第8話:材木と金具
翌朝、ミアが手書きの図面を持ってきた。
革紙に炭でさらさらと描いた小屋の骨組み図だ。寸法が書き込まれていて、金具の入る箇所には丸印がついている。乾燥台と棚の位置まで決まっていた。
「棚は三段。乾燥台は入口から離れた奥の壁に寄せる。そうすれば薬草の匂いが作業台の方に流れにくい」
「よく考えてくれた」
「当たり前のことだけ。それより材木は?」
「シグ爺さんのところへ行ってみる。古い材を持ってると聞いた」
ミアは図面を折って渡した。「持ってって。必要な寸法と本数が書いてある。確認して合ってるもので頼んで」
*
シグ爺さんは七十に近い男で、昔は大工仕事をしていたが今は畑と鶏の世話だけをして暮らしている。家の裏に古い材が何本か積んであるのを、レインは以前から知っていた。
声をかけると、しぶしぶ立ち上がって裏へ案内してくれた。
「これかい。十年以上前に余った分だよ。ちゃんと乾いてるが、もう使う当ても——」
「七本ほど分けてもらえませんか。長さと太さはこれで」
図面を見せると、爺さんはしばらく眺めた。「この長さなら三本はある。残りは切り詰めれば出るかもしれん」
「いくらですか」
「そうだな。銀貨一枚でいい。どうせ置いておいても使わん」
銀貨一枚。レインには今、ドゥルガから受け取った銀貨四枚がある。一枚使えば三枚残る。
「ありがとうございます。後で取りに来ます」
帰り道、レインは少し頭の中で金の感覚を確かめた。ガルドじいさんと二人で暮らしていた頃は、金を使う機会が少なかった。食べ物は畑から取れた。薪は山から拾った。塩と油と、たまに道具の修理に使うぐらいで、月に一枚も銀貨を動かすことはなかった。行商人が来るたびに「村の皆が一月に使う銀貨は、全部合わせても十枚あるかないか」と言っていたのを聞いたことがある。
それで比べれば、銀貨一枚は決して小さくはない。だが、ポーションが一本銀貨二枚で売れるなら——ポーション半本分の値段で骨格材が揃う。
悪くない取引だと思った。
*
昼前にシルバじいさんのところへ寄った。小屋に薬草の乾燥台を作りたいが、どういう設備があればいいか相談するためだ。
「火乾燥用の棚なら、金網を張ってその下で炭を熾けば早い。俺もそうしてる」とじいさんは言って、竈の隣にある小さな棚を指した。「三十分から一時間もすれば十分乾く。強火は禁物だが、弱い熱でゆっくりやれば品質は落ちない」
「その仕組みを小屋に移せますか」
「炭と金網と、それを置く石か煉瓦があればいい。難しくない」
「煉瓦はどこで手に入りますか」
「エクラ市ならある。ただ運んでくるのが大変だな」じいさんは少し考えた。「村の外れに崩れかかった古い竈がある。ハルトじいさんのところだ。使っておらんから、話してみたらどうだ」
用件を済ませて、帰り際にレインは聞いた。「ガルドじいさんも、薬草を乾燥させていたんですか」
シルバじいさんはしばらく間を置いた。
「さあ。自分で薬を作るような人間じゃなかったな。ただ、山の草をよく持って来ていたのは覚えてる。どうしてたのかは知らん」
「そうですか」
「あの人は自分のことを話さん人間だった」
それはレインも知っている。
*
夕方、鍛冶場へ寄ると、ミアが小さな包みを差し出した。
開けると、鉄の金具が三つ入っていた。棚の受け金物だ。図面の寸法通りに作られている。
「早い」とレインは言った。
「材料が揃ってたから」
手に取ってみると、角のひとつひとつが均一に整っている。ただ形を合わせただけでなく、接合部の厚みが微妙に調整されているのが指先でわかる。師匠のゴルドに頼んでも、ここまで丁寧に仕上げてもらえたかどうか。
「すごい出来だ」と思わず言った。
「普通のことだよ」とミアは返した。でも、その手つきは普通と呼ぶには少し鮮やかすぎる気がした。何かを見ているようで——石の中の何かを読むように、金属を扱っている。
「残りの金具は三日で揃う。材木の運搬は週末でいい?」
「助かる」
「礼はいらない。早く完成したほうが私も気が済む」
そう言って作業に戻ったミアの後ろ姿を、レインはしばらく見ていた。
翌日、ハルトじいさんから煉瓦を十二枚譲り受けた。古い竈の崩れた分で、運べばそのまま使えると言う。礼に野菜を一袋渡したら、喜んでくれた。
材木と金具と煉瓦。あとは人手だ。
レインは同い年の村人に声をかけながら歩いた。週末に一日だけ手を貸してほしい、と。断られることも多かったが、カヨスという男が「一日だけなら」と引き受けてくれた。
ゴルド師匠にも、ミアが話をしてくれると言った。
形が揃ってきた。




