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第76話:仲間の一人だった

 種蒔きから百七十日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。第一耕地で二本。第三耕地は今日が収穫の頃ではなかった。三か所に水をかけた。


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。苔の青白い光が左右から続いた。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。


 一本、二本、三本、四本、区切り、六本、七本、八本、九本、十本、十一本、十二本、十三本、十四本、十五本、十六本、十七本、十八本、十九本——二十本目があった。


(ケルンが来た)


 二十本目だけが新しかった。表面が荒かった。器の向きは変わっていなかった。


 今日は部屋の中に長くいるつもりはなかった。刻みを確かめたら戻るつもりだった。ただ少しだけ、立ち止まった。


(二十本になった。ケルンは来るたびに刻んでいる。ここが自分の道の途中だということを記録している。祖父が言っていた場所へ向かっている)


 割れ目を抜けて大空洞に出た。スケイルリザードの姿はなかった。



 小屋に戻った。乾燥台に五本を並べた。炭に火をつけた。この三日の間に積み上がっていた分を含めると、乾燥台分を加える前の通常品が三百九十六本になっていた。一時間ほどで五本が仕上がった。棚に加えた。通常品が四百一本になった。


 記録の紙を開いた。「刻みが二十本に増えた。ケルンが来た。器の向きは変化なし」と書いた。


 在庫の数字の下に「通常品四百一本」と書いた。棚を見た。薄い緑色が並んでいた。



 昼すぎ、ミアが来た。


 扉を叩いてから入ってきた。棚を一度見た。


「四百一本か」


「そうだ」


「刻みは」


「二十本になっていた。ケルンが来ていた」


 ミアが頷いた。


「教会の続報は」


「今日は何もない。昨日シルバじいさんに報告した」


「師匠にも伝えた。師匠は『タルン村の名前が出た時が次の段だ』と言っていた」


「そうか」


 少し間があった。


「師匠がゴルドの小屋へ久しぶりに行ったそうだ」


「膝の様子か」


「そうだ。問題ない。階段の下り方が変わったと師匠が言っていた。混合品を使い始めてから一度も重くならなかったと、ゴルドが自分から言ったそうだ」


「そうか」


「ゴルドが師匠に話したことがあった。ルウと会った時のことだ。『昔の仲間を知る者がここに来るとは思わなかった』と言ったこと」


「聞いた」


「師匠がその後ゴルドに聞いたそうだ。どんな仲間だったかと」


(聞いたのか)


「何と言っていたか」


「一緒に遠くへ行ったことがある人間だとだけ言った。それ以上は言わなかった。でも師匠には、それだけで十分だったと言っていた」


(一緒に遠くへ行ったことがある人間)


「そうか」


 ミアは立ち上がった。扉の前で一度止まった。


「師匠が一つ言っていた。シルバじいさんにも聞いてみていいと」


「何を聞けと」


「一緒に遠くへ行ったことがあるかどうかを」


 扉が閉まった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「刻みが二十本になっていました。ケルンが来ていました」


「そうか」


「ミアから聞きました。ゴルドが師匠に、ルウのことを一緒に遠くへ行ったことがある人間だと言っていたと」


 シルバが炉の方を向いた。しばらく何も言わなかった。


 レインは続けた。


「シルバじいさんは、祖父と一緒に遠くへ行ったことがあるのですか」


 しばらく間があった。炉の火が揺れた。音がなかった。


「ある」


「そうですか」


「一緒に旅をしていた。仲間の一人だった」


(仲間の一人だった)


 レインは何も言わなかった。


 シルバが続けた。


「ガルドが英雄と呼ばれていたことがある。知っているか」


「知りません」


「そうだな。ガルドは話さなかっただろう。俺も今は詳しくは言えない。ただ、そういうことがあった。そういう時代があった。俺たちはその中にいた」


(英雄。祖父が英雄と呼ばれていた時代があった。シルバじいさんはその仲間だった)


「いつかは教えてもらえますか」


「言える時が来たら言う。ガルドが順番を決めていた。その順番を俺は守っている」


「わかりました」


 少し間があった。


「一つだけ言っておく。ガルドが英雄と呼ばれた理由は、世間が思っているものとは違う。それだけは今から知っていていい」


「どういう意味ですか」


「言える時に言う。今日はここまでだ」


 炉の火が揺れた。シルバは炉の方を向いたままだった。


「ケルンの刻みが増えているなら、ケルンはまだ来ている。次に会えたら、続きを聞ける機会があるかもしれない」


「はい」


「急ぐな」


「わかりました」



 夜、経営の書を開いた。


「人の過去は、その人が今ここにいる理由になっている。理由を聞かずとも、今の姿が教えてくれることがある。知りたい時は待て。知る前から準備ができる」


(シルバじいさんが祖父と一緒に旅をしていた仲間の一人だったと言った。祖父が英雄と呼ばれていた時代があったと。ゴルドも一緒だった。遠くへ行ったことがある。ルウも繋がっていた。ケルンが下から来ている。みんなが何かを知っている。俺はまだ知らない。でも、いつかわかると言っていた。ガルドが順番を決めていた)


 棚を見た。通常品が四百一本。混合品が三十本。


 明日も採りに行く。

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