第80話:七本
種蒔きから百八十二日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。茎の弾力が今日もあった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。五株が育っていた。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから、一本ずつ摘み取った。第三耕地は昨日のうちに五本を収穫していた。今日は頃合いの茎がなかった。三か所に水をかけた。水場の水は今日も温かかった。
水場の前を通りかかった時、少し足を止めた。岩の窪みに溜まった水が静かに光を反射していた。霧が薄く漂っていた。ここは静かだった。いつ来ても静かだった。
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が左右から静かに続いた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。二十一本のままだった。ケルンは来ていなかった。器の向きも変わっていなかった。
今日は奥の開口部へ向かった。松明を一本持ち替えた。
一歩入った。床が傾き始めた。二歩、三歩、四歩。右にわずかに曲がった。五歩目で足元の土が湿った。七歩、八歩。天井がわずかに低くなった。手を伸ばすと届いた。松明の炎が壁の岩をなめるように照らした。土の匂いが重かった。
十歩目の右壁に溝が一本。十五歩目で二本。二十歩目で三本。二十五歩目で四本。三十歩目で五本。三十五歩目で六本。
三十六歩目、三十七歩目。通路がほんの少し右に向きを変えた。三十八歩目、三十九歩目——
四十歩目に進んだ。右壁を確かめた。
溝が七本あった。
松明を近づけた。一本ずつ指でなぞった。七本とも同じ深さだった。同じ古さだった。表面は滑らかだった。どれも丁寧に、急がずに刻まれたものだった。
(七本。シルバじいさんが言った通りだ)
四十一歩目は踏まなかった。引き返した。
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部屋に戻った。刻みをもう一度確かめた。二十一本のままだった。割れ目を抜けて大空洞に出た。入口から差し込む光が複数の筋になって床に落ちていた。霧が白く揺れていた。スケイルリザードの姿はなかった。
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小屋に戻った。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。昨日の第三耕地の五本の収穫分も棚に加わっていた。乾燥台分を加える前の通常品が四百九十本になっていた。一時間ほどで五本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百九十五本になった。
記録の紙を開いた。「刻みは二十一本のまま変化なし。器の向き変化なし。降下通路四十歩目を踏んだ。右壁の溝七本。シルバじいさんの言葉通り。通常品四百九十五本」。
(四十歩目に七本。溝のパターンはまだ続いている。次は四十五歩目のはずだ)
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昼すぎ、ミアが来た。扉を叩いてから入ってきた。棚を端から端まで見た。
「四百九十五本か」
「そうだ。今日、降下通路の四十歩目まで行った。溝が七本あった」
ミアが少し間を置いた。
「シルバじいさんが言った通りか」
「そうだ」
「師匠のところへ行ってきた。セイロスから連絡が入ったと言っていた。三日後に来ると」
「わかった。百五十本は用意できている」
「混合品はどうする」
「今月は通常品だけでいい。混合品は手元に置いておく」
「そうか」
ミアが椅子に腰を下ろした。
「教会の者がまた来た様子はあるか」
「今日はなかった。様子を見ている段階だと思う」
「そうか」
ミアが立ち上がった。出がけに一度こちらを向いた。
「シルバじいさんのところへ行くか」
「夕方に行く」
「そうか」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「刻みは二十一本のままでした。器の向きも変化なし。降下通路の四十歩目まで進みました。右壁の溝が七本ありました」
シルバが炉の方を向いたまま頷いた。
「七本あったか」
「はい。全部同じ古さでした。丁寧に刻まれていました」
少し間があった。炉の木が静かにくすぶっていた。
「シルバじいさん」
「何だ」
「一つ聞いていいですか」
「言ってみろ」
「あの溝は——誰が刻んだのですか」
シルバがゆっくりと炉から体を離して、こちらを向いた。
「ガルドだ」
沈黙があった。炉の火だけが揺れていた。
「祖父が、あの通路を歩いたのですか」
「何度も歩いた。歩くたびに一本ずつ刻んでいった。どこまで進んだかを自分で覚えておくためだ」
「いつのことですか」
「お前が生まれるずっと前だ。ガルドがここに来てすぐの頃の話だ」
しばらく何も言えなかった。シルバが続けた。
「以前、一緒に遠くへ行ったと言ったな」
「はい」
「その旅の末に——ガルドは英雄と呼ばれることになった。俺もその場にいた。仲間の一人として。ゴルドも、ルウも、それぞれの形でそこにいた」
(英雄と呼ばれた場に、シルバじいさんも、ゴルドも、ルウも——みんなそこにいた)
「何があったのですか」
「今は詳しくは言えない。ただ、一つだけ言う」
シルバが少し間を置いた。
「世間がガルドを英雄と呼ぶ理由と、ガルドが実際にしたことは、違う。教会が語っているものとも、違う」
「教会はその違いを知っているのですか」
「知っている。だからこそ、ガルドが生きている間は手が出せなかった。今ここへ来ているのは、その違いがここにつながっているからだ」
「霧穴が——」
「つながっている。全部つながっている。今日はここまでだ」
「はい」
シルバが炉の方を向き直った。
「四十歩目の先へ、近いうちに進め。急がなくていい。ガルドが歩いた道だ。同じように歩けばいい」
「わかりました」
炉の火が静かに揺れた。外はもう暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「知ることと、理解することの間には時間がある。知ることは一瞬でできる。理解することには続きが要る。今日知ったことを持って、また明日へ向かえ。それが続きを作る」
(祖父が英雄と呼ばれた理由と、実際にしたことは違う。シルバじいさんもゴルドもルウも、その場にいた。あの降下通路の溝は、祖父が一本ずつ刻んでいった。同じ道を、今俺が歩いている)
棚を見た。通常品が四百九十五本。混合品が三十一本。
明日も採りに行く。




