第92話:六十五歩目
種蒔きから二百十九日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地は今日の収穫の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草は今日は葉を閉じていた。水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(今日は六十五歩目まで行く)
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が通路を薄く照らしていた。十八歩進んで向こう側に出た。刻みを確かめた。二十六本のままだった。ケルンは来ていなかった。器の向きも変わっていなかった。
(今日は先へ進む)
松明を二本確かめた。一本に火をつけた。もう一本は腰の布に差した。奥の開口部に一歩入った。床が傾き始めた。
一歩ずつ数えながら進んだ。五歩目で足元が湿り始めた。八歩目で天井が低くなり、身を屈めて進んだ。十歩目の右壁に溝が一本。十五歩で二本。二十歩で三本。二十五歩で四本。三十歩で五本。三十五歩で六本。四十歩で七本。四十五歩で八本。五十歩で九本。
五十三歩目で頭の位置を確かめた。天井がより近くなっていた。五十五歩目を踏んだ。右の壁に松明を近づけた。祖父の最後の溝が十本、並んでいた。一番奥の一本だけ、少し深かった。力が入った形跡があった。
(ここから先は俺だ)
六十歩目を踏んだ。前回自分が刻んだ一本があった。表面がまだ荒かった。
六十一歩、六十二歩、六十三歩——進むたびに土の匂いが変わった。湿った重さに、もう少し古い何かが混じり始めた。岩そのものの匂いに近い気がした。
六十四歩目で松明の炎が一度揺れた。奥から空気が動いていた。
六十五歩目を踏んだ。
右の壁に松明を近づけた。
溝があった。
(自分のではない)
息を止めた。自分が六十歩目に刻んだ線とは形が違った。細かった。浅かった。でも確かに一本、まっすぐに入っていた。
手で触れた。
(滑らかだ)
祖父の溝の滑らかさと同じだった。それよりも、もう少し滑らかな気がした。長い時間が経っている。
(誰が来ていたのか)
ケルンではない。ケルンの刻みは向こうの部屋にある。ここは降下通路だ。そもそもケルンが来ているのは下からで、この通路を上へ向かっている。
しばらく壁の前に立ったまま、松明の炎が揺れるのを見ていた。
(刻む)
腰から短刀を取り出した。刃の背を岩に当てた。古い溝の隣に、一本縦に刻んだ。力を込めた。自分の刻みは荒かった。古い溝の表面の滑らかさとは全然違った。それでも確かな線になった。
指で二本をなぞった。古い一本と、新しい一本。
(ここに誰かが来ていた。そして今、俺が来た)
六十六歩目には進まなかった。引き返した。六十歩目の自分の一本目を通り過ぎた。五十五歩目の祖父の最後の溝を通り過ぎた。
*
部屋に戻った。刻みを確かめた。二十六本のままだった。棚のそばで少し待ったが、足音は来なかった。割れ目を抜けて大空洞に出た。
(六十五歩目に、誰かの古い溝があった)
水場の前で少し立ち止まった。水面が松明の炎を映して揺れた。
*
小屋に戻った。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この四日の間に積み上がっていた分を確かめた。第三耕地の三十九バッチが話間に出ていた。乾燥台分を加える前の通常品が四百二十八本になっていた。一時間ほどで通常品五本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百三十三本になった。混合品は三十七本になっていた。
記録の紙を取り出した。「降下通路六十五歩目。右壁に溝一本——祖父の溝とも自分の刻みとも違う。古い形状・表面が滑らか・細くまっすぐ。隣に自分の二本目を刻んだ。刻みは二十六本変化なし。ケルンは来ず。通常品四百三十三本。混合品三十七本」。
*
昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「四百三十三か」
「六十五歩目まで行った。右の壁に古い溝があった。祖父の溝でも自分のでもなかった」
ミアが少し眉を動かした。
「古いか」
「表面が滑らかだった。祖父のより、もう少し時間が経っていると思う」
「何本だ」
「一本だけだった。細くてまっすぐだった。隣に自分の刻みを入れてきた」
ミアが少し間を置いた。
「形は」
「細くてまっすぐ、それだけしかわからなかった。光があれば、もう少しわかったかもしれない」
ミアが扉に向かった。
「師匠に話しておく」
「頼む」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「降下通路の六十五歩目まで進みました。右の壁に溝がありました。一本です。祖父の溝でも自分の刻みでもありませんでした。表面が滑らかで、祖父のより古いと思います。細くてまっすぐな溝でした。隣に自分の二本目を刻んできました」
シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。
「六十五歩目に」
「はい」
短い間があった。炉の木がくすぶっていた。
「祖父の溝が途切れた先に、別の者の跡があったか」
「はい。いつ来たかはわかりません。でも表面の滑らかさからは、かなり前のことだと思います」
「そうか」
シルバがまた間を置いた。炉を見た。動かなかった。口を一度動かして、止まった。
「……ガルドが歩かなかった場所に、誰かが来ていた」
「はい」
「次は七十歩目だ。松明を三本持て。溝が増えるかどうか——数と形を必ず確かめてこい」
「わかりました」
「慌てるな。一歩ずつだ」
炉の火が揺れた。外は薄暗くなり始めていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「道が続く先に、別の者の足跡があることがある。それは先に誰かがいたということではなく、同じ場所へ向かった者が他にもいたということだ。跡を残した者の名前はわからなくていい。ただ、道が続いていたということだけが残る」
(六十五歩目に溝があった。祖父より前に、誰かがここまで来ていた。その隣に、俺が刻んだ。三本が並んだ)
棚を見た。通常品が四百三十三本。混合品が三十七本。
明日も採りに行く。




