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第84話:二度目

 種蒔きから百九十四日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。茎の弾力が今日もあった。布袋に入れた。第一耕地で二本。第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。水場の水は今日も温かかった。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。苔の青白い光が続いた。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。二十三本のままだった。ケルンは来ていなかった。器の向きも変わっていなかった。


 今日は奥の開口部には入らなかった。


(五十五歩目はまた次の機会に)


 割れ目を抜けて大空洞に出た。



 小屋に戻った。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が四百二十本になっていた。一時間ほどで五本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百二十五本になった。混合品は三十二本のままだった。


 棚を整えた。記録の紙を開きかけた時、小屋の外に足音が聞こえた。


 一人だった。ゆっくりとした足取りだった。


(商人ではない)


 扉が叩かれた。


「入れますか」


 低い、おだやかな声だった。聞いたことがあった。


「どうぞ」


 扉が開いた。三十半ばの男だった。前に来た時と同じ、落ち着いた衣服だった。胸元に教会の印があった。


(また来た)


「先日はお世話になりました」


「こちらこそ」


 男が棚を見た。一本手に取り、光にかざした。薄い緑色が揺れた。


「今日もよい品ですね」


「ありがとうございます」


 男が丁寧に戻した。それからゆっくりとこちらを向いた。


「少し聞かせていただいてもいいですか」


「はい」


「霧穴の薬草からお作りになっていると聞きましたが——霧穴の中には、他に何か見つけたものはありましたか。薬草以外で」


(来た)


 少し間を置いた。


「薬草を採るために入っています。他に何かを探したことはありません」


「なるほど。お一人で入っておられるのですか」


「はい、一人で」


「危なくはないですか。霧穴は奥に進むほど足場が悪いと聞いています」


「浅いところにしか入りません。怪我をしたことはありません」


 男がもう一度棚を見た。何かを確かめるような目だった。


「他にお客様はいらっしゃいますか。遠くからここへポーションを買いに来る方は」


「ロウン街道を行き来する方が立ち寄ることがあります。エクラの商人の方にも取り扱っていただいています」


「エクラの商人」


「はい」


 男が小さく頷いた。それ以上は聞かなかった。


「一本、いただけますか」


「もちろんです。銀貨二枚です」


 男が銀貨を置いた。ポーションを受け取った。それから一礼した。


「また寄らせていただくかもしれません」


「いつでもどうぞ」


 扉が閉まった。足音が遠ざかった。



 しばらく動かなかった。棚を見た。通常品が四百二十四本になっていた。


(また来た。前回より踏み込んできた。薬草以外に何かあるかと聞いた。霧穴の奥のことを気にしている。エクラの商人の名前も出した)


 記録の紙を取り出した。「教会の者が二度目の来訪。「霧穴の中に薬草以外に何かあるか」「一人で入っているか」「エクラの商人に卸しているか」を質問。変えずに答えた。ポーション一本購入(銀貨二枚)。通常品四百二十四本」。


(揺れなかった。変えなかった)


 息をゆっくり吐いた。



 昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「何かあったか」


「教会の者が来た。二度目だ」


 ミアが少し眉を動かした。


「何を聞いてきた」


「霧穴の中に薬草以外に何があるかと。一人で入っているかと。エクラの商人の名前も出た」


「答えたか」


「薬草だけを採っていると答えた。一人だとも。エクラの商人については取り扱っていただいていると、それだけ言った」


 ミアが少し間を置いた。


「揺れなかったか」


「揺れなかった」


 ミアがうなずいた。


「師匠に話す。ゴルドにも」


「頼む」


 扉が閉まった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「教会の者が来ました。二度目です。「霧穴の中に薬草以外に何かあるか」と聞いてきました。「一人で入っているか」とも。エクラの商人については取り扱っていただいていると答えました。変えませんでした」


 シルバが炉の前でゆっくりと頷いた。


「揺れなかったか」


「はい」


「それでいい。それで十分だ」


 少し間があった。炉の木が静かにくすぶっていた。


「今度は踏み込んできたな」


「はい。霧穴の奥のことを気にしているのだと思います。前回より一段深い聞き方でした」


「そうだな。またいつか来るかもしれない。来るたびに一つ聞きを加えてくる。それが連中のやり方だ」


「はい」


「お前がすることは変わらない。変えるな。ここに何があるかを知られなければいい。それだけだ」


「わかりました」


「セイロスには、次に来た時に念を押しておけ。エクラの商人について聞かれたと伝えておけ」


「わかりました」


 炉の火が揺れた。外はもう暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「問いを重ねてくる者は、答えの中に道を探している。答えが変わらなければ、その者の道は消える。変えないことが、守ることになる」


(変えなかった。揺れなかった。霧穴のことは話さなかった。ここに何があるかは話さなかった)


 棚を見た。通常品が四百二十四本。混合品が三十二本。


 明日も採りに行く。

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