第95話:七十歩目
種蒔きから二百二十九日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地は今日の収穫の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草が今日は葉を開いていた。薄緑の葉を三枚、根元から慎重に刈り取って別の布袋に入れた。
水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(今日は七十歩目まで行く)
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が通路を薄く照らしていた。十八歩進んで向こう側に出た。刻みを確かめた。二十七本のままだった。ケルンは来ていなかった。器の向きも変わっていなかった。
(先へ進む)
松明を一本確かめた。火をつけた。奥の開口部に一歩入った。床が傾き始めた。
一歩ずつ数えながら進んだ。五十五歩目で松明を右の壁に近づけた。祖父の最後の溝が十本、変わらず並んでいた。六十歩目を踏んだ。自分が刻んだ一本目があった。表面がまだ荒かった。
六十五歩目を踏んだ。右の壁に松明を近づけた。古い一本と、自分が刻んだ二本目が並んでいた。ここまでは前と同じだった。
(七十歩目)
六十六歩、六十七歩、六十八歩——土の匂いが変わった。湿った重さの奥に、乾いた古い何かが混じっていた。岩の埃に近かった。
六十九歩目で少し足を止めた。松明の炎が一度揺れた。奥から空気が動いていた。
七十歩目を踏んだ。
右の壁に松明を近づけた。
溝があった。
(また、古い溝だ)
一本だった。六十五歩目のものと形は同じだった。細くて浅い。表面が滑らかだった。ただ——刻み方が違った。わずかに角度が違う。力の入り方が違う。
(六十五歩目のものとは別の手が刻んだのか。それとも同じ者が日を変えて来たのか)
どちらかはわからなかった。
腰から短刀を取り出した。古い溝の隣に、一本縦に刻んだ。三本目だった。石の粉が少し落ちた。自分の刻みは荒かった。古い溝の滑らかさとは全然違った。それでも確かな線になった。
(七十歩目まで来た。ここにも誰かが来ていた。その隣に、今、俺が刻んだ)
七十一歩目には進まなかった。引き返した。六十五歩目の二本を通り過ぎた。六十歩目の一本を通り過ぎた。五十五歩目の、祖父の最後の十本を通り過ぎた。
*
部屋に戻った。棚のそばに腰を落ち着けた。松明の炎と苔の青白い光が交じり合った。
しばらくして、奥の開口部から足音が近づいてきた。急いでいなかった。一定の歩幅だった。
「ケルンさん」
「……俺だ」
「七十歩目まで進みました。右の壁に古い溝がありました。六十五歩目と形は同じでしたが、刻み方が少し違いました」
「古いか」
「はい。同じくらい古いと思います」
少し間があった。
「松明を持って、向こうの広い場所へ行ってきた」
(来たか)
「壁の線はどうでしたか」
「光があれば見えた。ただの溝ではなかった。曲がっていた。一本ではなく、複数の線が絡み合っていた」
「形は」
「文字に見えた。文字かどうかはわからない。でも——文字に似た形だった。横の壁をずっと伸びていた。端まで続いているかどうかは松明一本では届かなかった」
(文字のような形が、壁を横に続いている)
「古いですか」
「触れた感じでは、かなり前のものだと思う。光があっても、形が判然としない部分があった。長い時間が経っている」
少し間があった。炎が揺れた。
「お前はどこまで行くつもりだ」
(聞かれた)
少し考えた。
「わかりません。でも続けます」
ケルンが短い間を置いた。
「……そうか」
足音が奥の開口部の方へ遠ざかっていった。
*
割れ目を抜けて大空洞に出た。
(七十歩目にも古い溝があった。向こうの壁には文字のような線が続いていた。誰かが、ずっと前に来ていた。祖父よりも前に)
水場の前で少し立ち止まった。水面が松明の炎を映して揺れた。
*
小屋に戻った。霧花草を細かく刻んでミストハーブと一緒に煎じた。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。第四十一バッチが話間の二百二十七日目に出ていた。乾燥台分を加える前の通常品が五百三本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が五百八本になった。混合品が四十本になった。
記録の紙を取り出した。「降下通路七十歩目。右壁に古い溝一本——六十五歩目と形状は同じ・刻み方がわずかに異なる・別の手の可能性あり。隣に自分の三本目を刻んだ。ケルン来訪。広い場所の壁の線を松明で確認:複数の線が絡み合う・文字状・壁を横に伸びる。刻みは二十七本変化なし。通常品五百八本。混合品四十本」。
*
昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「五百八か」
「七十歩目まで進んだ。右の壁にまた古い溝があった。六十五歩目と形は同じだったが、刻み方が少し違った」
ミアが少し眉を動かした。
「別の手か」
「わからなかった。ケルンが来た。松明で向こうの壁を確かめてきたと言っていた。複数の線が絡み合って文字に見えたと」
「文字」
「文字かどうかはわからないと言っていた。でも——それに似た形が壁を伸びていたと」
ミアが少し間を置いた。
「師匠に話しておく」
「頼む」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「七十歩目まで進みました。右の壁に古い溝がありました。六十五歩目と形は同じでしたが、刻み方がわずかに違いました。別の者が刻んだのかもしれません。ケルンが松明を持って向こうの広い場所へ行きました。壁の線が光で見えた——複数の線が絡み合って文字に似た形で、壁を横に伸びていたそうです」
シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。
「七十歩目にも溝があったか」
「はい。六十五歩目と同じくらい古いと思います」
短い間があった。炉の木がくすぶっていた。
「向こうの壁に文字のような形が——」
シルバがそこで止まった。炉を見た。少し長い間があった。動かなかった。
「……その場所は、ずっと前から何かを記録していたのかもしれない。誰かが、何かを残そうとした。ここに来た者だけが見られるように」
「はい」
「急ぐな。次は七十五歩目だ。七十歩目の溝の向きと深さ——紙に形を書いてこい」
「書けるかどうか」
「試してみろ。形は言葉より正確に残る」
「わかりました」
炉の火が揺れた。外は薄暗くなり始めていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「道の先に別の者の足跡があることがある。先を越されたと思う者もある。同じ場所を目指した者がいたと思う者もある。どちらを感じるかで、次の一歩の重さが変わる。足跡は競う相手ではなく、道が続いている証拠だ」
(七十歩目に古い溝があった。向こうの壁に文字のような線が続いていた。誰かが来ていた。その場所に、今、俺もいる)
棚を見た。通常品が五百八本。混合品が四十本。
明日も採りに行く。




