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第90話:二つの道

 種蒔きから二百十一日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。


 第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。


 第三耕地に進んだ。五本が収穫の頃合いだった。一本ずつ丁寧に摘み取った。三か所に水をかけた。


 岩の隙間に霧花草の束があった。三枚が開いていた。刈り取って別の布袋に入れた。


 水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。苔の青白い光が続いた。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。


 二十六本目があった。


(また来た。この三日の間に来た)


 二十六本目だけが表面が荒かった。器の向きは変わっていなかった。


(待ってみる)


 棚のそばに腰を落ち着けた。松明の炎が揺れた。壁の苔の光と交じり合った。


 しばらくして、奥の開口部から足音が来た。一定の歩幅だった。急いでいなかった。


「ケルンさん」


「……俺だ」


「刻みが二十六本になっていました」


「そうか」


 少し間があった。


「前回から六十歩目まで進みました。溝がありませんでした。一本刻みました」


 ケルンが短い間を置いた。


「六十歩目に刻んだか」


「はい。祖父の溝が五十五歩目で途切れていたので」


「……そうか」


 また間があった。


「道の向こうに出た」


(道の向こうに)


「どういうことですか」


「通路が開けた。広い場所に出た。天井が高くなっていた。においが変わった」


「どんな場所でしたか」


「暗かった。苔はなかった。音もなかった。でかかった。奥がまだある。一歩だけ入って——戻った」


(一歩入って戻った)


「ガルドじいさんが言っていた場所だと思いますか」


 ケルンが少し間を置いた。


「わからない。ただ——においが違う場所に出た。古い土の匂いだ。山の上の土とは違う。ガルドが「あそこはそういう匂いがする」と言っていた場所のにおいだったかもしれない」


(ケルンが向こうに出た。俺は六十歩まで来た)


 少し間があった。松明の炎が揺れた。


「また来ますか」


「また来る」


 足音が奥の開口部の方へ遠ざかっていった。



 割れ目を抜けて大空洞に出た。水場の前で少し立ち止まった。


(ケルンが下から来ている。俺は上から来ている。同じ場所へ向かっている。二つの方向から)


 水面が松明の炎を映して揺れた。



 小屋に戻った。霧花草を刻んで別の鍋に入れた。ミストハーブと一緒に煎じた。乾燥台に今日の十本を並べた。炭に火をつけた。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が五百二十三本になっていた。一時間ほどで通常品十本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が五百三十三本になった。混合品が三十五本になった。


 記録の紙を取り出した。「刻みが二十六本に増加。ケルンが来訪。降下通路の向こうに広い場所があったと報告。古い土のにおいがした、との言葉。通常品五百三十三本。混合品三十五本」。



 昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「五百三十三か。混合品が三十五になったか」


「ケルンが来た。通路の向こうに広い場所があったと言っていた」


 ミアが少し眉を動かした。


「向こう側から来ている者が」


「そうだ。一歩入って戻ったと言っていた。暗くて、でかい場所だったと。古い土のにおいがしたとも」


「ガルドじいさんが言っていた場所か」


「わからない。でも近いと思う。俺は六十歩まで来た。ケルンは下から上へ来ている。どこかで——同じ場所へ向かっているんだと思う」


 ミアが少し間を置いた。


「師匠に話す。ゴルドにも」


「頼む」


 扉が閉まった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「刻みが二十六本になっていました。ケルンが来ました。通路の向こうに広い場所があったと言っていました。天井が高くなり、においが変わったと。一歩だけ入って戻ったと言っていました」


 シルバが炉の前でゆっくりと頷いた。炉を見たまましばらく動かなかった。


「向こう側から出たか」


「ガルドじいさんが言っていた場所のにおいかもしれないと言っていました」


「……そうか」


 また間があった。炉の木がくすぶっていた。


「二つの方向からたどり着こうとしている。お前が上から。ケルンが下から」


「そうなります」


「ガルドが作った道と、ガルドが教えた道だ。どちらも、同じ場所へ向かっている」


(ガルドが作った道と、ガルドが教えた道)


 シルバが炉を見た。


「急ぐな。でも止まるな」


「はい」


「次はセイロスからの返事が来る頃だ。月末も近い」


 炉の火が揺れた。外はもう暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「二つの方向から歩いてきた者が同じ場所で会う時、それは偶然ではない。それぞれがそれだけの道を歩いてきたということだ。何かが、その場所へ向かわせている」


(ガルドじいさんが作ったこと。ケルンに教えたこと。俺に残したこと。全部が、同じ方向へつながっている)


 棚を見た。通常品が五百三十三本。混合品が三十五本。


 明日も採りに行く。

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