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第99話:書面の期限

 種蒔きから二百四十一日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。


 第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。


 第三耕地に進んだ。第四十三バッチの頃合いだった。五本を一本ずつ根元から確かめてから摘み取った。三か所に水をかけた。


 岩の隙間の霧花草が今日は葉を開いていた。三枚を刈り取って別の布袋に入れた。


 水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。


(今日は割れ目には入らない。書面の期限が切れる頃合いだ)


 小屋へ戻った。



 乾燥台に今日の十本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が五百七十八本になっていた。一時間ほどで通常品十本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が五百八十八本になった。混合品が四十三本になった。


 棚を整えた。通常品を左、混合品を右に揃えた。


 昼前、ミアが扉を叩いた。入ってきた。棚を一度見た。


「五百八十八か」


「ドゥルガさんへは昨日のうちに文を送りました。書面の期限が今日あたりだと」


 ミアが扉の横の壁に背を預けた。


「師匠には話してある」


「来るかどうかわからないですが」


「来る」


 ミアが短く言った。断定だった。


 しばらくの間、二人で待った。炭が時々はぜた。空気は動かなかった。


(来るならはっきり答える。出せない。それだけだ)


 昼すぎ、外に足音があった。一人だった。


 扉が叩かれた。


「レイン・ホルツさんでしょうか」


 前と同じ声だった。落ち着いた、三十代の男の声だった。


 扉を開けた。教会の印を持った男が立っていた。前と同じ顔だった。


「はい」


「書面の期限について、確認に参りました。ハナ王国ダンジョン施設登録確認状の提出を、三十日以内とお伝えしておりましたが」


「出せません」


(揺れない)


 男が少し間を置いた。


「それは困ります。ハナ王国の規定によれば、ダンジョン施設の登録確認は義務となっており——」


「規定があるのであれば、改めて正式な文書をお送りください。こちらも確認した上で、どう対応すべきかを判断します」


 男が少し考えた。


「……わかりました。改めて対応いたします」


 一礼して去った。足音が遠ざかっていった。


 扉を閉めた。ミアが言った。


「よかった」


(ミアが言った)


「来てくれてありがとう」


「それくらいはする」


 ミアが棚を一度見た。少し間を置いた。


「次が来た時も、前もって知らせてくれ」


「頼みます」


 扉が閉まった。



 少し後、外でまた足音がした。


「ゴルドさん」


 顔を出したのはゴルドだった。前掛けをつけていた。額に汗が光っていた。鍛冶場から来たままの格好だった。


「来たな」


「はい。今、帰りました」


「答えは」


「出せません、と言いました。正式な文書を送ってほしいと伝えたら、改めて対応すると言って帰りました」


 ゴルドが少し間を置いた。


「揺れなかったか」


「はい」


 ゴルドが顎を動かした。


「次が来た時に備えておけ」


「わかりました」


「——ミアに聞いた通りだ」


 それだけ言って、去っていった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「書面の期限が切れました。今日昼すぎに来ました。出せませんと答えました。正式な文書を送ってほしいと伝えたら、改めて対応すると言って帰りました。ミアとゴルドさんが来てくれました」


 シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。


「揺れなかったか」


「はい」


 短い間があった。炉の木がくすぶっていた。


「次が来る」


「どんな形で来ますか」


「書面の次は、別の名目で踏み込んでくる。施設を調べに来るか、別の書面を持ってくるか——形が変わるだけで、やることは同じだ。段を踏んで来る。次の段が来た時も、ミアとゴルドが近くにいる状態を続けておけ。それだけだ」


「はい」


「ドゥルガへ文を送ったか」


「昨日のうちに送りました。今日何が来て、どう答えたかは今夜追加で送ります」


「そうしろ。——今日揺れなかったことは、続けてきたことがあったからだ。積み上げたものは、こういう時にしかわからない」


「はい」


 炉の火が揺れた。外はもう薄暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「圧力は一度で終わることはない。一度目より二度目が強く、二度目より三度目は形を変えて来る。そのたびに同じように答えることが、一番の答えになる。変わらないことが、相手に伝わる一番強い言葉だ」


(書面の期限が切れた。出さなかった。次が来る。変わらずに答える。それだけのことだ。続けてきたことが、今日の揺れなさになっていた)


 棚を見た。通常品が五百八十八本。混合品が四十三本。


 明日も採りに行く。

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