第98話:紙と短刀
種蒔きから二百三十八日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草は今日は葉を閉じていた。採取はしなかった。
水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(七十五歩目まで行く。紙と短刀を持ってきた)
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が通路を薄く照らしていた。十八歩進んで向こう側に出た。刻みを確かめた。
二十九本になっていた。
(ケルンが来た。この三日の間に)
二十九本目だけ表面が荒かった。器の向きは変化なし。
(今日は奥へ進む)
松明を二本確かめた。一本に火をつけた。奥の開口部に一歩入った。床が傾き始めた。
一歩ずつ数えながら進んだ。五十五歩目で祖父の最後の溝を確かめた。十本、変わらず並んでいた。六十歩目で自分の一本目を確かめた。表面がまだ荒かった。六十五歩目で古い溝と自分の二本目を確かめた。
七十歩目で足を止めた。
松明を右の壁に近づけた。古い溝が一本あった。自分の三本目がその隣にあった。
(紙に写す)
懐から紙を取り出した。炭の欠けを使って溝の輪郭を追った。細い。浅い。表面が滑らかだった。刻みの入り始めの角度を先に写した。それから終わりの向きを追った。松明の光だけでは細部まで読めなかったが、できる範囲で形を写した。
紙を懐にしまった。
(七十五歩目へ)
七十一歩、七十二歩——土の匂いが変わった。湿った重さの奥に、岩の埃に近い乾いた何かが混じっていた。七十三歩目で松明の炎が一度揺れた。奥から空気が動いていた。七十四歩目で壁の感触が変わった。岩盤の中に土が増えていた。粒が荒かった。
七十五歩目を踏んだ。
右の壁に松明を近づけた。縦の溝が十一本並んでいた。
(十一本。次は八十歩目のはず)
七十五歩目の隣に自分の溝を刻もうかと考えた。ここには祖父の溝しかない場所だった。古い溝がある場所の隣にだけ刻もうと、いつからか決めていた。七十六歩目には進まなかった。引き返した。
*
部屋に戻った。棚のそばに立った。松明の炎と苔の青白い光が交じり合った。しばらく待ったが、ケルンは来なかった。部屋を出た。割れ目を抜けて大空洞に戻った。
*
小屋に戻った。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が五百五十八本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が五百六十三本になった。混合品が四十二本になった。
記録の紙を取り出した。「刻みが二十九本に増加——話間にケルン来訪。降下通路七十五歩探索。七十五歩目の右壁に縦の溝十一本(パターン継続)。七十歩目の溝を紙に写した。七十六歩目は踏まず。通常品五百六十三本。混合品四十二本」。
*
昼すぎ、ゴルドの鍛冶場へ向かった。煙が出ていた。中から金属を叩く音がして、止まった。
「レインです。紙を持ってきました」
「来い」
扉が開いた。ゴルドが顔を出した。額に汗が光っていた。
懐から紙を取り出した。ゴルドが受け取った。
しばらくの間、ゴルドは何も言わなかった。紙をわずかに傾けた。もう一度傾けた。炉の火が遠くで揺れていた。
「……刻みの入り方が、鍛冶とは違う」
ゴルドがゆっくりと言った。
「刃物でやったものではない。石を使った者の溝だ」
「石を」
「こういう角度は、石を素材として長く使ってきた者の手から出る。鍛冶師の刻み方とは向きが違う。石工の手だ」
(石工)
「霧穴の奥に、石を扱う者が来ていたということですか」
「この紙の形から言えば、そうなる」
ゴルドが紙をレインへ返した。
「六十五歩目にも古い溝があると言っていたな」
「はい。七十歩目と形は同じでしたが、刻み角が少し違いました」
「次は六十五歩目の形も写してこい。二つを並べると、同じ者が刻んだかどうかわかるかもしれない」
「わかりました」
少し間があった。
「七十五歩目の先に、古い溝はあったか」
「ガルドのものが十一本ありました。古いものはありませんでした」
ゴルドが顎を少し動かした。何も言わなかった。
「次は八十歩目まで行くつもりです」
「そうか。——描いてきたらまた来い」
扉が閉まった。
(石工の手が刻んだ。その者が霧穴の奥まで来ていた。祖父よりも前に)
道を戻りながら、少し考えた。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「七十五歩目まで進みました。七十五歩目の右壁に溝が十一本ありました。七十歩目の溝の形を紙に写して、ゴルドさんに見せました。石工の手の刻み方だと言っていました。刃物ではなく石を使い慣れた者の角度だと」
シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。
「ゴルドがそう言ったか」
「はい。次は六十五歩目の形も写してくるよう言われました。二つを並べると、同じ者かどうかわかるかもしれないと」
短い間があった。炉の木がくすぶっていた。
「……石工」
シルバが低く繰り返した。炉を見たまま、しばらく動かなかった。
「何か心当たりがありますか」
「急ぐな」
それだけ言った。
「次は六十五歩目と七十歩目を両方写してこい。ゴルドの言う通りだ。形は言葉より正確に残る」
「わかりました」
炉の火が揺れた。外は薄暗くなり始めていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「形を記録するということは、後から確かめることができるということだ。記憶は変わる。記録は変わらない。何かを正確に残すことは、見えなかったものを後から見えるようにすることだ」
(七十歩目の溝を紙に写した。ゴルドが「石工の手」と言った。その者が霧穴の奥まで来ていた。祖父よりも前に。向こうの壁には文字のような線が続いていた。石工と、その線は——繋がっているかもしれない)
棚を見た。通常品が五百六十三本。混合品が四十二本。
明日も採りに行く。




