第85話:遠い旅の話
種蒔きから百九十七日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。茎の弾力が今日もあった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。五株が育っていた。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから、一本ずつ摘み取った。第三耕地は話間に収穫していた。今日の頃合いの茎はなかった。三か所に水をかけた。
水場を通りかかった時、岩の隙間に霧花草の束があった。四枚が開いていた。刈り取って別の布袋に入れた。水に指先を入れた。今日も温かかった。
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が続いた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。
二十四本目があった。
(また来た)
今日は奥の開口部には入らなかった。そろそろドゥルガが来る頃合いだった。
割れ目を抜けて大空洞に出た。
*
小屋に戻った。霧花草を刻んで別の鍋に入れた。ミストハーブと一緒に煎じた。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。話間の第三耕地の収穫分五本も棚に加わっていた。乾燥台分を加える前の通常品が四百三十九本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百四十四本になった。混合品が三十三本になった。
記録の紙を開いた。「刻みが二十四本に増加。今日は奥には入らず。通常品四百四十四本。混合品三十三本」。
*
昼前、小屋の外に荷車の音がした。馬のひづめの音がして止まった。
扉が叩かれた。
「レイン。わしだ」
「どうぞ」
扉が開いた。ドゥルガが入ってきた。日焼けした顔。白い髭。いつもの格好だった。棚を一度見た。
「また伸びたな」
「おかげさまで」
「礼はいらん。物が良ければそれでいい」
ドゥルガが棚の前に立った。一本手に取り、光にかざした。薄い緑色が揺れた。匂いをほんの少し確かめた。それから戻した。
「今日も十本でいいか」
「はい。用意しています」
ドゥルガが銀貨二十枚を置いた。十本を選んで荷車の木箱に移した。作業しながら口を開いた。
「一つ伝えておくことがある」
「はい」
「ロウン街道から一日か二日のあたり——前に教会の格好をした人間がいると話したな。あれから集落の者に確かめたのだが、今度は集落の中で名前を出し始めているようだ」
「タルン村という名前をですか」
「そうだ。どこのポーションかを聞き回っている。集落の者は答えていないようだが、名前が出てきたのは一段進んだということだ」
(一段進んだ)
「わかりました。ありがとうございます」
「お前はどうするつもりだ」
「変えません。来た者には今まで通りに答えます」
ドゥルガが小さく頷いた。
「それでいい。焦らんでいい。お前のものはちゃんとしている。ちゃんとしているものは、焦らんでも必要な者に届く。ガルドもそうだった」
「祖父も、ですか」
「あいつも、焦ることがなかった。いつも同じ顔をしていた。商いの話をしている時でも、難しい話になった時でも、同じ顔だ。お前はよく似ている」
(よく似ている)
「ありがとうございます」
「来月もある。用意しておいてくれ」
「はい。十本以上は用意できると思います」
「そうしてくれ」
荷車の音が遠ざかっていった。
*
棚を確かめた。通常品が四百三十四本になっていた。混合品は三十三本のままだった。
記録の紙を開いた。「ドゥルガ来訪。通常品十本売却、銀貨二十枚。ロウン街道の集落でタルン村の名前が出始めているとの報告。通常品四百三十四本。混合品三十三本」。
*
昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「四百三十四本か。ドゥルガが来たか」
「そうだ。十本売った。ロウン街道の集落でタルン村の名前が出始めているとの話があった」
ミアが少し眉を動かした。
「名前が出たか」
「そうだ。教会の者が集落で聞いて回っているらしい。一段進んだとドゥルガが言っていた」
「師匠に話す。ゴルドにも」
「頼む。先日、教会の者が二度目に来た時のことも一緒に伝えてもらえるか」
「わかった」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「ドゥルガが来ました。十本売りました。ロウン街道の集落でタルン村の名前が出始めているとの話がありました。一段進んだと言っていました」
シルバが炉の前で頷いた。
「そこまで来たか」
「はい。教会の者が集落で直接名前を出しているようです」
「お前がすることは変わらないな」
「変えません」
少し間があった。炉の木が静かにくすぶっていた。シルバがゆっくりと炉から体を離して、こちらを向いた。
「一つ話す。遠い話だ」
(遠い話)
「はい」
「俺たちが若い頃、旅をしていた頃の話だ。お前が生まれるずっと前のことだ」
「はい」
「あの頃、世間では魔王がいると言われていた。ハナ王国の向こうの、険しい場所に。教会が言っていた。魔王を倒せば安寧が戻ると。英雄が向かわなければならないと」
「はい」
「俺たちは向かった。ガルドを先頭に。俺も、ゴルドも、ルウも、それぞれの場所でその旅にいた」
レインは黙って聞いていた。
「魔王のいる場所の入口まで、俺たちはみんなで行った。だが中には——ガルドだけが入った。一人で」
(一人で)
「俺たちは外で待った。長い間待った。ガルドが戻ってきた時、傷はなかった。だが——右手の甲に、跡があった」
(祖父の右手の甲の火傷跡——)
「祖父の右手の、あの跡が」
「そうだ。ガルドはその跡のことを、俺たちには話さなかった。何があったかも、話さなかった」
少し間があった。炉の火が揺れた。
「教会はその後、ガルドが魔王を倒したと言った。英雄が現れたと。だがガルドは否定もしなかった。ただ静かに、その話から離れていった。最終的にここへ来た」
「世間が言っていることとは——」
「違う。教会が語っていることとも違う。何がどう違うのかを、俺は全部は知らない。ガルドが話さなかったからだ。ただ——入る前と、戻ってきた後では、ガルドの目が少し変わっていた。それだけはわかった」
(目が変わっていた)
「今日はここまでだ」
「はい。ありがとうございます」
「礼はいらん。お前が続けているから、話せることが増えてきた。それだけのことだ」
シルバが炉の方を向き直った。
「刻みが二十四本になったか。ケルンは続けているな」
「はい。また来ると言っていました」
「そうか。お前も続けろ。松明を余分に持て」
「わかりました」
炉の火が静かに揺れた。外はもう暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「遠い場所のことを聞いた者は、その場所への道を持つことになる。道は体で歩くだけが道ではない。話を聞いた者の中に、道が続くことがある」
(祖父が一人で入った。右手の跡が残った。教会が言っていたこととは違う形で、何かがあった。シルバじいさんたちも全部は知らなかった。でも——続きはある。いつかわかる)
棚を見た。通常品が四百三十四本。混合品が三十三本。
明日も採りに行く。




