第83話:五十歩目
種蒔きから百九十一日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。茎の弾力が今日もあった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。五株が育っていた。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから、一本ずつ摘み取った。第三耕地は今日の収穫の頃合いになっていた。五本を摘み取った。三か所に水をかけた。
水場を通りかかった時、少し足を止めた。水に指先を入れた。今日も温かかった。
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が続いた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。
二十三本目があった。
(また来た)
二十三本目だけが新しかった。表面が荒かった。器の向きは変わっていなかった。
今日は奥の開口部に入ることにした。松明を二本持ってきていた。一本に火をつけた。
一歩入った。床が傾き始めた。二歩、三歩、四歩。右にわずかに曲がった。五歩目で足元が湿った。八歩目あたりで天井が低くなった。土の匂いが重かった。
十歩目の右壁に溝が一本。十五歩目で二本。二十歩目で三本。二十五歩目で四本。三十歩目で五本。三十五歩目で六本。四十歩目で七本。四十五歩目で八本。
四十六歩目、四十七歩目。土の匂いがさらに濃くなった気がした。四十八歩目、四十九歩目——
五十歩目に進んだ。右壁を確かめた。
溝が九本あった。
松明を近づけた。一本ずつ指でなぞった。九本とも同じ古さだった。丁寧に刻まれていた。
(九本。続いている。祖父は五十歩まで来た)
五十一歩目は踏まなかった。引き返した。
*
部屋に戻った。刻みをもう一度確かめた。二十三本のままだった。棚のそばに背をつけた。しばらく待った。
しばらくして、奥の開口部から足音が来た。一定の歩幅だった。急いでいなかった。
「ケルンさん」
「俺だ」
低い声だった。
「今日、五十歩目まで進みました。溝が九本ありました」
「そうか」
短い間があった。
「一つ聞いていいですか」
「何だ」
「ケルンさんはどこから来ているのですか。以前、下からと言っていましたが——その下というのは」
ケルンが少し間を置いた。
「深いところだ。ここよりずっと下に、別の道がある」
「霧穴の外ではないのですか」
「外ではない。つながっている。ただ——遠い」
(つながっている。霧穴はここだけではない)
「祖父も、その道を知っていたのですか」
「知っていた。ガルドに教えてもらった道だ」
(祖父が教えた)
「祖父は——最初から知っていたのですか」
また少し間があった。炎の影が壁を動いた。
「最初から知っていた。そういう男だった。どこに何があるかを、感じ取っていた」
(感じ取っていた——)
「また来ますか」
「また来る」
足音が奥の開口部の方へ遠ざかっていった。
*
割れ目を抜けて大空洞に出た。
(霧穴の下に別の道がある。ケルンはそこから来ている。祖父が最初から知っていた。感じ取っていた)
水場の前で少し立ち止まった。水面が松明の炎を映して揺れた。水に指先を入れた。温かかった。
(この水も、下から来ている。ケルンが歩いている道の、もっと深いところから)
*
小屋に戻った。乾燥台に今日の十本を並べた。炭に火をつけた。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が四百本になっていた。一時間ほどで十本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百十本になった。
記録の紙を開いた。「刻みが二十三本に増加。ケルン来訪。降下通路五十歩目を踏んだ。右壁の溝九本。ケルンが「霧穴の下に別の道がある・祖父が教えた道・感じ取っていた」と発言。通常品四百十本。混合品三十二本」。
*
昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。
「四百十本か」
「今日、五十歩目まで進んだ。溝が九本あった。ケルンと話した」
「何を聞いた」
「どこから来ているかを。霧穴の下に別の抜け道があると言っていた。ガルドが教えた道だと」
ミアが少し眉を動かした。
「霧穴の下に」
「つながっていると言っていた。遠いが」
「師匠に話す。ゴルドにも」
「頼む。あと——ケルンが、祖父はそういう場所を感じ取っていたと言っていた」
ミアが少し間を置いた。
「ガルドじいさんが」
「そうだ」
「……わかった」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「刻みが二十三本になっていました。ケルンが来ました。降下通路の五十歩目まで進みました。溝が九本ありました。ケルンに、どこから来ているかを聞きました。霧穴の下に別の道があると言っていました。ガルドが教えた道だと。最初から感じ取っていた、と言っていました」
シルバが炉の前でゆっくりと頷いた。
「ガルドはそういう男だった」
「感じ取ることができたのですか」
「場所を読む、と俺たちは呼んでいた。どこに何があるか、どこがどことつながっているかを——ガルドは体で感じていた。言葉では説明しない男だったが、行動を見ていればわかった」
(場所を読む)
「それが、英雄と呼ばれたことと関係があるのですか」
シルバが少し間を置いた。炉の火が揺れた。
「関係している。その感覚があったから——ガルドは、誰も行けなかった場所まで行けた。それだけは確かだ」
「誰も行けなかった場所というのは」
「今日はここまでだ。続きはいつかわかる」
「はい」
「五十歩目を踏んだか。次は五十五歩目だ。松明を余分に持て」
「わかりました」
炉の火が静かに揺れた。外はもう暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「道を作った者が消えても、道は消えない。道を歩いた者が消えても、歩いた跡は残る。次に来た者が踏んだ跡が積み重なる。そうして道は続いていく」
(祖父が歩いた道を、ケルンが歩いている。俺も歩いている。感じ取る力が俺にあるかどうかはわからない。でも足は動かせる。一歩ずつ踏むことはできる)
棚を見た。通常品が四百十本。混合品が三十二本。
明日も採りに行く。




