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第93話:壁の線

 種蒔きから二百二十二日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。


 第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。


 第三耕地に進んだ。第四十バッチの頃合いだった。五本を一本ずつ根元から確かめてから摘み取った。三か所に水をかけた。


 岩の隙間に霧花草の束があった。三枚が開いていた。刈り取って別の布袋に入れた。


 水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。苔の青白い光が続いた。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。


 二十七本目があった。


(また来た。この三日の間に)


 二十七本目だけ表面が荒かった。器の向きは変わっていなかった。


(待ってみる)


 棚のそばに腰を落ち着けた。松明の炎が揺れた。壁の苔の青白い光と交じり合った。


 しばらく経った頃、奥の開口部から足音が近づいてきた。一定の歩幅だった。急いでいなかった。


「ケルンさん」


「……俺だ」


「刻みが二十七本になっていました」


「そうか」


 少し間があった。


「前回から六十五歩目まで進みました。右の壁に古い溝がありました。祖父の溝でも自分の刻みでもありませんでした。細くて滑らかな溝でした。隣に自分の二本目を刻んできました」


 ケルンが短い間を置いた。


「六十五歩目か」


「はい。表面が滑らかで、かなり前のものだと思います」


「……向こうでも、見た」


(向こうで)


「どういうことですか」


「また行ってきた。あの広い場所に。今度は少し奥に進んだ。壁に触れた」


「壁に」


「線があった。深い溝だった。まっすぐではなかった。曲がって——続いていた」


(壁に線が)


「古いですか」


「触れた感じでは——古いと思う。滑らかだった。長い時間が経っていた」


「どんな形でしたか」


「暗かった。光がなかった。松明も持っていなかった。手で触れただけだ。形まではわからなかった。ただ、確かにあった。人が刻んだと思う」


 少し間があった。松明の炎が揺れた。壁の苔の光と交じり合った。


「ケルンさん。次にあの場所へ行く時、声をかけてもらえますか」


 ケルンが少し間を置いた。


「こちらから向こうの部屋に入ることはできません。でも——見たものを聞かせてもらえたら」


 また少し間があった。


「……そうする」


「ありがとうございます」


 足音が奥の開口部の方へ遠ざかっていった。



 割れ目を抜けて大空洞に出た。


(向こうの壁にも線があった。降下通路の六十五歩目と同じ——いや、同じかどうかはわからない。でも、どちらにも古い刻みがあった)


 水場の前で少し立ち止まった。水面が松明の炎を映して揺れた。



 小屋に戻った。霧花草を刻んで別の鍋に入れた。ミストハーブと一緒に煎じた。乾燥台に今日の十本を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が四百四十八本になっていた。一時間ほどで通常品十本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百五十八本になった。混合品が三十八本になった。


 記録の紙を取り出した。「刻みが二十七本に増加。ケルンが来訪。広い場所の壁に深い溝を発見・古い刻み・光がなく形は不明・曲がって続いていた。次に行く時に声をかけてもらう約束を交わした。降下通路六十五歩目の溝との関連は不明。通常品四百五十八本。混合品三十八本」。



 昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「四百五十八か。混合品も増えたか」


「ケルンが来た。広い場所の壁に古い線があったと言っていた。曲がって続いていたと」


 ミアが少し眉を動かした。


「壁に」


「形まではわからないと言っていた。暗くて光がなかった。手で触れただけだと」


「六十五歩目の溝と」


「関係があるかどうかはまだわからない。でも——どちらにも古い刻みがあった」


 ミアが少し間を置いた。


「師匠に話しておく」


「頼む」


 扉が閉まった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「ケルンが来ました。広い場所の壁に古い溝があったと言っていました。曲がって続いていたと。光がなかったので形まではわからなかったそうです。次に行く時に声をかけてもらうことになりました」


 シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。


「壁に溝か」


「はい。触れた感じでは古いと言っていました。六十五歩目の溝と同じくらいか、もっと前かもしれません」


 短い間があった。炉の木がくすぶっていた。


「向こうの壁にも刻みがあった——」


 シルバがそこで止まった。しばらく炉を見た。動かなかった。


「……その場所は、ずっと前から何かを抱えていたんだろう。お前が来る前から」


「はい」


「急ぐな。でも止まるな。次の目標は七十歩目だ」


「わかりました」


 炉の火が揺れた。外はもう暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「知らなかった場所に踏み込む時、何もないと思っていた場所に跡が残っていることがある。それは怖いことではない。その場所がずっと前から何かを抱えていたということだ。跡があるということは、道が続いているということだ」


(六十五歩目の溝。向こうの壁の線。どちらも古い。ずっと前から、この場所は何かを抱えていた)


 棚を見た。通常品が四百五十八本。混合品が三十八本。


 明日も採りに行く。

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