
ローが祭壇へ向かって唸り始める。
「グルルル……。」
「どうした?」
シアンが声をかける。
次の瞬間、祭壇の影から三体の魔物が姿を現した。
灰色の皮膚に赤い目。
鋭い爪を持つ小柄な魔物。
「ゴブリン!」
シアンは棍棒を構える。
「いや……普通のゴブリンじゃない。」
シルヴァが鋭い目で見据える。
魔物の体からは黒い霧が立ち上り、目は理性を失ったように赤く染まっている。
「黒い魔力に支配されている。」
ミントが杖を握り締めた。
ゴブリンたちは奇声を上げ、一斉に飛びかかってくる。
「シアン、右!」
「はい!」
シアンは教わった通りに間合いを見極め、棍棒を横薙ぎに振るう。
一体のゴブリンが吹き飛んだ。
同時にローが素早く飛び込み、もう一体の腕へ噛みつく。
「ガアッ!」
動きが止まった隙を逃さず、シルヴァの大斧が振り下ろされた。
「終わりだ!」
一撃でゴブリンを倒す。
残る一体はミントへ飛びかかった。
「危ない!」
シアンが叫ぶ。
しかしミントは慌てない。
「風よ、吹き飛ばして――《ウィンドブラスト》!」
強烈な突風がゴブリンを空中へ吹き飛ばした。
そこへローが跳び上がり、体当たりを食らわせる。
ゴブリンは地面へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
戦いはあっという間に終わった。
「みんな、怪我は?」
シアンが仲間を見回す。
「私は大丈夫。」
「俺も問題ない。」
ローも元気よく「ウォン!」と鳴いた。
シアンは笑顔になり、ローの頭を優しく撫でる。
「よくやった。」
その時、祭壇の黒い石が鈍く光り始める。
「まだ終わってない!」
ミントが叫ぶ。
石の表面には見たこともない文字が浮かび上がる。
それを見たミントの表情が変わった。
「これは……古代エルフ文字。」
「読めるのか?」
シルヴァが尋ねる。
ミントはゆっくりとうなずいた。
「読める。でも、どうしてこんな場所に……。」
彼女は石に刻まれた文字を見つめ、小さく息をのむ。
そこには、黒霧教団が追い求める計画の一端を示す言葉が刻まれていた。
『黒き門、第一の封印』
四人は互いに顔を見合わせる。
黒霧教団の陰謀は、彼らが想像していたよりもはるかに大きなものだった。
黒霧教団...




